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「あと一つは俺をパーティーに誘ってくれたことを感謝してます」
「……どうして?」
「何も知らないまま、このゲームを傍観するだけの立場になっていたら俺は後悔します」
「命の危険があっても?」
「はい。だから、こそ」
カナメの言葉に迷いは一切感じられなかった。本当に危険であるからこそ、カナメがこのゲームに参加する意味を見出しているようにサクラは感じていた。
「それなら私は、私たちはあなたを誘ったことを省みることはしないわ」
「もちろんです」
カナメこと小鳥遊司は何かを知っているのかもしれないが、サクラこと朝比奈桜子は問い質すことをしなかった。理由は、司が自分の命を危険に晒している状況を喜んでいるのではなく、この状況を打開しようとしていると感じたからだった。
「無事に、このゲームをクリア出来るのかしら?」
「まぁ、かなり大勢のプレイヤーが参加しているみたいなので何とかなりますよ」
「あら?他力本願なの?」
「俺はゲーム初心者なんですよ。慣れた人に任せるのが一番です」
この反応は意外だった。
この状況を理解して、このゲームに参加していなかったら後悔すると言ったカナメがクリアを他人任せにしようとしている。真意なのか嘘なのかはサクラに分からなかった。
「せっかく高校も入学したばかりですけど、どうなるのか分からないし」
「順番にログアウトは出来るけれど、普通に通うのは難しいと思うわ」
「ですよね」
サクラとカナメは同じ高校に通っていたが、学年は違いサクラは高校2年でカナメは高校1年である。ユリとナデシコも同じ高校でサクラと同学年だった。
「経営者の親がいる生徒が多く通う学校だから、私たち以外にもゲーム参加者がいるかもしれないわね」
「……コネがありますもんね」
「嫌な言い方しないで」
サクラも親の会社の関係性で何とか入手している。普段であれば絶対に使わない手段であるが、今回はサクラも入手することを最優先に考えていた。
カナメが冗談ぽく言った後で急に真顔になり何か考え事を始めた。『YRK-35G』の入手経路に関して何か引っかかることがあったのかもしれないが、サクラにはカナメの考えが全く分からない。