ニポン32歩目 オークに詰められた! 代わりに!
「いやー、すまんね。ちょっと昨日取引先と遅くまで密な打ち合わせをしていたら遅くなって」
そう言ってやってきたのはオーク、と見間違えるくらい丸い身体の男性だった。
「君が鈴木君の息子さんだね? 部長の大久保だ。ぐふ。お母様とは仲良くさせていただいてるよ。ぐひひ」
ほぼオークだった。笑い方がすごい似ている。
「なにが蜜な打ち合わせだよ。どうせ風俗だろ」
「私達を黙らせておけば会社にバレないと思っているのよ」
「パワハラで押さえつけて最低よね」
社員の皆様がぼそぼそと話していらっしゃる。なるほど、母の上司はあまり良い上司とは言えないようだ。
だが、上司は上司。挨拶はしっかりせねば!
「鈴木ノリオです! よろしくお願い致します!」
「ああ、よろしく。ところで、何故高校生のハズの君がスーツを着て仕事を?」
「母が倒れたので、代わりに働きに来ました!」
「……いや、なんでぇえ!?」
オーク部長が吠える。どうやらオーク部長はあばの効きが悪いようだ。
ぶひいと大きな溜息をついて、顔を横に振る。肉がぶるんぶるんしている。
「ふひぃ、いやいや、仕事を舐め過ぎでは……なあ、北野?」
「いや、でも……ノリオ君のお陰で午前中かなり業務が進みましたが」
「ぶひ!?」
私なりに頑張らせていただいた! 騎士団では孤児出身という事もあり、誰も仕事を教えてくれなかったから、見て覚えるのは得意だ。
「そうです。なんでも仕事が早くて本当に助かりました」
「ひぶ!?」
せめて動きだけでもと出来るだけ早く行動した! 他の人が一回行動している間に二回行動をしようと!
「部長が居ない間に、ギルドゥカンパニーの方来られて、ノリオ君も同席しましたけど、すごく好印象で帰っていかれましたよ」
「ぶぶぶ!?」
お得意様だったらしいのだが、私の元気な挨拶が気に入って下さったらしく、同席させていただいた。お話が興味深くただただ頷いて感想を言っただけだったが凄く喜んでくださった。
「ねえ、鈴木さん、息子さん、凄かったですよね」
「え、ええ……ほんと私が動けない分、すごく頑張ってくれて。助かりました」
「おふくろ。おふくろの教え方がすごい上手だったからだよ! それに会社の方がよくして下さったから。それもきっとおふくろの人徳故にだよ」
私がそう言うと社員の皆様が笑顔で頷き、それを見た母上様が困ったように笑う。
顔が赤い。
「あ、あらあら……まあまあ……もうノリオ、褒め過ぎよ」
「いや、褒め過ぎじゃありません」
「そうですよ、いつも鈴木さんには感謝してます」
「みんなタイミングなくて言いそびれてますけど、みんな鈴木さんには感謝してるんですよ。いつもありがとうございます!」
母上様が褒められて顔を赤くしている。かわいらしい。
やはり、母上様は素晴らしいお方だった。皆にここまで尊敬されているとは……。
「ほらね、おふくろは家でも最高の母親だけど、会社でも最高の人なんだよ」
「ノリオ……ありがとう」
「うう……なんて素敵な親子愛……」
「俺も今日帰って母親に電話しよう」
「私もケーキ買って帰ろう」
「鈴木さん、本当にうれしそう……う、う」
皆が泣いて拍手をしている。だが。
「ぶおっほん!」
オーク部長のとてつもなく大きな咳払いなおふぃすに響き渡る。
「さてさて、君達。感動的なシーンもいいがここは会社だ。仕事をしようじゃないか」
オーク部長が不機嫌そうに顔をひくつかせ周りを見渡す。
社員の皆様は一気に静まり返り、不満を露にする。やはり、あまり好かれていないようだ。
とはいえ、上司の命令には逆らえないようで皆仕事に戻っていく。
「じゃあ、ノリオ君。君は、若くて元気がありあまっているようだから、外の草抜きでもお願いしようか」
オーク部長がそう言うと皆さんがざわつく。
「は? 急に?」
「出たよ、部長のいやがらせ指示。大体こっちがみっともないからやった方がいいって言っても動かなかった癖に」
なるほど、ゾンビのようだ。
ヴェルゲルガルドの冒険者ギルドでは、放置されたままの依頼をゾンビと呼んでいた。
そして、ゾンビ狩りは、騎士団の下っ端がやらされていた。
「どうした? ノリオ君、お母さんの代わりに働くんだろう? しっかり働いてもら」
「分かりました! いってまいります!」
私は全力で草抜きに向かう。
「ぶひ。さあて、みんなも草抜き参加したいのかなあ? 参加したくないなら私の言う事を良く聞くべきだと思うけどね、ぶひひ……」
「終わりました!」
「ぶひぃぇえええええええ!?」
私が帰ってきたのにオーク部長がのけぞるように驚き肉が揺れる。
「は、はああ!? 何を嘘を!」
「嘘ではありません! これが証拠です!」
私は袋に入った大量の草を見せつける。
元々草抜きの仕事は死ぬほどヴェルゲルガルドでやっていた。
今回は、大きな影響はないだろうと〔速度強化〕を行ってあっという間に終わらせてやった。
「ぶ、ぶひい! じゃ、じゃあ、トイレ掃除」
「かしこまりました!」
〔速度強化〕!
「終わりました!」
「ぶぎゃあ! じゃあ、ゴミを全部ゴミ捨て場に」
「かしこまりました!」
〔速度強化〕〔腕力強化〕!
「終わりました!」
「も、もお!? じゃ、じゃああああ!」
私にどんどんと作業をさせようとするオーク部長。だが、数々のゾンビ狩りをしてきた私にとっては敵ではない! なんなら本物のゾンビ狩りが一番大変だった位だ。
「さ、作業、他に、何かやることはぁあああ!」
オーク部長が必死にやることを見つけ出そうと頭を働かせている。
そして、出す度出す度に私が終わらせていく!
「ぶっひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「終わりました! 終わりました! 終わりました! 終わりました! 終わりました! 終わりました終わりました終わりました!」
オークの攻撃をどんどんと潰していく! 正直、楽しい!
「部長!」
「なんだぶひい!」
「もう終業時間です」
「ぶひいい!」
そして、あっという間に終わってしまった。
最後の方は、オーク部長の仕事を考える待ちだったので社員の皆さんの応援をしていた。
「いやー、ノリオ君褒めるの上手いからテンション上がったよ」
「ほんとほんと、無限に褒めてくれるもの」
「それに今日は誰かさんの妨害ハラスメントもなかったから仕事スムーズだったし」
「さりげないサポートも上手だし、ノリオ君、社会に出たら絶対理想の上司になれるよー」
社員の皆さんがそう言って下さる。ありがたい。
「いやー、鈴木さん、いい息子さん持ちましたね」
「え、ええ……本当に、ありがとう、ノリオ」
母上様が喜んでくださる! ノリオ様、レオンハルトはやりましたよ!
「えー、ノリオ君年上のお姉さんとかどう?」
「だ、だめ!」
女性の社員の方が私の方にやってこようとするのを見て母上様が慌てて私を抱き寄せる。
「え? す、鈴木さん?」
「あー、えーと、そのー、ノリオはまだ高校生ですから。ね?」
なるほど。まだ人間的に未熟という事だろう! ノリオ様、レオンハルトはまだまだでした!
「ふふ、分かりました。鈴木さんって子煩悩ママさんなんですねー。かわいいです」
「はい! 母はかわいいです!」
「かわっ……!」
母上様が顔を真っ赤にして驚いていらっしゃる。そういうところもかわいいと思います!
「ぶおっほん!」
オーク部長の咳払い。なんだ、この既視感は……。
「まあまあまあまあまあ、ノリオ君も頑張ってくれたかなあ……だが、ノリオ君。社会勉強の為に教えてあげよう。会社という組織の中ではうまくやっていくことも大事だよ。無駄に出る杭は打たれちゃうからね、ぶひ!」
オーク部長が私に近づき、その重そうな身体の全体重を預けた足を私の足の上に下ろそうとする。だが。
「わかりました!」
私が咄嗟に避けると、オーク部長は床を踏みしめ
「ぶぎいい!」
その体重を支えきれず痛みに呻く。
「ぶぎいいい! ぶぎいいい! いたああい!」
「大丈夫ですか!? オーク部長! 足が悪かったんですか!? 大丈夫ですか!? 今日遅れて来られたのも体調が悪かったんでしょう! だって、息が臭いです!」
「ぶぎゅ!?」
思い出した! これ、オークの『くさいいき』だ! このせいで皆さんの仕事効率が落ちて……!
まさか、オーク部長も呪いでオークに!?
そうに違いない! だって、あまりに丸くて臭う! たいへんだ!
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