ニポン45歩目 すとーかーと戦った! ヤバいです!
「いらっしゃいませ」
「きゃ、ノ、ノリオ君、また来ちゃった」
アルバイト先でのお仕事は順調だった。
店長さんは丁寧に教えて下さったし、私も出来る限りの努力をした。
それに来られるお客様も優しい。
あとは……
「いらっしゃいませー」
「やあ、ユイちゃん、また来たよー」
私の視線の先でユイさまがにこやかにお客様に対応していらっしゃる。
ユイさまがとても良いお手本になってくださっているので助かっている。
「いやあ、ノリオ君とユイちゃんのお陰で大忙しだよ」
店長さんがそんな事を言いながらキッチンであわただしく作業をしている。
「そうなのですか?」
「そうなのですよ。こんなお客さんがいっぱいになることなんてなかったんだから。ユイちゃんはかわいいし愛嬌あるしで、ノリオ君は丁寧でピシッとした接客で王子様なんて呼ぶ人もいる位で、二人目当てのお客さんが多いんだからね」
「いえ! 王子様は飲食店で接客などされないと思います!」
「いや、例えね、例え。僕も流石にどこかの国の王子様を雇う勇気はないよ」
店長さんが呆れたように声をを出す。や、やってしまった!
「店長様! もう二度とこのような失態はしないので追放だけは!」
「しないよ!? まったく、まあ、君のその天然なところもウケてるんだけどね」
やった! ウケてるらしい! ノリオ様にもよくウケて頂いていたなあ。
それにしても王子か……ヴェルゲルガルドでの王子と言えば、ユイさまの尻を追いかけ回していたあの王子くらいしか思い浮かばないからな……あまり良い思い出はない。
「そういえば……」
私はユイさまの方を見てふと思う。
「いらっしゃいませ! 二名様ですね!」
あとで、聞いてみるとしよう。
「え!? 私の元気がない?」
帰り道、隣で驚いているユイさま。
私にはこの頃、どんどんと元気をなくしているように見えた。
「ええ、もしかして、私と働くのが億劫なのではないかと」
「いやいやまさか! むしろ! 課金したいくらいだよ! 一緒にアルバイトなんて」
カキンとは?
「では、どうして?」
「ん~……実はね、最近、ストーカーされてるみたいなんだ……」
「すとーかー?」
すとーかー……ヴェルゲルガルドにもいたな、影の追跡者と呼ばれる魔物が。何をするでもなくただただ影となり付いてきて冒険者の心を削る厄介な魔物。
「……というヤツですか!?」
「うん、奇跡的にほぼ正解だよ」
やった! 正解した!
いや、喜んでいる場合ではない! ユイさまの浮かない表情は影の追跡者のせいだったのか!
「まあ、こっちでは実際の人間がね。ずうっとついてくるの」
「何故、そんなことを?」
「た、多分、わたしのことが好きだからだと思う。お店のお客さんっぽくて……一度告白してきた人なんじゃないかなと……」
「何故、好きなのに迷惑を掛けるのです? それに、そんなことをする暇があるのならもっと自分を磨いて振り向いてもらった方がよいのでは。それは愛していると言えないのでは?」
『出た~、レオの正論ぱんち~』
超賢者様がユイさまの隣で呟いている。ええ、パンチですとも! そんなやつ!
ユイさまは、何故か胸を押さえている
「ユ、ユイさま?」
「も、もうやめます~!」
「やめる!? 何をですか!? 喫茶店をですか!? そんな……!」
「あ、ち、違うの……あの、実はね、レオの事が、その、心配で……時々さぶ賢者Aちゃんに状況を教えてもらってたの……それで、ご、ごめん」
ユイさまがバツが悪そうな顔をして謝って来られる。
「な、なんだ、そういうことでしたか。そんなこと構いませんよ。むしろ気に掛けて頂いて有難いですし、それに……」
そこまで言いかけて私は壁に頭をぶつける。
「レ、レオォオオオ!?」
「す、すみません……壁にシャドウが居た気がして」
「それにしても頭突きはヤバいよ!?」
ユイさまが心配そうな顔をしている。
いかんいかん、今、何を言いそうになったレオンハルト。
そんな考えは捨てろ!
愚かなレオンハルトォオオオ!
「と、とにかく、ユイさまに隠す事など一切ありませんので、さぶ賢者A様から何でも聞いていただいても大丈夫ですよ」
「なん、でも、だと……?」
ユイさまの目が輝いた。白狼王のような目をしている。
「わ、わかったわ……なんでも……ほどほどになんでも、それなりになんでもきくようになんでもするね」
何かを間違ったかもしれない。
いや、それにしても。
「その、ストーカーはなんとかせねばですね。ユイさまが嫌がっているなら猶更」
「そうだよ、レオがストーカーしてくれるならまだしも」
謎の答え。
だが、その時私は閃いた!
「それです!」
「え!? レオ! 私のストーカーしてくれるの!?」
「しません!」
そうだ、ノリオ様もよく言っていたではないか!
目には目を歯には歯を!
私は早速行動に移すことにした!
夜の街角で黒づくめで細身の男がじいっと部屋を見ている。
「ひ、ひひ、ユイちゃあん。今日もかわいかったね。君の可愛さは余すことなく僕が目に焼き付けてあげるからね。も、もう、二人の時間は大分過ごせたし、そ、そろそろ家にお邪魔してもいいよね。だ、大丈夫。僕は紳士だから、寝顔を見て、ちょ、ちょっと写真を撮るだけさ……ひ、ひひ……」
男は、ゆっくりを音もなく移動し、玄関から入り込もうとする。
だが、
「いたっ! なんだ、静電気か?」
ユイさまの魔法〈聖域〉によって侵入を阻まれる。
さて、ここからが本番だ。
「ひ!?」
男は自分の背後に何かが立っていることに気付き身を竦ませる。
「だ、だれだ?」
「ぷるるるるる、ぷるるるるる」
「だれなんだよ……!」
男が囁き声ながら語気を強める。
恐怖を感じているようだ。
やはり、この作戦は成功だったようだ。これはごぶりんから『吊り橋効果』でドキドキさせるために覚えたという怖い話の一つを参考にした私の作戦。
「わたし」
「ひい!」
背後から迫る恐怖。
私はそっと呟く。
「わたし、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」
「最初からクライマックスゥウウウ! いや、メリーさんそんなんじゃねえから!」
ストーカー男が何か言っている。ん? 間違えたのか?
ストーカー男は慌てて逃げだして行く。
だが、逃がさない。目には目を!
「はあはあ、こ、ここまでくれば……ひい!」
背後に迫りそっと呟く。メリーさんじゃないならなんだ?
「わたし、ペリーさん、いま、あなたの後ろにいるの」
「黒船来航ぅうううううううう!」
「わたし、コリーさん、いま、あなたの後ろにいるの」
「かわいいわんちゃああああん!!」
「わたし、フェアリーさん、いま、あなたの後ろにいるの」
「でっかい妖精さぁああああああん!」
「わたし、メンディーさん、いま、あなたの後ろにいるの」
「関口ぃいいいいいいいい!」
「わたし、チュンリーさん、いま、あなたの後ろにいるの」
「ストリート○ァイターシイイックス!」
そうして正解が分からぬまま追いかけ回したストーカー男は最後には……
「と、東京スカイツリーさん、もう、自首しますから、ゆ、許して……」
泣きながら許しを乞うてきた。
うむ! 目には目を歯には歯を大作戦成功だ!
「ユイさま、これで貴方を脅かすものはいなくなりましたよ……!」
「う、うん、ありがと」
背 後 に い た
「ユ、ユイさま……?」
「ご、ごめん、レオが心配で、ついてきちゃった……レ、レオ、背中おおきいね……」
ユイさまには勝てない。そんな気がした追跡劇だった。
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