ニポン46歩目 ボスママと出会った! ヤバいです!
「かあさん、他に買うものは?」
「うふふ、そうね……あとは……」
私は母さんに頼まれて荷物係を引き受けていた。
「それにしても……買い物ならメモさえ貰えたら私一人で行くのに……」
「うふふ、駄目よ。そんな息子を便利に使うなんて母親失格よ。それに……」
「それに?」
「散々平日は、ミオリやリオナ達とイチャイチャしたんだからその分取り返させてもらわないとね、うふふ」
圧。
母さんの圧。
「あ~ら、鈴木さんじゃない?」
「え?」
甲高い声がして母さんと共に振り返ると、子連れの女性が立っていた。
身体は大きく髪はショートカット、服は黒いドレスのようなものを着て、沢山の装飾品で着飾っている。
「あ……暮須磨さん、お久しぶりです」
「おひさしぶり~」
暮須磨と呼ばれた女性がにんまり笑いながらどこからか取り出した扇子で顔を隠す。
私はそっと母さんに耳打ちする。
「かあさん、誰?」
「はわ! レオ囁きありがとう、ウチの近くに住んでいる暮須磨さんよ。あの隣に居る子がね、リオナと同じ年の子。……ちょっと面倒なひとたちなのよ」
母さんが少し嫌そうな声色を混じらせながら答えてくれる。
「あ~ら、内緒のご相談かしら? 目の前でひそひそ話なんて、もっと堂々と喋りなさいよ。ほら、私ってさばさばしてるじゃない? だから、気になるのよね~」
知らない。さばさばしているらしいが知らない。
母さんは知っているのだろうかとちらりと盗み見すると、ちょっとめんどくさそうに微笑んでいる。
『解析完了。暮須磨万代。リノ様の地域のママ友で、通称ボスママ、ママ友カーストのトップにいると思い込んでいる女性です』
さぶ賢者A様が情報を下さる。
ボス、なのか……ヴェルゲルガルドでもダンジョンにいる魔物達の主をボスと呼んでいたが、彼女も魔物達の主なのだろうか。
『まあ、ある意味、ママ友社会はダンジョンですね』
ダンジョンらしい。どんな恐ろしい場所なのだ……ママトモシャカイ!
「あ、あはは、ごめんなさいね。お元気そうで何よりです。それより、親子水入らずの邪魔をしたら申し訳ないので、これで失礼しますね」
母さんがボス戦を回避しようと早めに話題を断ち切ろうとする。
「まあまあ、折角会えたんだしさ~、ちょっとお茶でもしよう~」
だが、にげられない!
ボスママは母さんの腕を掴んで鼻息荒く笑っている。
「あ、あの……でも、暮須磨さん、息子さんが」
「いいのいいの! ウチの子は、甘えんぼだからさ、毎休日ママ、ママって。いい加減ママ離れもして欲しいからさー。ちょっと他の人とも交流しなきゃ、ね? 真?」
「ちょっと、ちょっと、僕は木属学校の生徒会なんだよ。東○卒の有名な先輩方や有名人とも交流があるんだから……でも、ま、そうだね。たまにはこういう人たちと交流しておいて一般的な知識を仕入れておくのも大切だよね。分かったよ。ママ」
すごい早口で喋ってきた。
ボスママの息子は真と言うのか。眼鏡で細身、非常に勉強の出来そうな空気を出している。
だが、母さんをチラチラと厭らしい目で見ているのだけは許せん。
とはいえ、母さんもその視線には気づいているだろうしボスママ達の事を知らない私が事を荒立てるわけにはいかないだろう。
ただ、せめてもの抵抗として、真殿と母さんの間に入って、母さんの身体を出来る限り隠す。
「ち。なんだあ、あんた……僕は木属高校なんだぞ」
真殿が舌打ちをして私を睨んでくる。よほど木属高校であることが自慢らしい。
だが、木属高校とはな……。
「ちょっとお、鈴木さん。どうしたのよお、こ~んな若い男を連れ回して」
「え? ええと、若い男って……この子は」
母さんが私の事を紹介しようとしてくれるが、ボスママはそれを遮り話し続ける。
「ホストとかにハマちゃったの~? うわ~、やっちゃったか~。あるよね~。年取ってからホストにハマっちゃうとか。ほら、わたしってさばさばしてるじゃない?」
知らない。
「だからさ、その感覚が分からなくてさ~。こういうイケメンってのはね~……まあ、でも、筋肉もあるか~。でも、ごめんね~、私には愛すべき夫と息子がいるし。それにほら、わたしってさばさばしてるじゃない?」
知らない。
「だから、愛する人は裏切れないんだよね~。まあ、ただ、私ってさばさばしてるから、どうしてもっていうんなら一回くらいは呑みにいってあげてもいいわよ、がはは」
いかない。
そして、
さばさばとは?
よく分からない。さばさばしていればなんでもありということなんだろうか、さばさばはもしかして……状態異常!?
『まあ、ある意味状態異常ですね。この人の場合は』
そうか……さばさばの呪いか……可哀そうに。
だが、私には解呪は出来ない。なので、精一杯丁寧にお断りさせて頂こう。
「お誘いありがとうございます。ですが、私はまだお酒を呑める年ではありませんのでお断りさせていただきます」
ヴェルゲルガルドでは付き合いで吞んではいたがニポンでは私はノリオ様の代わりで、ノリオ様の年ではまだ飲むことが出来ない。
だが、ボスママはそれが意外だったようで目を見開いている。
「はあ!? 未成年のホスト!? ちょっと! 鈴木さん! あんた、ヤバくない!? 嘘でしょ、そのレベルのホスト狂いなの!?」
ボスママが騒ぎ出した。さばさばの呪いが悪化したのか!?
というか、さっきから出ているほすとってなんですか?!
また私の知らない単語が! あああ、勉強不足也! 愚かなレオンハルトォオオオ!
「いえ、あのね」
「うーわ、マジか。ちょっと……これは……ママ友として言わせてもらうわよ。そんなので息子や娘に悪いと思わないの? マコ、あんた、ママがホスト狂いだったらどう思う?」
「ショックだね。まったく……清楚な見た目なのに、男に飢えているなんて……ごくり、まったく、ごくり、もうだよ……ごくり」
真殿が、とても喉を鳴らしながら私越しの母さんを見ようとしている。
しかし、何をこの人たちは言っているんだ?
「あのー」
「言い訳無用! わたしってさばさばしてるでしょう!」
知らない。
「そういうのほんとに無理なのよ! ママ友として許せないわ! わたしってさばさばしてるから!」
知らないし、多分関係ない。
「鈴木さん、あんたもちょっとは私を見て学んで! わたしってさばさばしてるから!」
知らない。
「正直に答えな! この男のことをどう思ってんの!?」
母さんは頬を赤らめて私の腕を取り自分の腕を絡ませる。
「大好きで愛してますよ」
「さばっ!?」
ボスママがすごい顔をしている。さばさばの呪い恐るべし。
「す、鈴木さん! 見損なったわ……いくらわたしがさばさばしてるからって見過ごせる限界が……」
「あ、この子、息子のノリオです」
「さばばっ!?」
さばさばの呪いが強化されたようだ。もっと凄い顔になった。
「うふふ、私の自慢の息子の、イケメンで筋肉もあって荷物も持ってくれるやさしいノリオです」
母さんが嬉しそうに笑ってくれている。
だが、近い。あと、腕にやわらかいものが。
そして、こっそり……か、かあさん右手! なんであなたさわさわしてるの?!
私ってどきどきしちゃうから!
お読みくださりありがとうございます。
また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。
最近ふと書いた短編が思った以上に呼んで頂けているのでもしよければ…
囮女~デブスはいらないと追放された女重騎士は退職金代わりのビキニアーマーで身も心も軽くなり追放してきたパーティーを軽々飛び越える~
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5000字程度なのですぐ読めちゃいます!