ニポン36歩目 ニポンで生きる! かわるます!
ほんとに完です!
「なにがどうなってるの!? レオ!?」
涎を垂らし、顔を上気させ、頬に鏡文字で大量のレオンハルトが写っているユイさまが家から飛び出し叫んだ。
「いや、ユイさまこそ何がどうなってそんなことにぃいい!!?」
私はおかあさんに頭を撫でられながら思わず叫び返す。
「あらあら、ユイちゃんもレオンハルトが大好きなのね」
おかあさんの言葉にユイさまが目を見開く。
「レオン、ハルト……? もしかして、レオ……」
「はい、申し訳ありません。ユイさま……私のせいで……」
「レオンハルトのせいじゃないわ。レオンハルトはいっぱいがんばってたから、ね?」
「は、はい、ですが……」
ずっとおかあさんが頭を撫でている。正直恥ずかしくなってきた。
「むぅうううう……状況は分かったけど、なんで頭を撫でているのかが分かんないんですけど、リノさん」
「うふふ、だって、家族だもの」
ほっぺたを風船竜のように膨らませて聞くユイさまに向かってそう言って更に私を抱き寄せ、抱きしめ、頭を撫で始めるリノおかあさん。
あぁあああああ! 柔らかさが! あたたかさが! ははの包容力がぁああ!
「ああ! レオが赤ん坊のような顔に! か、かわぃいいいいいいい! しゅきぃいいいいいいい!」
ユイさまが何か言っているなあ……でも、もうボク、なんだか、眠いんだ……。
「ああ! レオの頭上で超賢者ちゃんとさぶ賢者ちゃんが『おめでとう』と言いながらくるくる舞い踊ってる! だ、ダメダメ、レオ! ぬくもりが欲しいなら、わ、わたしが!」
「ふふふ、母のぬくもりに勝てるとでも? ね~え。レオンハルト」
「ふわあああああ、おかあああさあああん」
『『一旦全員落ち着けびーむ』』
「「「あばばばばばばばば!」」」
そして、あばられた私達は冷静さを取り戻し、ユイさま、リノおかあさんそれぞれに状況を説明した。
「……そっか、リノさんは、それでも、受け入れてくれるんだね。よかったね、レオ」
「はい」
「ほんとに……ほんとうに、よかっだぁあああ~」
ユイさまが大粒の涙をぽろぽろ零し泣いて下さる。
本当にこの方は……聖女様だ。私にとっても、たいせつな。
「ユイちゃん、レオンハルトを支えてくれてありがとうね」
「いえ……ノリオ君だって騙しててごめんなさい」
「大丈夫よ。ノリオはその、ヴェルゲルガルドだったかしら。そこから帰りたくなくて、レオンハルトが日本に来たっていうのなら、向こうで元気にやってるんでしょ?」
「はい! 5人の奥様とともに自分の国を持って!」
「………………ん? ご、に、ん?」
「はい! 5人です! ノリオ様のすばらしいちーと能力と人柄に魅せられたそれはそれは美しい女性達が!」
リノおかあさんが手に頬を当てたまま微笑を浮かべ固まっている。
顔がまっしろでなんだか小さくぴくぴくしている。
「……ユイちゃん、それ、ほんとう?」
「ええ……そうなんです。リノさん。ノリオ君、5人もお嫁さんがいてそれはそれは楽しそうに毎日仲睦まじく……」
「そう、そうなのね。あの人に似たのね……あの男にぃ……!!!」
うわああああああああ!
リノおかあさんの後ろに黒龍が見える! 見える! 見えるぞ!
か、身体が震えて動けない!
「まあ、いいわ。生きて元気にやっているんでしょ?」
「はい、それは元気に『うぎゃああああ! 浮気してごめんなさぁああああい!』……」
『元気そうです』
「元気そうですって、リノさん」
ユ、ユイさま? 確かに、元気な声でしたが今、超賢者様から聞こえた声はなんだか……。
『元気です。元気。今、裸で夜の王国を駆けまわっています』
「元気だそうです。今、裸で駆けまわっているんですって」
「そう、やんちゃね、ノリオ」
……うん、裸で走り回っているのなら元気だ!
私は考えるのをやめた!
「それで、私はこれから……」
そこまで言いかけるとリノおかあさんは私の方を見て、微笑んだ。
「ノリオは異世界で幸せに暮らす。レオンハルトはレオンハルトとして、ノリオと交代。ノリと替わって、ニポンで鈴木家の一員として暮らす」
替わって。
「代役なんかじゃない。あなたとして」
私は、生きる。鈴木家の一員として。
「はい……! 鈴木レオンハルトです! よろしくおねがいします!」
「ま、外だと色々不具合があるかもだから、一旦はリオナとミオリに話してウチ限定でかな」
「いえ、それでも、大丈夫です」
私が私としていられる場所があるなら、私はがんばれる!
「でも、一応の解決方法も思いついてるの」
「え?」
「流石リノさん! どういう方法?」
おかあさんはまた私の手を取り、私を引き寄せて抱きしめる。
「レオンハルトと誰かが結婚すれば万事解決でしょ」
「「え?」」
『『あ、それ、賢者たちもおもった~』』
けっこん? 私と鈴木家の誰かが?
たしかにー、そうすればーうむをいわさずまちがいなくかぞくだー。
って!
「「えええぇえええええええええ!?」」
「というわけで、誰と結婚するかこれから鈴木家バトルロワイヤルが開催されるから、帰りましょ、レオ? 今は、おかあさんだけど、リノさんって呼んでもいいのよ」
「……は?」
酔っている! 酔っているだけだよね、母さん?!
そして、ユイさま? 笑ってる! 笑ってるだけですよね? 顔真っ白だけど!
修羅場。
名詞。血みどろの激しい戦いや争いの行われる場所のこと。
おぼえました。
れおんはるとはおぼえました。
ニポンのことばをあたらしくおぼえました。
そして、ある日の週末。
「ね~え、な~んでリオナちゃんがレオ君の腕に絡みついてるのかな? 妹なのに変じゃない?」
ユイさまが怒っている。
「え~、別に変じゃないよ~。兄妹だし。っていうか、レオンハルトは、結局、血が繋がってないんだから、付き合っても問題ないわけだし~」
リオナが挑発している。
「それより、レオンハルト、アタシと、その、デー……おでかけする約束は、どうなったんだよ?」
ミオリ姉さんが真っ赤な顔で聞いてくる。
「うふふふ、まあ、ノリオも向こうで幸せに暮らしてるわけだし、こっちも仲良くやりましょう。仲よく、ね、レオンハルト」
リノさんが、背中を指でつつと撫でてくる。
レオンハルトであることは意外とすんなり受け入れられた。
お二人もリノさんと同じように、ノリオ様がヴェルゲルガルドで7人の奥様と仲良くなっていると聞いたら真っ白な微笑を浮かべ、頷かれた。
私の頑張りも認めて下さっていたようだ。
だが、
「ね、ねえねえ、お兄ちゃん。わたし、この恋愛漫画の登場人物の気持ちがわかんないんだけど! 勉強したいから同じようなデートしてっ!」
ベンキョウとは?
「だから! レオンハルトは! アタシと、その結婚生活の稽古をするんだよ!」
ケイコとは?
「ふふふ、レオンハルト。ハーレムは認めないけど、誰でも好きな人とお付き合いして良いのよ? おかあさんも今は独身だし、いいのよ?」
ドクシンとは?
「レオ、文字の練習しよっか? ん? だいじょぶだいじょぶ? 婚姻届じゃないよー、ただの紙だよー。ここにお名前書いてみよっか?」
コンイントドケとは?
ニポン語は難しいなあ!
「……でっばぁああああああん! 出番をくれぇええ!」
『……たすけて、たすけてくれぇえええええええええ!』
ごぶりんと、ノリオ様の声が聞こえた気がする。
あは、あはははははは。
こちらこそ助けて下さぁああああああい!
毎日毎日彼女達を守るどころか、己の身を守る日々!
あと、理性!
耐えろ! 耐えるんだ!
揺らぐな! 愚かなレオンハルトォオオオオ!
なんか、ヤバい! ヤバいぞぉおおお!
『ラブコメ展開なのに、しょうがないな~レオ太君は~ぱぱぱぱっぱぱぱ~魔法の言葉~ごにょごにょ』
超賢者様から魔法の言葉を教えていただく!
ヴェルゲルガルドでは聞いた事ない魔法だ! だが、今はこれに頼るしか!
「みなさあん! ……しゅきしゅきだいしゅきぃいいい! あなたにキュンです! ガチ恋でぇえええええええええす!!!!」
「「「「……!」」」」
馬鹿な……!
みんなが一斉に鼻血を出して倒れた……だと!?
なんて、ヤバい、魔法なのだ……!
「クソ真面目ぇ叫びぃ優勝過ぎる……」
「この本気度がしゅごい第一位……」
「顔が大リーグMVP……」
「声も名人&七冠おめでとうございます……」
よく分からないがありがとうございます!
「みなさん、これからもよろしくおねがいします!」
私は生きていく。ノリオ様と替わって。
異世界騎士レオンハルトは、ニポンで。
「「「「レオンハルト♪」」」」
なんかヤバいけど、がんばる!
第一部 完
お読みくださりありがとうございます。
ほんとに第一部完です!
よければ、第一部まででの☆評価をお願いします! 今後の参考にします!
第二部やるつもりはなかったのですが、もう少しだけ。
ガチガチの溺愛ラブコメとド勘違い学校編をお届けしようかなと思います!
また、ここまでに評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。
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