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結局、エネルギーバーを中心に干し肉と煎り豆を一袋づつ。あとは飲料水ばかりを買ったばかりの鞄に詰められるだけ詰め込んだ。

その後、また別の部屋に案内された。さっきよりも狭いが、品のいい調度品が揃った応接間だ。店員は茶を出してすぐに下がり、アントンとふたりでそこに残される。


「ここは、軍関係者以外には聞かせられない話をするときに使わせてもらう場所です。どうぞ、楽にしてください」

「そのためにわざわざ手紙をくださったんでしたよね。しかし、俺には思い当たることはないのですが、どういったお話でしょうか」

「先日の、騎士団にいらした日。イニャスにお会いしましたね?」


まさか、というほかなかった。

知られていないと思っていたわけじゃない。けど、わざわざ呼び出してまで話をする必要がある出来事だとは思っていなかった。




アントンの言うイニャスとは、リュカとエリーズ様と同腹の弟である第六皇子のことだ。

あの騎士団で訓練に参加させてもらった日。スペンサー軍総長との昼食から訓練場に戻る途中に、おそらく待ち伏せをされて出会った。


「はじめまして! イニャス・ヴァンサン・アハトエラです! 兄と姉がお世話になってます」


今の俺よりも少し年下だろう少年が、ぴょこりと頭を下げる。溌剌そうな顔は、リュカともエリーズ様とも印象が違ってすぐにはあのふたりの弟だとは思いつかなかった。

騎士団の詰め所とはいえ皇城内を部外者がひとりで歩けるわけもなく、騎士の人がついてくれていた。その騎士がそっと第六皇子だと耳打ちしてくれてようやく当人の言う兄と姉を理解したくらいだ。


「僕は、リュカ兄さまについて行かせて欲しいとずっと頼んでいたんです。でもまだ幼いからって置いて行かれてしまって……。だからリュカ兄さまが巡礼に連れて行く人にとても興味があるんです。あなたのことも、皇都に来た時から気になっていました」

「そう、でしたか……。ですが、すみません。自分でも、なぜリュカが俺を気にするのか分からないので、お答えできることはないかと」

「そうですか? 騎士団での訓練の様子もちょっと聞きましたけど、とても凄い魔法使いだってことじゃないですか! あ、っていうか、敬語やめてくださいよ! あのリュカ兄さまが認めた方が敬語なんて、とんでもないです」

「いや、そんな、凄い人間でもないんですが……」

「兄さまが、凄くない人を巡礼の旅に関わらせたりするわけないじゃないですか! クラリス様だって、生まれながらに双剣士ジョブの大天才なんですから」


キラキラした目をして、俺たちを褒め称えるふりでリュカばかりを賞賛するイニャス皇子は、受け答えはしてもこちらの話を聞く気はないようだった。

リュカが連れて行かなかった理由も分かるほど細い体の皇子は、すでにジョブを得ているのだろうか。魔法系のジョブだとしても、そこそこトレーニングを積んでいた俺でもついていけなかった騎士団の訓練をこなす魔法使いたちもいる。彼らよりも優秀だと証明できなければ、当然リュカだってどんな関係の相手でも連れて行かないだろう。

だからこそ、俺だって俺の何を気に入って一緒に行かないかと誘ってくれたのか、悩み続けているくらいなのに。

弟だからと贔屓して連れて行かなかったリュカは、それだけでも英断だろう。こんな子供を連れていけば、すぐに誰かが離脱する羽目になっていたはずだ。そう思うと、こちらもこの夢見がちな皇子の話には一切の興味がなくなった。


「恐れながら、本日は無理を承知で騎士団の訓練に参加させていただいている身ですので、これで失礼いたします」

「は? え、ちょっと、待ってください!」


呼び止めるのも聞かずに、すぐそばの階段を駆け下りる。案内の騎士も無事後についてきてくれた。そのあとは、その騎士からシュテファン副団長に報告が上がったが、俺に対しては気にしなくていいとの一言だけで終わったので、ほとんど忘れていた出来事だった。




アントンは、出してもらったお茶で口を湿らせて、疲れた風に話し始める。


「まず、はじめに家名を名乗らずすみません。私はアントン・セリュエ・アハトエラ。第二皇子に当たります。継承権を放棄しているので、名ばかりの皇子です」

「継承権の放棄が、出来るんですか」

「場合によりけり、ですねぇ。今はリュカが巡礼から戻れば確定で次期皇帝ですから、リュカに万が一のことがあれば色々と覆る程度のあれです」


勇者とは、それだけ重要な意味合いを持つのだろう。これまで出会ったほかのふたりの皇子が、方向性は違えどあれだけリュカに対してこじらせていたのも頷ける。


「腹違いとはいえ、弟たちが大変ご迷惑をおかけしました」


座ったままではあるが、アントンは深々と頭を避けた。俺はそれに慌ててしまって、頭をあげてくれと言いたいのにうまいこと言葉が出てこない。

実際俺が彼らにかけられた迷惑なんてあってないようなものだ。第五皇子に関して言えば、迷惑を被ったのはエリーズ様で、俺はむしろそのおかげで騎士団とのつながりが出来たので得しかない。


「皇族としてはあるまじきことなんです、あのふたりがしたことは。なんせ、勇者であるリュカが認めた仲間に対する妨害行為です」

「そこらへんの事情には疎いのですが、監査室といったところに報告がされると聞いています」

「そうです。今回のこともすべてが評価対象です」

「評価されているのであれば、俺はそれでいいです。もし、評価に俺の証言が必要ということであれば協力しますが、そうでなければ実害もなかったわけですし」

「ありがたい限りです、本当に……」

「リュカに良くしてもらってるのは事実ですけど、別行動してるのもあって俺にリュカの旅の仲間だという自覚もほぼないですから」


あえて言うなら、騙し討ちと変わらない形でこうなったわけだし。

アントンがまた茶を飲むのに合わせて、俺も茶菓子と合わせていただく。少し時間がたったおかげで飲みやすい温度にまで冷めているが、その分渋みが出ている。そこに甘い焼き菓子を食べるとちょうどよく口に馴染んだ。


「それに関しても、聞きたかったんです。……リュカのしたことは、迷惑でしたか?」


随分迷いながら尋ねられて、俺もまた、答えに困った。

これは、誰かから聞かれるかもしれないとは思ったことがある。けど、聞かれるとしたらリュカと気心知れていそうなシャルロットとかだとも思っていたし、当のリュカと別れて行動してからしばらく時間がたったせいで油断もしていた。

ゆっくり茶菓子を飲み込んで、ついでにもう一度、わざとらしく小さな音を立てながら茶を啜って、それから口を開く。


「迷惑ではなかったです。困ってはしまいました」

「私の権限を使えば、なかったことに出来ます。それは、必要ですか?」

「いえ、必要ないです。必要するほど迷惑に思っていたら、リュカをもっと強く拒絶してました。命を助けられたとはいえ、自分の今後を勝手に決められて従えるほど、大人ではありませんから」


わざと時間をかけて答えたおかげで、話しながら少し他所事を考える余裕もあった。

良くも悪くもリュカという勇者を中心にあるここで、リュカに対する批判にもとられそうなこんな質問、確かに人の目があるところでは出来なかっただろう。最初の皇子たちのやらかしについてなんてジャブのようなものだ。ちょっと、継承権を放棄していることが惜しいくらい、この人の方が責任感がある。


「スペンサー総長にもお話ししましたが、俺はただの根無し草です。それが旅すると決めたのは、目的があるからです。そして、その目的のためにはリュカの提案はとても魅力的でした。ただ、俺が意固地になってしまったからこうして別行動することになったので、リュカに申し訳なく思っているくらいです」

「……分かりました。当家の者が迷惑ばかりかけたわけではなく、安心しました」

「とんでもない。リュカに始まり、エリーズ様、スペンサー団長。今回のことでアントンにも、気遣っていただいて、受けた恩の方が多いです」


そこまで言ってやっと、アントンは肩から力を抜いて、茶菓子に手を伸ばした。

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