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俺が得体の知れない恐怖に肝を冷やしている間に、金髪の男は何か納得したのかそれ以上は追求してこなかった。そして、ここから先の話は長くなるからと、先に朝食にしようと宿の人間に注文を始めた。




食事の間は当たり障りのない会話だけしかしなかった。これが美味いだのなんだのだ。

そして、全員が食べ終わり食器も片付けられた後、食後の茶を出した宿の人間は食堂から出ていき俺達だけになった。


「さて、話の続きだけれど」


上品な仕草で茶を飲み唇を湿らせた金髪の男は、ようやく周りの四人に視線を巡らせた。


「私たちの方の自己紹介がまだだったよね。確認するけど、君は私たちの事を何も知らない、って事でいいかな?」

「ああ」

「これでも、自分の名前は知られてると思ったんだけどなぁ。特に自分で望んだ事じゃなくても、自惚れていたようで恥ずかしくなってしまうよ」


ちっとも残念ではなさそうに言いながら肩をすくめて、一拍どのように説明するか考えてから口を開く。肩をすくめた際に揺れた髪が、窓から差し込む日の光で金色を濃くして輝いている。それがなんとも神々しく、主人公くさい造形だと思った。


「私はリュカ=ベルナール・アハトエラ。この国の皇太子にして、勇者のジョブを授かった者だ」

「皇太子……? まさか、そんな要人がこんなに少ない警護を連れて徒歩で移動なんてするのか?」

「今は勇者として巡礼の旅に出たところだから、かな」

「勇者……」

「そうか。ジョブも知らないなら、他のみんなの紹介の前に、それも説明しよう」


穏やかに微笑んだままの皇太子様曰く、この世界には魔力があり、その魔力の有無や武術の技能によってジョブスキルを得る事が出来る。そしてジョブスキルの習熟具合によって就けるジョブが変わるそうだ。

ジョブにはいくつか種類と階級があり、大抵はノービス、つまりジョブなしとして生まれて成長によりジョブを与えられる。だがごく稀に生まれながらにジョブを与えられてる人間がおり、この皇太子は数百年に一度というレベルで珍しい最上級位のジョブ、勇者として生まれてきたのだ。


……という事らしい。

それは確かに、その存在を知らないなんてモグリだろう。


「……俺は、あんたをなんて呼べばいい? 皇太子殿下? 勇者様?」

「リュカでいいとも。この旅の間は、彼らにも名前で呼んでもらっている。君も同じでいいよ、アスター」


おそらく破格だろう待遇に、こちらが驚いてしまう。ローブの男からはフードの下から強く睨まれているが、それ以外の三人が特別なアクションを起こしていないところからしてもう諦められているんだろう。

しかし、相手にとって俺は素性の知れない不審者のはずだが、それにしてはあまりにもフレンドリーでいっそ怪しくなってくる。この自己紹介やジョブとやらの説明を従者達に任せずに自分でしたのも、何か情報を隠すためなのだろうか。

それはともかく、魔力にジョブ、スキルか。まるでゲームの世界だな。

おそらく俺は、剣に関するスキルならあるはずだ。才能という点では胸を張れないが、それでも物心ついた頃から腕を失うまで十年は剣を奮ってきた。それも腕を取り戻した今になって剣のスキルがないなんて言われたら、この世界で生きる意味すらなくなってしまう。

俺は、また剣を握りたい。

剣士として大成できなくてもいい。そこいらのゴロつきを相手にする程度の扱いで構わない。でも、剣士として生きたい。

考えている俺を他所に、皇太子様、基リュカは次の話を始めた。


「それじゃあ、彼らの紹介もしようか。

まずは俺の補佐役、エルヴ・リウヴィルだ。ジョブは賢者。魔術師の上位職なんだが、この賢者だけが持っている鑑定というスキルがある。相手のスキルやジョブを見破る、というスキルでね、後でアスターも見てもらおう。

次に、祈祷師のシャルロット・マチアス・ヴァレ。エルフの血を引いているんだが、君、亜人に偏見は? ない? 素晴らしいね。

昨日アスターについていてもらった彼が、ロイク・ブノワ・ル・コントという。重装歩兵というジョブ故に常に鎧を着込んでいるからぶつからないように気をつけるんだよ? 彼はそんな下手をうつような人ではないけど、万一ぶつかれば吹っ飛ばされるだろうから。

最後に彼女が、クラリス・コメットだ。彼女も生まれつき双剣士という剣士の上位職を授かった天才、というやつだよ。頼もしいだろう」


賢者というのが、ローブの男。今も俺に殺気を飛ばし続けている唯一の奴だ。

祈祷師はローブの女。賢者と反対に始めに俺への殺意を引っ込めて興味を向けてきている、のだろう。正直、賢者の方は顔が見える程度のフードの被り方だからその奥の殺気でギラついた目もよく分かるが、この祈祷師の方は目深かに被ったフードで顔のほとんどが見えないから雰囲気でしか察せない。

重装歩兵は夜に十分寝ている俺を観察していたからか、気づけば俺に興味も殺気もなく、宿の外への警戒をしていた。

俺に対して初めから関心を持っていなかったのが、天才だとかいう双剣士の女。十人並みの凡才の分際で必死に剣を振り続けた末に腕をなくした俺からすると嫌になるくらい立派な肩書きだ。

ずっと話し続けていたリュカは、呑気に茶を飲んで喉を潤してから、よろしくと笑顔で言ってきた。あまりにもマイペースで、さっきから何度となく皇太子を止めようとして無視されていた賢者が哀れになってくる。


「……エルヴ、鑑定のスキルでどこまで分かるんだ」

「先程、殿下がご説明下さっただろう」

「ああ。でも、もっと具体的に聞きたい。今あるスキルだけしか分からないのか、これから習得見込みのあるスキルまで分かるのか。……いや、そもそもまだシステムの詳しい事も理解してない。スキルはどうやって得る? ジョブは? 一度なったジョブと同位職や下位職へは変更出来るのか? 上位職へランクアップする条件やシステムはどうなってる?」


矢継ぎ早に質問を重ねれば、迷惑そうな顔を隠さない賢者と言うには感情豊かな男は、リュカに目くばせした後咳払いを挟んで話し始めた。


「例えば、基本職に魔術師と幻術師がある。どちらも魔力がある事が最低条件だが、魔術師のジョブスキルは攻撃魔法、回復魔法、バフ魔法なので、医療や、そこまで行かずとも人体に関する知識が人よりもあるか知識はなくとも他人への治療経験が多いと選択出来るようになる。対して、幻術師は回復魔法の代わりにデバフ魔法があり攻撃特化だが、より魔力が強いと選択出来ると言われている」


つまり、もし俺に魔力があるなら、魔術師にはなれるだろう。腕を無くした一件で治療を受けて、自分自身でも色々と調べもしたので幾らかの知識はある。

スキルだけでは決まらず、当人の知識や経験が関係してくるとはややこしいが、どんな知識や経験が必要なのか分かっているのなら、それを蓄えればある程度は自分で操作出来るという事でもあるだろう。


「魔術師を選択した後、戦う中でスキルレベルが上がると魔力も上がる。なので、ノービス時に魔力が足りず幻術師が選択出来ずともその後に選択し直す事は出来る。だが、同位職への変更ではスキルは引き継がれない。つまり、魔術師の時に使えた回復魔法は使えなくなるという事だ。これは下位職への変更でも同じだ。対して、上位職へのランクアップは全てのスキルを引き継いだ上で、その上位職の専用スキルも習得出来るから、どうしても成りたい上位職でもない限り下位職に変更したなんて話は聞かないな」


確かに、ランクアップした場合に便利だったスキルが使えなくなるとかならともかく、全て引き継がれるならランクダウンの方にメリットはないだろう。同位職であれば、攻撃的な性格の奴が魔術師になった際に、回復なんてしていられなくてデバフを求めるとかであれば理解は出来る。


「それから、スキルやジョブの得方だが、これは言葉での説明が難しい。全ては創世竜様のお導きだ。その人間がそのスキルやジョブを得るに相応しいとなれば、創世竜様がお与え下さる。与えて頂いた後なら、ランクアップするかは当人の意思でいつでも選択出来るが、全ての条件までは知られていないので、いつ与えられるかは人それぞれだと言われている。賢者の鑑定のスキルでも、現在習得しているスキルにノービスの適性や掛けられているバフデバフの詳細しか分からない」


剣や魔術のある世界、という事でそこまで驚きはしなかったが、創世竜と来たか。この口ぶりだと、誰もが知っていて当然の事のようだし、後ででも恥を偲んでここで聞いておかなければいけないだろう。

全く、新しい世界は覚える事が多くて大変だ。

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