ニポン42歩目 ちいさな子と戦った! ヤバいです!
「な、なんなんだよ! ソイツ!」
赤髪の子どもが私を指さし睨みつけてくる。
生意気なあの様子……ヴェルゲルガルドで出会ったハーフリングの少年に似ている。
彼も小さいながらに色んなものを見下していたように思う。
そんなハーフリングを見ながら姉さんは、私の身体に手を置いて笑う。
「この子は、私と毎日一緒にいい汗をかくかんけ」
「おとうとだー!」
姉さんが誤解を生みそうなことを言いかけたので、遮るように叫ぶ。
ハーフリングはわなわなと震えている。
「え? じゃあ、それってもしかして……行方不明になっていたノリオってコト!?」
「そうだ!」
どうやら、ハーフリングはノリオ様のことを知っているようだ。
ん? 知っている? マズい! このハーフリングの情報はノリオ様から与えられていないぞ!
一方、ハーフリングは、にやりと笑ったかと思うと、こちらに歩み寄って来て、私の腹を軽く殴る。
「なーんだよ、ノリオかよー。ひさしぶりー! お前、なに、かっこつけてイメチェンかましてんだよ! 似合わねー!」
随分と気安く話しかけてくる。
ノリオ様と親しいお知り合いだったのだろうか。
こうなると、誤魔化すのは難しそうだ。
「や、やあ……だが、すまない。色々あってな……私は……」
「ノリオ、記憶が曖昧なのよ。だから、アンタのことなんて分からないっぽいわよ」
長い黒髪のお友達が、代わりに答えてくださる。
ありがとうございます!
必殺記憶喪失で乗り越えるしかない、と私も考えていました!
すると、その言葉をハーフリングは私の方を見て話しかけてくる。
「う、うそだろ……一緒に胸の揺れ方ナンバーワンコンテスト、むね1グランプリ審査員をやったり、しりのうつくしさを競う尻1グランプリ審査員をやった仲じゃないか!」
ノリオ様?
い、いや! 違う! ノリオ様はそういった事をカモフラージュにしてダメな男を装い、裏で暗躍していたのだ! このハーフリングはそうとも知らず、むね1ぐらんぷりやしり1ぐらんぷりの審査員をしていたのだ。愚か者め!
「悪いが……私はむね1グランプリもしり1グランプリの審査員も卒業する」
「嘘だろ! まだ早いよ! 次世代が育つまでオレ達でむね1グランプリや尻1グランプリを続けて行こうって誓い合ったじゃねえかよ!」
記憶にない。まあ、ノリオ様がやっていたことなので当たり前なのだが。
妙にこのハーフリングの熱意が大きすぎて困る。
と、思っていると、姉さんが、ハーフリングを剥がしてくれる。ありがとう、姉さん!
「レオ……アタシの胸と尻は何点?」
姉さん!?
姉さんが何とは言わないが、持ち上げて見せつけてくる。やめてください!
それに……。
「おい、貴様、何をしている……」
「ひ!」
私は姉さんの尻を背後から掴もうとしていたハーフリングの手を掴みにらみつける。
油断も隙も無い。本当にあのハーフリングの少年に似ている。
「オ、オレも一緒に審査をしてやろうと思っただけじゃねえか!」
「審査するつもりはない!」
「レオ……アタシの尻は予選落ち……ってコト!?」
姉さん、状況がややこしくなるんで黙っていてください!
ハーフリングは、キッと私を睨みつけると私の腕を殴り、手を外そうとしてくる。
「いいのかよ、ノリオ……大体、お前は年下のオレにも勝てなかっただろうが。勝てたのはエロ知識だけ……まあ、そこはオレも尊敬してたよ……」
ノリオ様? こんな小さなハーフリングに負けていた……いや、わざとに決まっているだろうが!
「君に、花を持たせてあげていただけだ」
「はん! じゃあ、稽古つけてくださいよお、ノリオ先輩! ただし! オレが勝ったらお前は一生オレの言う事を聞け!」
コイツは何を言っているのだ? そんな条件……
「分かったわ!」
姉さん?
「ただし、レオが勝ったらレオは一生アタシの言う事を聞く事!」
姉さんは何を言ってるんだ?
「はいはい、ミオリ、混乱しすぎて変なこと言っちゃってるよー」
「ブラコンこじらせすぎでしょ」
「まあ、条件はともかく、ノリオ、悪いけど、コイツこてんぱんにしてあげてくれないかな。ノリオがいなくなってからもどんどんと悪戯がエスカレートしてて」
姉さんのお友達が姉さんを抑えながらそう仰る。
なるほど、どうやらハーフリングは道場で頭の痛い存在のようだ。
「かしこまりました。一度しっかりと……く!」
私がお友達の方を向いている隙を突いて、ハーフリングが足を蹴り上げてくる。
しかも、狙いは金的!
間一髪で躱すが……
「金的は反則じゃないのか?」
「はん! これはただの勝負だからな! 大体、こーんな大男と戦わなきゃいけないかわいそうでちいさいオレなんだ。そのくらい、アリにしてくれ、よ!」
ハーフリングはそう言いながら、私に攻撃を仕掛ける。
金的を狙う素振りを見せながら素早く動き回り多彩な攻撃を見せてくる。
意外にも実力はあるようだ。本人が言う通り身体がちいさいので一撃の重みはないが、狙いは的確だし、的を絞らせない動きは見事だ。
「おらおら! 降参か! ノリオ! 手も足も出ないじゃないか」
確かにハーフリングの言う通りだ。手も足も出ない。どうすれば……。
困り果てた私が視線を道場内に彷徨わせると、良いものを見つけた。
「あれだ!」
私は道場の隅で倒れている鞄からはみ出していた二つのぬいぐるみを手に取る。
これはユイさまに教えて頂いたかわいくてちいさいぬいぐるみだ。
「それを……どうするつもりだよ?」
ハーフリングが怯えた目で、ぬいぐるみを両手に持った私を見てくる。
「これで……お前を倒す!」
「ハァ!?」
私は、ゆいぐるみをもったままゆらりと構える。
先程までは手も足も出なかった。私の攻撃をそのまま当ててしまえば大変なことになるだろうから……だが! 今は違う! かわいくてちいさいぬいぐるみのやわらかさで衝撃を吸収させる! 使わせていただいた方、あとで弁償します!
「倒す? それってもしかして、そのぬいぐるみでオレを殴るってコト!?」
「そういうコトォオ!」
「い、イヤーッ!」
私は両手に持ったかわいくてちいさいぬいぐるみでハーフリングに襲い掛かる。
「ハア!」
ぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふ!
「まだまだ!」
ぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふ!
「これでどうだ!」
ぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふ!
「イヤー! かわいくてちいさいぬいぐるみが何度もオレに体当たりしてくるし、絶妙に痛くないのが怖い!」
ハーフリングには、かわいくてちいさいものが壁のように迫ってきているように見えていることだろう。
だが、圧倒的手数と速さで実力差は歴然。
最初は構えて防御の姿勢をとっていたハーフリングも途中から腕から力が抜け完全に戦意喪失状態だった。そして、私が攻撃をやめると……。
「………ワァ!」
泣いちゃった。ハーフリングは、わあわあと泣き始めた。
これで、少しは反省してくれればいいのだが……。
「そうだ、このぬいぐるみの持ち主の方に謝らねば……勝手に借りてしまい……」
「あー、ノリオ君。いいよいいよ」
私がぬいぐるみの持ち主の方を探そうとすると黒髪のお友達が手で制す。
「そのぬいぐるみ、その子のだか、らっ……!」
黒髪のお友達が言いかけながら目を見開く。
私の後ろで何かを見たようだったので、振り返ろうとすると、いつの間にか背後に駆け込んでいたハーフリングが笑っていた。
しまった、泣き真似か! 小賢しい真似を!
「ばあか! ばあか! ざあこ! 喰らえ! お前直伝のズボン落とし!」
ハーフリングは私のズボンを掴み引き下ろそうとしてくる! マズい!
両手にぬいぐるみがあって、ズボンが! コイツ、『全部』をしっかり掴んでいる! これは不味い!
「ノリオ! 昔みたいにかわいらしくてちいさなアレを曝け出して泣いちゃえ!」
ずるり!
ハーフリングが私のズボンと、パンツを引き下げてしまう!
すると、当然私のアレが……。
笑っていたハーフリングは表情が一変し、目を見開き……。
「か、かわいくないし、ちいさくもないぃいいいいいい!」
顔を真っ赤にして涙目でふらつき始める。
「あ、危ない! 倒れる!」
目を回しながら倒れ込むハーフリングに慌てて手を差し出す!
なんとか間に合うか。
床ギリギリでぬいぐるみを持った手を差し込む! よかった! 間に合っ……!
ぷに。
ん?
ぬいぐるみ越しではあるが、ちいさくてかわいらしい何かが当たった。
もしかして、コイツは……いや、この子は……。
「ごめんねえ、この子のこともあんま覚えてないよね」
黒髪のお友達がハーフリングを支える私に近づいて謝ってくる。
そういえば、ハーフリングとこの方は顔が似ているような……。
「この子、あたしの妹、輪宮寺風莉」
い、い、妹って事は……それってもしかして、女の子ってコトォオオ!?
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