ニポン38歩目 べんきょうした! ヤバいです!
ラブコメ……ムズカシイ……
私は、走っていた。
金髪ツインテールの美少女がガラスに映った前髪をじいっとチェックしているのが遠くに見える。
周りにいる男達は彼女の可愛さにちらちらと横目で見ており彼女がどれだけ人の目を集めるか実感していた。
そんな彼女の元へ慌てて辿り着く。
「ごめん! 待たせた?」
彼女は、リオナは、腰に手を当てて小さく頬を膨らませた。
「遅いよ! おにいちゃん」
「ごめんな。リオナとのデートが楽しみすぎて、眠れなかったんだ」
「ぐふ!」
うめき声をあげたリオナが胸を押さえてよろめく。
「リオナ?」
「なんでもない! それより、今日のわたしの恰好見て何かないの?」
リオナは服を見せつけるようにして手を広げる。
グレーのミニスカートからは細くて綺麗な脚が見えて心臓に悪いし、ふんわりとした大きめの上はまた彼女の顔の小ささと可愛らしさを強調して心臓に悪い。
「すごくかわいいよ」
「うぐ!」
リオナが心臓を抑える。
何故だ?
台本通りなんだが?
そう、ここまでの流れは台本通りなのだ。
事の発端は、2週間前のことだった。
私はリオナの勉強を見てあげていた。
「なあ、リオナ」
「ん~、なにおにいちゃん?」
「おにいちゃんは、おにいちゃんだよな?」
「おにいちゃんは、おにいちゃんよ。何いっているの?」
「だよな。おにいちゃんは問題集じゃないよな?」
「おにいちゃんは問題集じゃないわ。何言ってるの?」
「だよな。だったらさ……見過ぎじゃないか?」
リオナがチラチラと私の顔を見ながら問題を解いている。
まるで、答えがそこに書いてあるかのように見ては問題を解き、見ては問題を解きを繰り返している。
「だって、おにいちゃんを見てると解ける気がするんだもん」
「そ、そうか」
すごい見てくる。
あと、すごい近い。
これも謎だった。
以前は椅子二つを並べて勉強を見ていたのだが、
『椅子が一つ壊れたの』
『そうか、じゃあ、私は立って……』
『お兄ちゃんの足腰が心配だから一緒に座ろ』
『いや、じゃあ自分の部屋から』
『この部屋椅子が嫉妬して他の椅子があると壊しちゃうみたいなの』
恐ろしい呪いだ。
意志を持った道具が魔物化するというのはヴェルゲルガルドでもあった。
だが、椅子が椅子を破壊する呪いとは……。
そういうわけで、一つの椅子に二人で座っているのでものすごく近い。
私の精神が未熟な故に申し訳ないのだが、リオナのおしりにどうしても私の尻が触れてしまい邪念が過ぎる。ああ、愚かなレオンハルトォオオオ!
邪念を捨てろ!
血が繋がってないことが知られたとはいえ妹が真剣に勉強をしているというのに!
「ちょっと! おにいちゃん!」
私の邪念を感じ取ったのかリオナが声を荒げる。
「す、すまない、リオ……」
「もっとこっちにおにいちゃんの硬いお尻寄せて来れば!? お願いします」
「……はい」
「前から思ってたけどおにいちゃんのおしり良いと思うだけど!」
邪念を感じた。
とにかく何をするにしても近くて、密着しており、声もすぐそばで聞こえるのでくらくらする。私の正体を知ってからの最近のリオナの甘えっぷりはとてつもない。
「んふふ~♪」
嬉しそうに私の二の腕に頭をこすり付けながら勉強をしている。器用ダネ。
「リ、リオナ……集中しなさい」
「してるよ、おにいちゃんの腕ちょっと硬くなったね。トレーニングのせいかな」
違う違う、ソッチジャナイ。
こういう時は……ヴェルゲルガルドの騎士団の若い後輩を指導していた時のアレで。
「リオナ、じゃあ、こうしよう。今度のテストで良い点とったら、ご褒美をなんでもあげるから」
「わかったわ」
リオナがぜんしゅうちゅうに入った。
音が消えたのかと思うくらいリオナは視覚情報とその思考に没頭している。
騎士団でも何か褒美をと言ったら、後輩たちはやる気を出していたんだが、ここまでになるとは思わなかった。
そういえば、何故かフラウがご褒美を欲しがった時もこうだったな。
あの時は確か……オークの群れに襲われて生きて帰ることが出来るならなんでもしてやるよとか言ったら、あっという間にオークを全滅させてたな。
それを思わせるほどのリオナのぜんしゅうちゅう。
「ぜんしゅうちゅう、こいのこきゅう、こいのこきゅう……こいこいこいこいごほうびこいこいこい、おにいちゃんとのらぶらぶいちゃいちゃでーとこいこいこいこい」
リオナの圧がすごくて問題集が泣いているように見えた。
そして、
「とったわ」
あの時のフラウが手に持っていたオークキングの首のようにリオナがテストを見せつけてきた。全教科100点だった。
私の妹がすごすぎる。
「お、おめでとう」
「んふー♪」
自慢気に鼻息を荒くする。妹。かわいい。
自然に頭を突き出して撫でられる態勢になっている。かわいい。
撫でると全身で嬉しさを表現する。かわいい。
「じゃあ、おめでとう」
「じゃないよね」
夕食の準備に入ろうとすると頭を撫でていた手を掴まれた。すごい力だ。
そして、その手をそのまま動かしながら頭を撫でさせ、話を続ける。
「ごほうびがあるよね」
目が真っ黒だ。闇に堕ちヴェルゲルガルドを恐怖に陥れたあの魔女のようだ。
「あるよね? ね?」
闇が深い。
「も、勿論。何が欲しいんだ?」
「おにいちゃん」
闇が深い。
「っていうのは、一旦冗談で」
一旦?
「その……」
急に歯切れが悪くなり、顔を赤くする。
私がリオナの顔を覗き込むとリオナは顔をより真っ赤にさせて。
「見るなあ! その、でででででででででででーとね! 今度!」
一生懸命言葉にしたリオナを見て思わず笑ってしまう。
お出かけなら、よろこんでしよう。
がんばったリオナの為だ。
「わかった。いい、よ……」
「ありがと、じゃあ、これおにいちゃんにしてもらいたい台詞とシチュエーションね」
次の瞬間、私の空いていた方の腕に紙束が差し込まれた。重い。
「私も完璧にしてくるから。おにいちゃんもよろしくね」
そう言ってリオナは嬉しそうに金髪を揺らして自分の部屋に戻っていく。
紙束にはとてつもなく細かい指定されたデートプランとそれに伴った要望がかかれていた。
あれ? リオナ?
遅くまで頑張っていたのってもしかして、この台本を書くためだったのか?
我が家自慢の妹の天才っぷりに私は呆れるしかなかった。
そして、
『遅れてくるおにいちゃん、図7の体勢で「ごめん、待った?」といい、私がむくれると優しい微笑みで私を見る。私が服装の感想を求めると、A~Hまでの選択肢の中からおにいちゃんが一番適切だと思うもので答えよ』
デートに向けて必死に勉強を始めたのだった。
そして、当日。
「ん? どうしたの? おにいちゃん?」
金髪をふわりと揺らし、リオナが振り返る。
いつもにも増して髪の毛が艶やかだし、メイクも気合が入っているようだ。
妹の勉強熱心さに私は笑ってしまう。
「いや、リオナは本当にかわいいなって」
「なっ……!」
リオナは驚いた表情を浮かべ一瞬固まるとずんずんと私の方に来て私の腕を掴んでぐいと引っ張る。
「い、今のは……台本になかったからだめです。だめだけど、よかったので、これからもがんばりましょう」
そう言ってリオナは私の腕をぎゅうっと掴みながら歩き出す。
ウチの妹は可愛く、そして、心は単純で複雑な難問だ。
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