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騎士団の訓練に参加させてもらってから、図書館に通う回数を減らして皇都周辺のモンスター退治に出るようにした。主に天気のいい日で、街を取り囲む城壁の外にもある農業区域で、害獣扱いされている羽蛇というモンスターを狩っている。

騎士団の訓練で実感したのは、俺には戦いや魔法の試行回数があまりにも少ないことだった。魔法の制御に関してシュテファン副団長にも、アントンにも、ほかの団員たちにも口をそろえて同じことを言われた。慣れたらすぐに良くなる、と。確かに俺は、シャルロットとクラリスに付き合ってもらったたった一回の訓練と、数匹のモンスターを相手にしてみただけでしかなかった。それでまともに魔法が発動しているのだからむしろ上出来なほうだろう。

となればあとはひたすら反復練習あるのみ、だなんて、ずっとやってきたことだ。


「うかりける」


羽蛇は、名前の通り羽の生えた蛇だ。通常は普通の蛇と変わらず地面を張って進み、草陰に隠れて家畜の放牧地に近づく。そして、その羽で飛んで豚だろうが牛だろうが人だろうが構わず襲い掛かるそうだ。毒はないが的確に首を狙って素早く飛んできて、あっという間に絞め殺されるから見つけてから逃げようとしても間に合わない。対処法は首周りを甲冑で固めて一匹づつ探していくくらいしかない、というのが退治人からも嫌われる原因だ。


「人を初瀬の」


俺ははじめ、聞いた対処法のとおりに首回りに金属の骨が入った革鎧をつけて、見つけた羽蛇を一匹づつ細かい鎌鼬や颪で倒していた。けれど、退治に出て三回目、羽蛇たちは跳ねるのでも滑空でもなく、しっかりと羽ばたいて飛ぶために結構遠くから獲物に飛んで行っていると気づいた。

それからは簡単だった。


「山おろしよ」


まず弱く細かい颪を家畜に当たらないように何度か打ち出す。羽蛇はもちろんそれから逃げるから、逃げた先が一か所に固まるように打ち出す方向を調節して、ある程度が集まっただろうころ。


「はげしかれとは 祈らぬものを」


牧草を傷つけないようになるべく威力を抑えて、けれど大きさだけはある颪で羽蛇を飛び上って逃げるように仕向ける。

そこに、特別魔力を込めた次の魔法。


「由良の門を 渡る船人 かぢをたえ ゆくへも知らぬ 恋の道かな」


今の俺に出せる最大の鎌鼬は、飛んで逃げていく羽蛇のほとんどを綺麗に一刀両断する。

取りこぼしももちろんある。けど、ちまちま一匹づつ退治するよりもよっぽど効率的だった。これを数回繰り返すだけで通常の方法の三日分の成果が出る。おかげでもう倒す羽蛇がいないと、今日の場所でお役御免になった放牧地は二か所目だった。

なによりも、とてもいい魔法の訓練になっている。俺は最初、魔力を抑えることだけが暴発を防ぐのだと思っていたが、全力を込めた鎌鼬は、打つたびに余計な風を巻き起こさなくなった。感じるのは、自分の体から杖に流れる魔力の最適化。今まではどれだけの魔力量でどれだけの威力の魔法になるか、感覚として分かっていなかったから想像する威力に必要ない多さの魔力を使っていたが、その齟齬がなくなっていく感覚をひしひしと感じている。


「本日もありがとうございました。羽蛇の被害のあるところはまだありまして、また来てくださいますか?」

「次のところも、二、三日で終わるくらいか?」

「これまでの二か所と広さはあまり変わりません」

「では、そこまでは請け負う。ただ、そこが終わったらこの街を離れるかもしれない」

「そうですか。それは残念ですが、次の町でのご活躍も楽しみにしております」


モンスター退治は、主に役所で募集されている。よくあるギルドとかの役割を役所や領主が引き受けているらしい。羽蛇であればその頭を落として直接持ち込むか、役所と契約している解体屋に持ち込んで証明書を発行してもらうと、その成果に応じて報酬が出る。俺は羽蛇の素材分も金にしたかったから、解体屋に持ち込む方を選んだ。

この皇都には何か所か役所があるが、俺は図書館に一番近い役所にばかり行っていたから窓口の係員とすっかり顔見知りになってしまった。

人のいい顔で惜しまれるといつまでも皇都から出られなくなりそうなので、挨拶もそこそこに役所を出る。

今日は、この役人以上に、未練になるもうひとりに会いに行く約束があった。


「エリーズ様、来週には皇都を出ようと思います」

「そうですか」


本人は意図していないだろうが、あの役人と同じ返事。つい言葉を止めてしまう。

俺が心配するにはおこがましすぎるが、エリーズ様の周りには心配するに十分な原因があった。それを本人には言っていない。言うか言うまいか悩んでここまで来てしまった。


「次の目的地はお決まりですか?」

「いえ、まだ悩んでいます」

「では、私がおすすめしてもよろしいでしょうか?」

「もちろん。お願いします」


素直に頷くと、エリーズ様もささやかに笑って返してくれる。


「兄たちとは別の進路を進むのでしたら、まずは隣の町のリラリアはいかがでしょう。西側にある町で、薬の作成に長じております。周囲に毒を持つ植物ばかりの森があるため、その研究が盛んになった結果生まれた町です」

「なるほど。毒を持つモンスターも多そうですね」

「はい。ですので、毒消しや状態異常回復の魔法の修練にも最適な場所です。魔法の制御に慣れてきたのなら、次はそういった魔法を覚えてもよろしいかと」

「ありがとうございます。おかげで、目的地が決まりました」

「いえ、私が、個人的にずっと興味があった町なのです。森の毒性のせいで訪れる許可が出なかったところですので、もしまたお会いできましたら、お話を聞かせてください」


確実ではなくとも、次を思わせる約束は気分が良くなった。しっかりと頷き返すと、エリーズ様も今度はもっと分かりやすい笑顔を見せてくれる。喜びより安心の割合が多そうな笑顔は、困難な旅に出た兄に対する心配の表れでもあるのだろう。それでも、ずっと硬い表情ばかりだったエリーズ様の笑顔は、俺の安心ももたらしてくれた。


「ところで、皇都の隣の町ということは、それほど距離は離れてないんですよね? それなのに毒ばかりの森があるのは、大丈夫なんですか?」

「隣町と言っても、馬車で二日ほど、徒歩では早くても三日から四日はかかります。ですので、直接の影響はないですし……」


少しだけ考えるそぶりをしてから、声を小さくして続きを教えてくれた。


「いざというときに、皇族が逃げ込む場所でもあります」


いざ、とは、クーデターのことだろう。森がどの程度のものかにもよるが、それを熟知している町が協力してくれるならやっかいなところになりそうだ。


「もちろん、そのような意図で皇族が訪れたことは記録にありません。あくまでも、念のためですから」

「危険に対する備えはいくらあっても足りることはないですから、大事なことです。俺も、徒歩での日をまたぐ旅は初めてなので、しっかり用意して臨もうと思います」

「旅に関する心得を書いた本をご用意してますが、いかがですか?」

「……俺が必要そうな系統を、理解されてしまいましたね」

「実用性重視。良いことだと思います。では、こちらをどうぞ」

「ありがとうございます。では、お借りします」


それほど厚さはないが、ぎっしりと詰まった文字と解説の挿絵で空白なんてほとんどない本だった。

普段だったら図書館に来ていないモンスター退治に出た後に、約束してまで訪れたのは皇都を出る報告のためだ。つまり、必要な知識はもう十分得たと思ったからで、図書館に来るのは最後の挨拶の時くらいの予定でいた。そこに来て新しく興味を惹かれる本の出現。これは、まだ数回はここに通ってしまうのだろう。

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