ヴェルゲルガルド5歩目 やりサークルに入れられた! 代わって!
ノリオです。
今、俺は槍隊に円状に囲まれています。
槍サークルです。
なんてね!
「ぬわああんでぇええ!?」
「うるさい」
「ひい!」
槍サークルの向こう側で、【神速の拳士】イノリが女傭兵団団長のレイと戦化粧とかいうのをして、呟きながら嗤っていた。赤い血みたいので目や唇が強調されて、こええ……!
ど、どうしてこうなっちゃったのよ……?
この前の、ヒャッハーな奴らとの交戦やリエナの反逆は多くの王国民に目撃されてしまい、俺の悪いうわさが流れ続けた。
ユウナ姫とシノが他国に支援をお願いする旅(部下に何やってるか教えてもらった)を終えて帰ってくるまであと僅かな時間。
なんとか立て直そうと必死になった。
「か、帰ってくるまでに城の修繕と、五月蠅い輩を捕まえて片っ端から牢に運ぶんだ!」
「「「「はい! ノリオ王!」」」」
俺の強化によってゴツくなった男共と一緒に走り回る。
戦闘経験が少ないから魔物相手にはあまり強くない軍だが、一般人には強い。
城は頑張ってみて無理だったら恐ろしい魔物が壊したってことにしよう。
リエナと魔の者の話は、あまりイメージよくないからユウナ達に聞かせたくない!
「ノリオ王! それより、これが無事終わったら女を用意して下さるというのは本当ですよね?」
「ああ、勿論だ! 国中の女にキャーキャーと言い寄られたノリオ様だぞ! ちゃんと用意する! だから、がんばれ!」
「へい!」
全く……女に飢えているなあ。フラウは、俺がみんなとイチャイチャしているせいで、コイツ等が悪い見本で馬鹿になったっていうけど、主人公ってのはみんなイチャイチャしてるじゃん! 人目をはばからずさあ! だから俺は悪くない! はい、証明完了!
「ノリオ様! その、これからも頑張りますんで、前払いとかだめっすか?」
「あー……もうお前らは、しょうがないなあ!」
「「「「うぇええええい!」」」」
リエナがいなくなって、イノリも最近忙しそうだし、プリンちゃんいなくなったし、俺もご無沙汰だ。ちょっとくらいいいよね!
そして、やってきた城下の酒場で、ノリオ王の名を使って女を呼ばせた。
かなりの人数が集められた! 流石俺!
「ノリオ王は、だれがいいっすか?」
「あ、じゃあ、あのちょっと清楚な雰囲気のすらっとしたお姉さんかな」
「かしこまりました!」
一番美人のお姉さんが俺の所にやってくる。ん~、きれいきれい!
「やあやあ! お姉さん、今日は楽しく飲もうね!」
「はい……ところで、今日はお食事とお酒を頂き楽しくお話しする会だと聞いたのですが間違いない、ですよね……?」
「そうそう!」
そうそう。まあ、それで気分があがっちゃったら、男と女で盛り上がることもあるかもしれんけどね!
そのお姉さんは意外とガードが堅い上に、お酒が強く、全然酔いそうにない。
ううむ、ちょっと強めの酒でも飲ませようか、あとは、ちょっとだけ意識がふわふわする魔法をそのお酒に。
「これは……?」
「まあまあ、さあさあ、ぐいっとぐいっと」
「はい。ですが、その前に、ノリオ……アタシ、綺麗?」
「綺麗だよ、今日初めて見かけたその時から見惚れてた」
「そう……その台詞、二度目だな」
「え?」
俺がお姉さんの方を見ると、器を持ったお姉さんが俺に向かって酒をぶっかけてくる!
「な、何すんのさ!」
「ノリオ、アタシだよ。あんたの恋人の一人」
「も、もしかして……イノリ……?」
口調がガラリと変わって分かった。【神速の拳士】イノリだ。
「アタシを助けてくれた時を覚えているかい? 山賊と繋がっていた冒険者に薬を飲まされ危なくなっていたアタシをアンタが助けてくれた。だけど、そのアンタがこんなことするとはねえ!」
「ち、ちが……ああ」
ヤバい! 酒のきつい匂いと、ふわふわ魔法のせいで身体が思うように動かない!
「王国兵共! あんたらもだよ! 酔いを醒ましてやるよ! 恐怖でな!」
イノリがそう叫んだ瞬間、飲み会に来てくれたお姉さんたちが、戦闘態勢に入り、店の人間から渡された槍を持って俺達に向かってくる。
「こ、こいつらは!?」
「レイ率いる女傭兵団だ。他国に雇われて、アンタの失脚を狙っていたのさ。それでアタシが組んだってわけだ。ねえ、レイ?」
ま、マジかよ! あんだけ金を積んでも従わなかったのに!
他の国の言う事は聞くのかよ!
レイがイノリに紅いメイクを施していく。
「そ、それは……?」
「戦化粧ってヤツさ。相手への怒りが強ければ強いほど力が高まる魔法なんだってさ!」
そう教えてくれたイノリは身体から魔力を噴き出し、拳を構える。
「お、おれは、さっきのメイクの方が好きだなあ」
「アタシだって気付かなかった馬鹿が! 化粧どうこう言うな!」
「ノリオ王を捉えよ!」
「うぎゃあああああああああ!」
そこから恐怖の鬼ごっこが始まった。
あの子達、全員戦化粧で強化されてるし、俺も男共もふわふわだしで逃げる一択だったんだけど。
「王様、だ~れだっ?」
「王様、だ~れだっ?」
「王様、だ~れだっ?」
「王様、だ~れだっ?」
「王様、だ~れだっ?」
「王様、だ~れだっ?」
「王様、だ~れだっ?」
「王様、だ~れだっ?」
「王様、だ~れだっ?」
「王様、だ~れだっ?」
「王様、だ~れだっ?」
「王様、だ~れだっ?」
「「「「「「「「「「王様、だ~れだっ?」」」」」」」」」」
うぎゃああああ! こ、こわすぎるんですけどお!
なんだよ、その恐怖の王様ゲームは!
恐らく最後の一人であろう、俺はあっというまに槍に囲まれた。そして、レイが素早く槍隊に指示を出し続ける。
「3番と5番は王の背後を塞げ! 1番は右から! 6番は後方支援! 7から10番は前から行くぞ! 2番は私の近くに。4番はいつでも防御魔法を展開できるようにしておけ!」
「ちょっと! 王様ゲームなら王様に命令させてよ!」
思わずツッコんでしまい慌てて口を塞ぐと、レイはにやりと笑って。
「王よ、国というものが民に幸福を与えてくれるから、民は王国に従うのだ。王が暗愚であれば、民は従わぬ。王が暴君であれば……!」
レイが2番の部下から槍を受け取り、投げてくる。
「ひぎゃあああああ! やりが! あぶねえ!」
レイが投げた槍が、俺の右首スレスレを抜けて木に突き刺さる。
「王『様』はころされるんですよ」
戦化粧とか言うので目力が増したレイが睨んでくる。こええ。
既に股間は濡れている。怖すぎる。
そこにイノリがやってくる。
「さあ、ノリオ。終わりの時間だ」
「な、なんで……?」
「なんで? そうだね、女を食い物にしようとしたのはまず言語道断だし、アタシ、前に言ったよね。強い男が好きだって。アンタは弱くなった。努力を怠り、ただ女とイチャイチャするだけの男なんてチート能力だって錆びていくのに、それにも構わずに。だから、失望したんだ。アンタに!」
イノリが拳を構える。
「まあ、前までの身体能力があるアンタなら止められると思うから。止めてみなよ」
「待っ……!」
俺の制止する声を聞かずにイノリが拳を放ち続ける。
「だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ! ふぅ、は! だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ! ふぅ、は! だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ! ふぅ、は! だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!」
「いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ! はぁひ! いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ! はぁひ! いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ! はぁひ! いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!」
全然見えなかった。
俺、どうやって避けてたんだっけ?
薄れゆく意識の中でちらりと見えた俺の顔は、真っ赤だった。
酔ってるんじゃない。もう覚めた。ぼっこぼこに殴られて真っ赤だった。
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