014
「それで私もカレー作りに協力すればいいの?」
サクラは少しだけ不満げにカナメに聞いた。
「もちろん三人で協力し合って作ってください。お互いに意見を出し合うことは大事ですから」
「……あなたは何をするの?……まさか、自分だけ危険なことをするつもりじゃないの?」
「危険なことなんてしません」
カナメは、そう言うときれいに折りたたまれた紙をポケットから取り出した。一人で情報収集をしてきているのは知っていたが細かな目的は聞いていない。
「まずは、このクエストをしてみようと思っています」
三人はカナメが広げた紙に書かれている内容を真剣な顔で読み始める。
「『誕生日パーティーでお嬢様が満足するドレスの製作者求む!』……。これ何?」
「お嬢様が満足するドレスを作るんです」
「たぶん『裁縫スキル』だけじゃなくて現実世界での経験とかも影響するレベルだと思うけど、お裁縫の経験は?」
「雑巾は縫ったことありますね」
三人にはカレーを作れと言い、自分は経験もない裁縫でドレスを作ると言っている。ゲームの緊迫した状況とは違い、カナメは本当に楽しもうとしているように感じた。
「あとマジックとかリアルでやったことなかったから、こっちでスキルを手に入れて挑戦してみようかと思ってます」
それでも一応はクエストになるので報酬が関係しているとサクラは考えて、用紙を最後まで読んでみることにした。
「『お嬢様を満足させることに成功した者には『不思議なお裁縫セット』を与える』?……貴重な武器とか防具とかじゃなくて、お裁縫セット?」
「ドレスを作った報酬が武器防具なわけないと思いますよ」
「でも、『不思議なお裁縫セット』ってことは戦闘にも使える可能性も?」
「ゼロではないと思いますけど、所詮は『お裁縫セット』ですから。……それに報酬が目的じゃなくて参加することに意義があるんです」
力説しているカナメを見て、三人は呆れてしまっていた。ゲームの中で命を落とすことを全く否定しなかったカナメが一番クリアすることを考えていない発言をしている。
ドレス作りの期限が三週間とあるので期限までの三分の一近くを費やして、カナメは無意味とも思えるクエストに参加しようとしていた。
「三人に不信感を持たれても困るので先に言っておきますが、クリアしたい気持ちはゲーム参加者の中で俺が一番強いと思います」
そう言ってカナメは三人に笑顔を見せた。