017
「何を一人でブツブツ言いながら歩いてるの?」
カナメは突然声を掛けられ、驚き振り向いた。一人での行動であったし、ゲーム内であることから完全に油断していた。
「……あっ。……なんだサクラ……さんですか」
「フフ、あなたでも、そんな風に驚くこともあるのね」
「そりゃぁ、突然話しかけられれば驚きます。……でも、どうしたんですか?」
「カナメが迷子にならずにお屋敷までたどり着けるか心配になったから、お姉ちゃんが来てあげたのよ」
「迷子になんてならないし、俺にはお姉ちゃんなんていません」
サクラの言葉に抵抗してはみたが余裕の態度で受け流されてしまった。
「あのクエストに他のプレイヤーが参加するとは思えないけど、律儀に説明を聞きに行くんでしょ?」
「まぁ、そうですね。まだ情報が何もないので」
「本当にやるの?」
「もちろんです。そのために向かっているんですから」
「でも、生死をかけた時間の中でドレス作りなんて意味あるの?もっと違うことに時間を使った方が……」
生死をかけたゲームであるはずがカナメからは緊張感が全く伝わってこない。世間的には大々的に報道され始めて社会問題になりつつもある。
「これは俺にとって必要なことです。生死がかかっているからこそ、やらなければならないクエストです。ある意味では戦闘をするより危険かもしれない」
「お裁縫が危険?」
「お裁縫だけなら危険はありませんけど、それが第一段階になる」
全く理解できていない様子でサクラはカナメの話を聞いていた。それでもカナメを信じることに迷いは感じていない。
「……それなら、第一段階をクリアするためにお屋敷に急ぎましょうか」
前を歩き始めてしまったサクラに渋々ながらカナメは従った。
二人が屋敷に着いた時、このクエストに別のプレイヤーが参加すると知り驚かされた。そして、その参加者も説明を聞くために屋敷に来ている。自分たちの命が危険な状況でドレス作りを最初に選ぶプレイヤーはカナメ以外に存在しないと思っていたが違っていた。
カナメとサクラ以外に男二人と女一人の三人組が来ていたが、参加するのは女の子一人らしい。その中の男一人は腕組みをして満足気な表情を浮かべて連れの二人を見ているので引率者だと思われる。
「まさか、他にも参加者がいるなんて驚きね」
「はい。これは俺も予想してませんでした」
「……たぶん、あちらも同じだと思う。ずっと私たちを見てるわ」
こちらが他の参加者を予想していなかったように、相手も予想外の展開だったのだろう。