ニポン41歩目 姉さんと稽古をする! ヤバいです!
「やあやあ、よろしくねー、ノリオ君」
「それにしても、あのノリオ君がこんな大きくなるとはねー」
「男の子の成長は早いねえ」
私と私の隣を見ながら先日偽の槍サークルの件でお会いした3人がうんうんと頷いている。
この前教えて頂いたように3人は姉さんと同じ道場に通っている方たち。つまりは、ノリオ様と同じ道場に通っていた方たちなのだが……。
「申し訳ありません。記憶が曖昧で……」
私はお会いした事がないので記憶曖昧作戦で乗り切るしかない。
姿勢が難しい中出来るだけ頭を下げると、3人は目を見開き、慌て始める。
「い、いや! いいんだって! そ、そんな謝られると困るって言うか」
「そーそー、わたしたちだって、ノリオ君だって気付かなかったわけだし」
「こちらこそごめんねー。ていうか、それより……」
3人の視線がゆっくりと私の隣に注がれる。
まあ、それはそうだろう。
私の隣で、
「うううぅうううう……!」
姉さんが唸っている。まるで狼女のように。
「ミオリ、なんであたし達に向かって唸ってんの?」
「アンタ達の目が獣の目をしている……!」
ショートカットのお友達が近づこうとすると、姉さんが私の腕を抱きしめ引き寄せる。何とは言わないが腕が挟まれて本当に困る。
やわらかい。おおきい。こまる。
「えー、だってぇ、ノリオ君がこんなにステキになったらね。そりゃ、気になるじゃない」
「そこ、2つ目のボタンを外すな。ウチの弟の教育に悪いわ」
緩いウェーブのかかった茶色いミディアムヘアの女性がちらりと胸元を見せてきたのを慌てて姉さんが隠そうとする。
見えていない。おおきかったなんて見えてない。
あと、姉さん何故後ろから目隠しをするのですか?
前からでお願いします。でないと、おおきなものが当たって邪念がががが。
「ノリオ君、今、ワタシの胸は揺れてるよー……昔みたいに見ないのー?」
「ノリオ! あんな下品な揺れより姉さんの揺れを見なさい」
いえ、どちらも見ません。見ませんから目の前でジャンプをしないでください。
おおきなものを揺らさないでください。
姉さんの姉さんを揺らす姉さんの向こうで長い黒髪の女性がにやりと笑っている。
謀りましたね! 姉さんのお友達様!
姉さんの持つ姉さんの姉さんを揺らそうと!
邪念が! 邪念がぁあああああああああ!
愚かなレオンハルト! 愚かなレオンハルト! 愚かなレオンハルトォオオオオ!
「姉さん!」
「え? かっこいい、好き、なに、レオ?」
私は決死の思いで揺れる幻惑魔法を乗り越え姉さんの両肩を掴み迫る!
「もっと、自分を大切にして」
「え? かっこいい、好き、姉さん、自分を大切にするわ、あなたのために」
何か違う。
だが、とにもかくにも姉さんが思いとどまってくれた。それだけでも収穫だろう。
とにかく姉さんは暴走しがちだ。
家から出ると過保護に私を守ろうとしてくださるし、食事でもお風呂でもお手洗いでも手伝おうとする。あまりにも悲しそうな目をするので食事だけは時折手伝ってもらうようにしたが……。だがまあ、弟である私を助けたいと思ってくれているのは家族として嬉しいのは嬉しい。
そんな姉さんの様子を3人のお友達様は眺めながら呆れたように笑っている。
「もー、ミオリがそんなブラコンだったなんて」
「いや、それな。マジブラコン」
「うーん、流石にこれはブラコンだねえ」
「ち、違う……! ブラコンじゃ……レ、レオ! レオはどう思う?」
姉さんがお友達にからかわれるように言われ、私に助けを求めてくる。
ここは、弟の私がなんとかせねば!
だが……。
ことばの意味が分からない!
ブラ、コン……?
何かの略称だろうか。ニポン人は略称を好むからな。
ブラ……コン……。
そうか、ブラックコング! 黒大猿のことか!
確かに姉さんは陸上でも指折りの強者である黒大猿を思わせる強さがある!
だが、見た目は全然違う!
なので、私はにやにや笑うお友達に向かって言わせていただく!
「いえ、姉さんはとてもかわいいです!」
「「「え?」」」
「fぢえうss、lfmそいんkrrはすいどぇえええええ?」
姉さんが古代エルフ語のような言葉で何かを言っている!
姉さん、古代エルフ語も使えたんですね! だがしかし! レオンハルトはわかりません! 勉強不足ですみません!
「あらあら、ごちそうさま~」
「今日はなんだか暑いね」
「そ、そうね……やあ、あはは……じゃ、じゃあ、あたしたち先に行ってるわね」
口々にそう言って姉さんのお友達は手で顔を扇いだりしながら去っていく。
先程の古代エルフ語は天候を操り気温を上げる魔法か何かだったのだろうか?
しかし、自身にも影響があるようで、姉さんも耳を真っ赤にして俯いている。
「ね、姉さん? 大丈夫? 暑いの?」
「うん、あつい」
そう呟くと、姉さんは私をサバ折りに……。
「レオが変な事言うから熱くて熱くて堪らない……! 覚悟してね、レオ」
「は、はい」
熱を持った姉さんがぎゅっと私を抱えている。胸と腹の間に当たるやわらかくて大きいものが、ツラい!
ミオリ様! レオンハルトも男ですので! 男ですので!
節度を! 節度をおおお!
いや!
お前の心が未熟ゆえだ! 愚かな! 愚かなレオンハルトォオオオ!
私は姉さんに倣って正拳突きを精神世界の中で行う。
なるほど! これは雑念が消えてとても良い……。
「!! レオが……すっきりした顔を……そんなもしかしてレオ……姉さんで……?」
「さ、いこう。姉さん。稽古の時間だよ」
姉さんが軽々と色んなものを踏み越えてくる。
声質が低めで落ち着いて聞こえるのでとても恐ろしい。
「ひゃはははは! ざぁこざぁこ!」
道場に向かうと、一人の子どもが大人を踏みつけて笑っていた。
それを見ていた長い黒髪のお友達様が、眉間に皺を寄せて不快そうに呟く。
「あのクソガキ。また、センセイがいないのをいい事に暴れてんのか」
なるほど、あの子どもはかなり暴れん坊らしい。
身体の大きな大人を倒して誇らしげに笑っている。
ヴェルゲルガルドの騎士団にもああいう者が居た。
若い故に、自分の力を誇示したくてたまらないのだろう。
子どもはこちらに気付くとぺろりと舌なめずりをして大声で叫ぶ。
「来たなあ! ババア共! 今日も『お稽古』つけてくれよお。まあ、間違って色んなところを触っちゃうかもしれないけど、許してくれよな、ひっひっひ」
赤茶の髪を恰好付けて掻き上げながら厭らしく笑う子どもに3人は呆れている。
「アンタねえ、いい加減に……」
「はい、ババアの説教はながーい! それより、ミオリ姉! 最初はアンタがオレにお稽古つけてよ、なあ、いいだろ?」
指をいやらしく動かしながら子どもは姉さんを見つめる。
子どもとは言え流石に私も不快に感じてきた。
だが、そんな私を姉さんが制する。
「大丈夫、アタシに任せて」
姉さんの鋭い目が私を捉える。そして、その凛とした表情を子どもに向けると、
「断るわ! 今日アタシはこの子に1日中『お稽古』を付ける為に此処に存在するのだもの!」
凛とした声、凛とした表情、凛とした姿で姉さんはそう言い放つ。
子どもは唖然としている。それはそうだ。
姉さん? 姉さん、『お稽古』とは健全なものですよね?
「じゅる……おっと」
何故、涎をふいたのです? 出たのです? 姉さん?
お読みくださりありがとうございます。
また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。
よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。
今まで好きだった話によければ『いいね』頂けると今後の参考になりますのでよろしくお願いします!
また、作者お気に入り登録も是非!