ニポン5歩目 美人姉妹の信頼を得られるよう頑張る! 代わりに!
「いいか? レオ、日本に戻る際に注意しておくことがある」
ニポンに来る前に、鼻をほじりながらノリオ様が教えて下さった。
多分、アレは私をリラックスさせるためにあんな風に振舞ってくださっていたのだろう。
「ウチの姉妹だ」
だが、目は真剣だった。
「おふくろはオレに甘いから大丈夫だ。だけど、あの二人はマジでヤバい。まず、妹の梨生奈。超絶我儘娘で、頭いいからじわじわオレを追い詰めるのが好きでマジで腹黒い。次に姉の美生梨。コイツが空手の大会で優勝したことがあるくらいのゴリラ女だ。オレに対してはすぐ手が出る。この二人は一筋縄ではいかない。精々がんばれ」
あの、ヴェルゲルガルドの勇者、ノリオ様にそう言わせるほどのお二人がじっと私を見つめている。
あれだけ完璧なノリオ様情報を暗唱した私を!
く……確かにノリオ様の仰る通り……手ごわい!
妹であるリオナ様が訝しそうに私を見ながら近づいてくる。
二つ結びにした金色の髪が似合う可愛らしいお顔をしたリオナ様だが、ノリオ様は腹黒い計算高い女性だと油断するな、レオンハルト……!
「本当に? 本当にノリオなの? 『勉強教えてやろうか』とか言って、分かってない癖に嘘八百並べ立ててきてたからもう教えないでって何回も断る度にへらへらしてて挙句の果てに『妹のツンデレは標準装備じゃねえのかよ! ガチギレかよ! マジ最悪だよ!』とか言って勝手にガチギレしてたノリオなの?」
ガチギレとは?
それに、ツンデレ……。
分からない言葉だ。だが、確かに、ノリオ様はそんな言葉を使っていた。
ノリオ様は勇気あるお方だ。
ならば、レオンハルト! お前も勇気をもって飛び込み、なんとかするしかないだろう!
「そうだよ! 僕は、そのノリオだよ!」
「真っ向から認めるのかよ!」
リオナ様が驚いている。なんだ、何をやらかしたのだ、愚かなレオンハルトォオオ!
分からない……だが、なんとか出来ないか……なんとか……。
こういう時は……。
「ね、姉さん! 姉さんなら分かるでしょう? ぼくが、ノリオだって!」
「……」
先に、姉上であるミオリ様を味方につけるしかない!
そのミオリ様が鋭い目つきで近づいてくる。
赤髪とよくマッチした凛々しく美しい顔、姿勢も良く鍛えられた身体だ。
だが、これは……!
「疾ッ!」
ミオリ様のノーモーションからの鋭い一撃!
だが!
「ふっ!」
「う、そ……?」
私は少しだけ身体を動かし、拳を躱す。
ヴェルゲルガルドで勇者と呼ばれたノリオ様ならこれを躱すくらい造作もな……。
「ノリオがアタシのパンチを躱せるなんて……! 前までのノリオなら、当たってたのに」
し、し、しまったぁああああああ!
やってしまったなぁあああ! 愚かなレオンハルトォオオ!
そうか、そういうことだ!
ノリオ様は、姉上の一撃を敢えて受け止めていたのだ。
それがおそらくノリオ様のご家族のスキンシップ!
流石! 勇者の一族は違うぞ!
「じょ、冗談だよ。姉さん、今のは冗談なんだ。ほら、今度は絶対に避けられないから」
「え、ええ……? 意味が分かんないんだけど」
「さあ! 姉さん! さああああ!」
お願いします! ミオリ様! この愚かなレオンハルトにもう一度だけ挽回の機会をぉおお!
「怖い怖い! くる、なぁああああ!」
ばきい!
流石、ノリオ様の姉上。魔力なしでこの一撃。素晴らしい……。
ですが。
「あ、ご、ごめ……え!?」
「お、お姉ちゃん、コイツ……瞬き一つせずに1ミリも動いてないんだけど」
ノリオ様なら、こうなるということですね!
私は、敢えて喰らう。が、ノリオ様の異常な力をしっかりと再現すべくじっと立ったまま。
これが、正解! そういうことですね! ノリオ様!
「あんた、本当にノリオ? 空手の稽古が嫌な癖に女の子の揺れる胸が見たくてアタシについてきて見学だけしに来て道場で超絶嫌われて、それに気づいて稽古に参加し始めたけど弱すぎてずっと負けて泣いて悪態ついてたノリオなの?」
……ノリオ様?
それは、一体どういうことなのだろうか? やはり、世を忍ぶ仮の姿で陰から世界を救っていたという事なのだろうかなのだろうそうにちがいない!
そこまでを見抜けぬ私はなんと未熟なのか……!
「ねえ、本当にアンタ、ノリオなの!?」
「いや、絶対違うって。こんな兄貴、こん、な……って、ちょっと、きゃあ!」
私は二人を突き飛ばす。
すみません、ノリオ様。私は……。
「いた……アンタ、やっぱりノリオだわ! 家族突き飛ばすなん、て……!」
「やだあ! キモイ! マジで襲うつもりかよ! 来るなよ、ばか、兄貴……」
やりました! ノリオ様! やっとノリオ様だと認めてくれました。
やはり、ノリオ様ならこうすると思っていましたよ!
突然襲い掛かってきたこのジドウシャとやらからお二人を守り、受け止めると!
「ノ、ノリオ!? あんた何してんのよ!」
「なんで、トラック止めてるの!?」
「それは……ぼくが、ノリオだからだよ」
ノリオ様ならこんな鉄猪にものともしないはず!
「「いやいやいやいや!」」
いやいやいやいや?
お二人が否定している。
ま、まさか……そうか。
「じょ、冗談さ。二人とも。ぼくは、ノリオだよ。こんな鉄猪、こん、な……の……ゆびぃ、いっぽんでぇえええええええ!」
「「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!」」
指一本でも認めてくださらない!? やはり、ノリオ様ならば一吹きでとかそういうことなのだろうか!? だが……私には出来ない! すみませんノリオ様! 愚かなレオンハルトの力不足をお許しください。せめて、ノリオ様のように女性に優しく……!
「大丈夫だよ、二人とも。二人は、ぼくが、守るから」
「「え?」」
そうだ。二人は家族なのだ。
代わりとはいえ、私の、はじめての家族……。
守る!
「絶対に、守る!」
ノリオ様の代わりとして! そして、新しい家族として!
「ま、も、るぅうああああああああああ!」
「うそ、でしょ……指一本で?」
「トラック、止めちゃったんだけど……ガチ?」
守れた。お二人を、守れましたよ。ノリオ様……。
「えーと、どうしよ。超賢者ちゃん?」
『強烈にあの姉妹の記憶に残っていると面倒ですね。強く刻まれた記憶を取り除くとなると他の記憶にも影響が出る可能性がまあ出来るだけ穏便にがんばりますまほー』
「「「あばばばばばばば!」」」
何故、私に、まで……!
そして、私は気を失った。
ノリオ様……レオンハルトはこれから、ノリオ様の代わりを果たせるのでしょうか……。
目を覚ますと目の前には真っ白な天井ではなく、何やら肌色多めの可愛らしい女性の天井画が。
「ノリオ! 目を覚ましたのね?」
どうやらベッドで寝ていたらしい。母上がこちらを見ている。
「よかった。あのあと、結ちゃんが警察の人と話してくれたらあっさり帰れることになって。ノリオのことも結ちゃんからは、命に別状はない発作だって言われて……それにしても、この一年で結ちゃんもたくましくなったわね。大きくなったあなたを軽々と持ち上げて」
そうか。ユイ様が色々と後始末してくださって、運んでくださったのか。有難い……。
「でも、時々、ずいぶん大変そうに持ち替えていたわね。顔をこすりつけて鼻息荒く何度も何度も持ち替えていたもの。特にウチの前に来たときは本当に何回も……」
ユイ様?
「ノリオ」
母上が私をじっとみている。やさしい目だ。
「おかえりなさい。ここが貴方の家。貴方の部屋よ」
そうか……ここが……ノリオ様の育った家。
そして、これから私が代わりに守るべき家。
「一先ず目が覚めたわけだし、ごはんにでもしましょう。お母さん、がんばるわ!」
そう言って母上が去っていく。
「あ、ははう……じゃなくて、おふくろ」
「ん?」
「ごはん、ありがとう。楽しみにしてる」
「……! うん! 待っててね!」
そう言って花が咲いたような笑顔でお母さまが去っていく。
そして、ドアの隙間からは……
「二人とも……どうしたの?」
ノリオ様のご姉妹がこちらを見ていた。
「ノリオ、なのよね……?」
「本当に本当に?」
疑われている。
だが、そうだ。
分かったことがある。
完璧なノリオ様の代わりにはなれない。
だから、
「オレは、今までのオレとは違うかもしれない」
「「え?」」
「かわるから」
これから頑張るだけだ。それしか私に出来ることはない。
「これから頑張ってみんなに認めてもらえるよう頑張るから。見てて」
「……そ、そう。まあ、頑張りなさい」
「お姉ちゃんがそう言うなら。あ、で、でも! あの……助けてくれてありがと。でも! 別にお礼を言うためだけに来たわけじゃないからね。その、警告よ! 警告! 変な真似したら絶対に許さないんだからね!」
そう言って二人は去っていく。と、思ったらぴたりと止まり、振り返る。
「あのさあ、ノリオ。まあ、アンタらしいっちゃアンタらしいんだけどさ。部屋もうすこし片付けた方がいいわよ」
「あたしもそー思うかな……」
そして、ドアが閉じられる。
部屋……ほぼ裸の女性の絵だらけの部屋。
ノリオ様……愚かなレオンハルトには、これがどういった意味で貼られているのか読み取れません……申し訳ありません……すこしずつかわっていきますので、一旦剝がさせてくださいね。
そして、私は、ノリオ様のご家族を守ることを誓いながら肌色の女性達の絵を丁寧に剥がし片付けた。
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