012
ゲーム開始後、数日が経過して誰も死ぬことはなかった。
これはゲームオーバーになった者や日付が変わるときにパーティーが揃っていなかった中で死者が発生していないわけではない。プレイヤーの誰もが危険な戦闘を行わず、24時をパーティーが揃って過ごすことを徹底していただけになる。
「みんな『ゲームで死ぬわけがない』なんて信じていないようなことを言っていても、やっぱり怖いんだよね」
ユリが言った。
とりあえずカナメたちも数日は様子を見ながら行動を決めようと話し合っていた。それぞれに情報収集をしてはいたが、安全な街から出ることなくプレイしている。
「万が一を考えているんだと思います。確信が持てないだけに、逆に厄介かもしれません」
「厄介?」
「はい。時間を無駄に過ごさせるには有効かもしれません」
ユリとナデシコは溜息をついた。
「そうね。もし本当に命を奪われることになると分かっても、期限は三ヶ月と決められているんだから」
肩を落としている二人に代わってサクラがカナメと会話を進める。
「ただ、気になることもあります」
「気になることって何?」
「24時を過ぎると表示される情報のことです」
「『現在のログイン数』と『ゲーム参加者死亡者情報』の画面のこと?」
「それです。……どうして分けて表示する必要があるのかは気になってます」
「それはログインしている人数が減っても現実に亡くなっているか分からないからでしょ?」
「ログアウト=現実での死。その情報を与えるためだけですか?それだけならログアウトした時にニュースを確認すれば分かるはずですよね」
カナメが何を気にしているのか三人は真意が分からないでいた。ゲームにログインすることが出来なくなった者が現実で亡くなっていることを報せるだけの画面と認識していたからである。
「すごく嫌な感じがします」
「嫌な感じ……」
「この島の名前は覚えていますか?」
「えっ?……ユースティティアだけど」
「ローマ神話の女神の名前らしいです。『正義』の語源になっています」
「『正義』?……やっていることは全然かけ離れているのに?」
「意味もなく、そんな名前を付けるとも思えません」
このまま膠着状態が続けば無意味に三ヶ月を過ごすことになるが、本当に死者が出た場合に危険を冒してゲームクリアを目指すパーティーが出てくるかも疑問だった。
「ゲームに参加している5984名が、どう判断するのか」