016
「……予想以上に静かになったな」
昼の街に出てみてもNPCの方が多く、クリアに向けて積極的に動くプレイヤーの数は少ない。
武器や防具を買うために店に入っても使える資金が少なく諦めて肩を落として店を出てくる者ばかりだった。基本RPGであり、戦闘の結果で得られるアイテムを売って資金を獲得するシステムだから戦闘を避けているプレイヤーだけなので仕方ない。
「カフェの経営で得られるお金も多くないし、結局は同じだな」
戦闘をメインに楽しもうと考えていても、戦闘以外で楽しもうと考えていても同じことだった。
「これはクリアさせる気なんて最初からなかったと考えるべきか?」
死者が本当に出てしまったことで、学校も企業もゲームを優先させるよう行政機関から指示が出されていた。数日で『New Theory Noah’s Arc』への見方は大きく変わっている。
そして、このゲームで厄介な点は戦闘で命を落とすことだけではなかった。
「……日付が変わるときにパーティー全員が揃っていないと命を落とす。これも縛りが厳しいな」
カナメが立ち止まって周囲を見回すと誰かを探すようにキョロキョロしながら歩いているプレイヤーの姿がある。常に仲間が裏切らないかを確認していなければ安心できないのだろう。
「仲間がログアウトしたまま戻って来なければ、残された者は死ぬかもしれない。……それでもクリアしようとして戦闘を繰り返せば死ぬかもしれない」
カナメは再び歩き始めた。独り言では『かもしれない』と言ってはいるが、報道された内容でプレイヤーたちの死は確実になっている。
歩きながら指先を動かしてメニュー画面を開いた。
「これも、予想外だった」
カナメの前に展開している画面は『ゲーム参加者死亡情報』であり、そこには『プレイヤー名』とは別に本名が記載されている。
本名だけではなく年齢や学校名・勤め先、簡単な居住地などの個人情報が晒されており、ゲームオーバーになった理由も書かれてあった。
「……でも、これだけの情報では足りないのか」
カナメには、ここに記載してほしい情報があった。ゲーム制作者が、その情報を敢えて記載していないような考えもありカナメは嫌な予感がしている。
それでも、カナメは自分が今出来ることを最優先させるため『ドレスが必要なお嬢様』がいる屋敷に向かうことにした。