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俺は剣士だ、剣を振らせろ!  作者: 寝巻乃朝子
修行するための修行がしたい
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8

 約束の時間にポエットの店に行くと、今回はちゃんと店にいた。代わりに、もうひとり年若い女性も一緒にいる。ポエットに面差しがよく似ているので、家族だろうか。


「来たね。ほら、ご所望のもんだよ」

「ああ、ありがとう」

「ちょっと、伯母さん! 商品を投げ渡すなんて何考えてるの!」


 軽く放られた小袋を受け止めて中身を確認していると、見咎めたポエットの姪らしい女性が眉を吊り上げて怒り声をあげる。しかし、いつものことなのかポエットは聞く耳持たずまた別の一回り大きい袋を差し出してくる。


「泡ガニの素材が金になったそうだから、あんたの取り分だよ」

「回収してきたのか?」

「あたしじゃないよ。順を追って説明するけどね、こないだ森に行ったとき、ずいぶん苦労しただろう」

「伯母さん! 話が長くなるならお客様を立たせたままにしないで、お茶も出して!」


 腰を据えて話し出そうとしたポエットを遮って、姪が分かりやすくぷりぷりと怒りながら茶の用意をする。言われたポエットはうんざりした顔をしながら、俺に座敷に上がって座るようにと示した。出された茶は、初日にポエットが出してくれた薬湯ではない、普通のお茶の味がする。皇都で飲んだのは紅茶だったが、こちらは烏龍茶の香りに近いので薬湯の一種として置かれているのかもしれない。


「もう、ほんっと伯母さんは気が利かないんだから」

「うるさいねぇ。文句言ってる暇があるなら、早く素材の処理の仕方覚えな。今朝言ったこと、まだ終わってないんだろ」

「今からやります!」


 どこでもありがちなやりとりをして、姪は店の隅に並べられている乾燥した植物の束を抱えて出ていった。


「いいのか、あの人」

「気にしないでいいよ。あたしの世話してるつもりなのか、どんどん口やかましくなるんだよ」

「あんた、見るからに生活力なさそうだしな。いいじゃないか、世話してくれるんならありがたいことだろう」

「そうは言ってもねぇ、薬師になりたいってんで通ってるんだから、あたしの世話焼く前にさっさと薬師の勉強してくれないとあたしがあの子の親に怒られるんだよ」


 気が利かないと言われたポエットは、態度で分かりづらいだけでやっぱり面倒見がいい。親にも反対されていることに首を突っ込む姪なんて、さっさと追い返してしまえばいいだけだと、あの姪が気づくことがあればいいのだが。


「それはそうと、話の続きだよ」

「うん? ああ、そうだな。悪かった、むやみにあの虫を刺激するようなことをして」

「謝らないでいい。その虫のことだけどね、本来あんなに攻撃してくるのはおかしいんだよ」

「おかしい?」

「そう。隠れ飛蝗、ここいらでは臆病飛蝗なんて呼ばれるあいつは、主に蔦の葉の陰に隠れて滅多に姿を見せることはないのさ。それに、何匹も何匹もまとまっていることもないね。一本の木に一匹いるかどうかってやつで、刺激されたからってあんなに広範囲に大量の攻撃を仕掛けてくるなんて、あたしは初めてだった」


 ポエットがどれくらい前からこの町にいるのか知らないが、森を歩いていた時の様子からしてとても慣れているようだった。元軍人で戦える人だから、その分森に入る回数も多いのだろうし、元からモンスターにも詳しいのだと思う。そんな人が初めてだと言うのだから、よほどのことなのだろう。

 

「あの時は、たぶん百匹以上あそこにいて、攻撃してきてたな」

「だからおかしいのさ。泡ガニは繁殖期後で集まってる時期だからいいとして、臆病飛蝗は繁殖期の後だってあんなに数が集まったりしない。ま、そういうわけで、今森の調査隊が組まれて毎日森の中練り歩いてるから、まちがって攻撃されたりしないように気をつけなよ」

「分かった。けど、それなら昨日会った時に言ってくれても良かっただろう」

「別にいいじゃないか、昨日だって、あんたは森から出てきたところだったんだから」


 それはそうかもしれないが、それですまされると困ることでもある。実際、今日もここに来る前に町の外に出て街道沿いをしばらく走ってきた。体力作りのためしばらくは走ったり筋トレをするつもりでいるが、同時に道が整備されていない森の中を歩くのだっていいトレーニングになる。まずは様子見にと走りに行っていなかったら、すでに調査隊とやらに鉢合わせていたかもしれない。


「それで、調査隊の連中が倒したモンスターの素材を回収してきてくれてね、その買取金がこれだよ」

「そんなこともしてくれたのか?」

「調査だけってことだったけど、あんたが大技でさんざん泡ガニを蹴散らしたから、みんな水の中に逃げ込んでたそうだよ。ま、おかげで泡ガニの数も追跡調査するってんで、話が大掛かりになってきてるけど、あとから戦えない奴が被害に遭うよりマシだったんじゃないかい」

「そうか。それはそれとして、なんか、金が多い気がするんだが」

「あんだけ大暴れしといて、少なくなるわけないじゃないか。そこら中カニの残骸だらけだったじゃないか」


 ずっしりと重い布袋いっぱいにつまった金は、量だけならリュカから押し付けられたものとあまり変らない。今回の袋の中には金貨から銅貨まで色々入っていて、リュカたちは金貨ばかりだったから金額の差はあるだろうが、なんにせよ存在感が大きい。

 羽蛇の素材はそれほど高くはならなかったが、猛進猪はとんでもなく高くなった。モンスターの強さや珍しさで変わるのだろうが、今回こんなに高額になるほど量があったのなら、確かにその後の個体数は気になるところだろう。


「あんたのおかげでたっぷりなくなってた材料も補充出来たし、他んとこに売ったらいい値になったんだよ。その分負けてやった額をそこから抜いてあるから、後で中の明細確かめときな」

「そうか? 手間かけさせたと思ったけど、そう言うならお言葉に甘えよう」


 この世界の通貨には硬貨しかないらしく、貯めたら貯めただけ重たくなる。銀行預金といった制度もあるようだが、皇都や領都のような大きな町にしかないと知って利用を諦めた。なにせ、今の俺の進行速度は非常に遅い。現状一番近い銀行のある町は皇都だが、そちらには戻りたくないので次の大きな町に辿り着くまで下手したらひと月以上。それまで重たい硬貨をじゃらじゃらと持ち歩きたくないので、必要以上は稼いだら使ってしまう予定でいる。今回のこれで当面は収入がなくてもなんとかなりそうだし、ちょっとモンスターと戦う場面を考えなければいけないだろう。


「泡ガニの素材は、たしか泡袋と甲羅だったか」

「泡袋はそうだけど、使えるのははさみについてるトゲの方かねぇ。ちょっと磨いて、矢尻にするんだよ」

「そうなのか? やっぱり、本の内容は実用的じゃないってことか」

「書かれた時期にもよるかもねぇ。昔は使える素材が今より限られてたから、使い勝手が悪くても文句は言ってられなかったからね」

「今じゃ使わないってことか」

「使おうと思えば、って感じだよ。そのままじゃ形のせいで使えないし、加工も手間かかるんでうちの町ではしてないね。手間の割には強度もないし、時々他所から見本が欲しいって言われたときに取りに来るくらいさ」


 特別珍しい素材は回収しておくのもいいかと思ったが、本で読んだ内容が実用的じゃないなら当てにしすぎるのも良くない。なにかするにしても、最寄りの町で情報収集してからにすべきか。

 だが、次の町に行くまでは、その道中も含めて体作りに費やすのでモンスターと戦いに行くことはないだろう。近いうちに昇級もして、それに合わせて一度装備を整えたりもしたいから、そうしているうちに金も減るはずだ。……と、思いたい。

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