015
「クリアって……、お料理やお裁縫が得意になっても意味ないと思うけど?」
「急がば回れってことです」
仮想世界でのゲームは現実世界での身体能力も加味される設定になっていた。
レベルを上げることで実際の身体能力を補うことになるのだが、三ヶ月という期限を考えればサクラたちの出来ることは少ないかもしれない。このパーティーで本当にクリアを目指すのであればカナメ以外に可能性はない。
「……カナメ君、私たちに合わせてくれてる?他のパーティーに参加してれば、カナメ君はもっと効率的にゲームを進められるんじゃない?」
ユリがカナメに聞いた。
「そんなことはないです。おそらく他のパーティーに参加していたとしても同じことをして、仲間には同じことを要求します。……出来ればゲーム参加者にも同じことをしてほしいくらいだから」
「えっ!?……全員に同じことを?」
「はい。本当は犠牲者が出ないように同じことから始めたかった。でも、それは難しい」
「……それは自分の命が危ないときに料理や裁縫をするのは難しいと思うけど」
「いえ、難しいのは別のことです」
そう言うとカナメは自分の指先を見ていた。
カナメの行動を見てサクラたちも自分の指先を見たが、仮想世界の体であることを忘れてしまうくらい完全に再現されていることだけが判る。
「時間がかかっても構いません。適度にログアウトもして、三ヶ月間をギリギリ使うくらいの気持ちでいきましょう」
「……このままゲーム参加者が誰も犠牲にならずに終われるかな?」
「無理ですね。残念ながら俺たちが防げることがあるとしたら、全滅だけです」
ここでのカナメの言葉通り、この日にレベル上げを試みていたプレイヤーたちが数名ゲームオーバーになっていた。
そして、ゲームオーバーは現実での死を意味しており、ゲームで死者が出たことで大々的に報道されることになる。半信半疑で様子見をしていたプレイヤーたちも改めて緊張感を持ってゲーム攻略を目指さなければならなくなった。