48歩目 しんだ! ヤバいです!
白い服のおじいさんが気まずそうにこっちを見ている。
それにしても先程の言葉。
『おお、死んでしまったか、鈴木ノリオよ。じゃが、すまん! この死は予定外なのじゃ! じゃから、お詫びに異世界に転生させてやろう!』
死んでしまった? 死んでしまったのか、私は。
さっきの巨大鉄猪が原因か。
小さい鉄猪を正面からならなんとか止められたが、巨大な上にこっちの体勢が不安定であれば難しかったか。
未熟だな。
死んだ、のか。
であれば、この方は……。
「あの、あなたはもしかして神様なんでしょうか?」
そう言うとおじいさんは気まずそうに頭を掻き、
「そうじゃのう……この世界の神様じゃな……」
なるほど、やはりヴェルゲルガルドとは神が違うようだ。
ヴェルゲルガルドでは女神だった。
女神はヴェルゲルガルドを救うためにノリオ様やユイさまを呼び出していた。
「まあ、神様なんて求める意志の集合体じゃからな、いわば、AIみたいなもんじゃよ。世界を保つために、意志と情報を集め、操作するのが仕事なわけじゃ」
えーあい?
よくわからないが、神は王の延長のようなものなのだろう。
その神はちらちらと申し訳なさそうに見ている。
先程予定外だと言っていたが、そのせいだろうか。
「そのう、まさか、お前が身を挺して家族を救うとは予定してなくてのう……」
「そうだ! みんなは無事なのですか?」
「無事じゃよ、無事」
よかった。みんなを守る事だけは出来たようだ。
「それでな。お前が死んでしまったのは神の予定にはなく、この世界で魂の受け入れ先が用意できておらんのじゃ。お前の家族を守るための身を挺した善行と詫びも含めて、お前の大好きな異世界に転生してやろうかと思ったんじゃが」
「え?」
異世界に転生? 生まれ変わるという事だろうか?
というか、大好きな異世界に転生?
ああ、ノリオ様と勘違いしているのか?
「チート能力もつけてやろう」
ノリオ様と勘違いしているのか?
「女の子にもモテる縁を結んでおいてやろう」
ノリオ様と勘違いしているのか?
「ヴェルゲルガルドという世界なんじゃが……」
ノリオ様ぁあああああああ!
ど、ど、ど、どういうことだ?
ヴェルゲルガルドからやってきた私がニポンに異世界転移してきて、みんなを守って死んで、ヴェルゲルガルドに異世界転移する?!
「生まれは、滅びかけの愚かな国らしいが、王族の子じゃし、すぐにチート能力も使えるから、思う存分愚かな父親をぶちのめして好きにやればいい」
「……え?」
えぇえええええええええええええ!?
そ、それってもしかして、ノリオ様のことなのでは!?
御子が!?
というか、滅びかけの国!?
い、一体ヴェルゲルガルドで何が!?
事情を説明すべきか? いや、だが、私がノリオ様であることは知られるわけにはいかないのでは? というか、神が知らないのか!?
「のう、鈴木ノリオ、許してもらえんかのう?」
知らないみたいだ!
ならば、私はノリオ様のようにふるまうべきか?
ノリオ様なら……。
「え、え~まじ~? やったー。オレ、異世界転移ちょう好き。チートでモテモテやっほいじゃんね~」
こ、こうか!? これでいいのか!
これで……。
「お、おお、そうかそれはよかった」
いいのか?
それでいいのか?
「であれば、すぐにチート能力を……」
「あああああああああああ!」
「うおう! どうした!? 急に! やっぱり不満か!?」
「愚かな、愚かなレオンハルトォオオオ!」
ノリオ様の代わりに家族を守ると誓っただろう!
なのに、たった一回で死んでしまうなどと!
鍛錬が足りんぞ! レオンハルトォオオオ!
「レオンハルト!? だれ!?」
「神よ! 私を蘇らせることは出来ないのですか!?」
「う、ううむ、神というのは流れを動かすことは出来ても止まった流れを戻すことは神にはできんのじゃよ」
ヴェルゲルガルドでは蘇生魔法も存在したというのに……。
いや、蘇生魔法は禁忌な上に命を削る危険な魔法だった……使うべきでは、ない。
だが!
「ぬおおおおおおおおお!」
「ええ!? その白い光は……魔法!? なんでぇえええええ!?」
見様見真似の蘇生魔法!
どうせ死んだ身だ! やれるだけやってやる!
「ぬおおおおおおおおおおおおおお!」
「なんで、なんで魔法使えるのぉおお!? 鈴木ノリオじゃないのお!?」
自分のみに蘇生魔法をかけていく。
魔法の才能なんてない! それでも諦めたくない!
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「いやいやいやいやいやあんた誰ぇええええ!?」
「私はっ! あの家族の! 鈴木家の一員! 鈴木レオンハルトォオオオ!」
だから! 帰る絶対に!
「だれぇ!? すずきれおんはるとぉおおおお!?」
神が何か言ってるが気にしない!
と、その時、私の身体が輝き始める! これは!
「えええぇええええ!? 外部から魔法!? って、もしかして、この男、いせかあばばばばばああ!」
神様があばされている!
一体だれ、が……。
そこで、私はふわりと浮かび上がる感覚に包まれる。
ああ……ヴェルゲルガルドにまた……。
いやだな。
ニポンにいたかった。
チート能力もモテる運もいらない。
あのひとたちの家族に、なりたかった。
リノかあさん、ミオリねえさん、リオナ……そして、
「ユイさま」
「「「レオ!!!!!!!」」」
声に目を開ける。
そこはヴェルゲルガルドではなく……ニポンだった。
泣き顔の三人が私を見つめている。
「目覚ました! 覚ましたよ! おねえちゃん!」
「わ、わかってるよぉ……わかってるもん……わかってたもん、レオは帰ってきてくれるって、ねえ、か、かあさん……」
「よか、った……本当によかったわ……」
ああ、愚かなレオンハルト……三人を泣かせるとは……だけど、よかった。
ニポンに戻って来れて。
「レオ、ユイちゃんにありがとうって言いなさい。ユイちゃんが苦しそうにしながら魔法みたいなものでレオをなおしてくれたのよ」
ふと横を見ると弱弱しく笑うユイさま。
「ユイさま……」
「ふふ、よかった……レオ……蘇生する為の血が足りなくてね。私の血もあげたの。ふふ……これで、血でも結ばれたね、うふ」
弱弱しいのに力強い。
ユイさまには本当に敵わない。
こうして、私は異世界に転生せずにすんだ。
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