ニポン24歩目 ブカツをしてみた! 代わりに!
「それでは、獅子王学園、対、後呂月西高校の試合を始めます!」
「「「しあっす!」」」
互いに気合の入った挨拶を交わし試合が始まる。
「おい、ごぶりん。今日の試合は絶対に勝つぞ」
「ああ、お前こそ足を引っ張るなよ、ノリオ」
私はごぶりんとグローブでタッチをし鼓舞しあう。
鋭いスイングで素振りをするネクストサークルで待つ一番バッターをちらりと見て、私はポジションにつくとキャッチャーマスクを一旦外し、ナインに声を掛ける。
「気合入れていきましょう!」
「「「おおおおおおおおおおおお!」」」
さあ、試合開始だ!
「って、なんで急に野球ぅううううう!?」
ごぶりんがうるさいな。
その場にいたし、納得したはずなのにな。
少し前のことだった。
「あ、あの……鈴木、先輩、いますか?」
教室の入り口で小さな声でそう呼び掛けてきたのは、ニポンに来て初めて助けた少女、辺見芽瑠さんだった。
私は、小指一本対両手で負かし机にめりこませたごぶりんを置いて、辺見さんの元へ向かう。
「彼女、何なのかな?」
普通に背後にユイさまがいる。
リオナと登校するようになってから学校内でのユイさまの距離が近い。
背と鼻の先だ。間違っているわけではない。そういう位置取りなのだ。
私が不用意に振り返ると鼻血が出てしまうという恐ろしい呪いにかかっているらしいので、ちゃんと、
「ユイ、振り返りますね」
「は! ……しゅば! ど、どうぞ」
声を掛けてから振り返る。それなりの距離をとって構えたユイがそこにいた。
「はう、レオ、今日もかっこいいね」
そして、すかさず褒めて下さる。ありがたいのだが、不安になる。
何か私が良くない事でもしてしまっているのだろうか。あまりにもほめ過ぎなのだが。
だって、今日も普通に何度も顔を合わせているし、何度もこう言われている。
とはいえ、今の本題はそれではない。
「ユイ、あの、ついてくるのですか?」
「うんん? もちろん。だって、レオが心配だもの」
未だにすごく心配されている。そんなに私はボロを出しそうなのだろうか。
精進せねば!
「まあ、ユイの心配はそっちじゃないけどね~」
超賢者様こと、賢地谷超子様がまたいつの間にかユイさまの隣にいた。
というか、賢地谷様は、とうとう私達の席の後ろに席を作っていた。
大丈夫なのかと聞いたのだが、みんなあばらせたら何も言わなくなったということだそうだ。
あばらせたら?
あばって……う……頭が……!
「それより、レオっち~。芽瑠ちゃん待ってっし~」
ああ、いかんいかん! 女性を待たせるなどと愚かなレオンハルト!
急いで辺見さんの元に向かう。背中にユイの鼻先を感じる。速い! そして、気配を感じなかった!
「やあ、辺見さん、どうしたの?」
「あびゃ! あ、あ、鈴木センパイ! 本日はお日柄も良く……」
辺見さんはびくびくと怯えながらも丁寧なあいさつをしてくれる。とても良い子だ!
「あの! 鈴木センパイは硬式野球の経験はありますか!?」
「コウ式やきゅう、ですか?」
「は、はい! それが、私、硬式野球部のマネージャーをやってまして、あまりウチの部は強くないんですけど、その、強くないせいで、廃部になりそうで……今度の試合が廃部をかけた試合になってしまったんです」
「うおおお、漫画っぽい展開だぜ」
いつの間にか復活したごぶりんが興奮している。
「なのに、二人部員が怪我をしちゃって……でも、今度の対戦相手がすごくガラの悪い後呂月西高校ってところで、助っ人してくれる人がいなくて……その……」
辺見さんが申し訳なさそうにこっちをちらりと見る。
なるほど。コウ式やきゅうのぶかつのしあいに助っ人に私が出てくれないかということなのだな。
「ふ! まかせておけ!」
ごぶりんが叫ぶ。なんでお前が言った?
「今、野球はアツい! そして、オレはモテたい! 俺も参加するぜ!」
ごぶりん……なんてまっすぐで純粋な目で不純な理由を言うんだ……!
だが、困っている人を放っておくのは私の騎士道精神にも反する。
「辺見さん」
「ひゃい!」
「私も君の力になりたい。助っ人させてもらえるかな」
「あ、あ、ありがとうございます! 鈴木先輩、前に助けてくれたくらい勇気あるし筋肉すごいから運動できると思って、お願いしたくて……」
「いや、それほどでは」
「そんなことありません! 鈴木先輩はすごいんです!」
まっすぐ純粋な目でそう言ってくれる辺見さん、ありがた……
「下腿三頭筋の締まりといい、それと連動する大腿四頭筋のバランス、この国立筋肉博物館だけでもご飯三杯はいけますね。そして、前腕筋群上腕二頭筋上腕三頭筋の美しさ、お肉の刃、肉柱です……広背筋、僧帽筋なんてもう……背中ユーラシア大陸マッチョのエルドラド
です! 腹筋板チョコカカオ含有量半端ねえ! ですし、内転筋群と臀筋群は、世界樹&縄文杉、お腰につけたプロテイン一つ私にくださいな! って……あ、す、すみません。最後はちょっといやらしかったですかね」
ちょっと何言ってるかわからなかった。
「辺見さん……オレ、五分一リンジの筋肉はどうだい!?」
「……筋闘力5,ですね」
「ゴミめなのねぇえええええ!」
「あ、でも……持久力と回復力が異常……? ごぶりん先輩って一体……」
なるほど。辺見さんは筋肉が好きなのだな! 理解した!
「超シンプルな思考で、妖しい言動の記憶全部ぶったぎり~」
賢地谷様が言ってるが気にしない。
「とにかく、精一杯頑張るよ、よろしく、辺見さん」
「あ、よ、よろしくお願いします! あ、あの! 握手してください」
私と辺見さんは握手を交わす。柔らかくて小さな手だ。すごく繊細そうな……。
「母指内転筋、短母指屈筋、母指対立筋、短母指外転筋、虫様筋、小指対立筋、短小指屈筋、小指外転筋、短掌筋、浅指屈筋、深指屈筋……全てが、素晴らしいですぅ~」
ちょっと何言ってるか分からないが、まあいい! がんばるぞ!
「それにしても、ノリオ、お前野球やってたのな」
ごぶりんがすぐに復活し、私に話しかけてくる。
「ああ、久しぶりだ。【コウ式矢宮】は特にな。頑張って撃ち返して見せるさ、矢を!」
「ん? 矢を? お前、何言ってるの?」
「ん? コウ式矢宮なんだろ? 武克の? 戦闘民族コウに伝わる飛んでくる百の矢の雨を武器で撃ち返し生き残ってみせる【矢宮】の死合なんだろう? いやあ、前回は十二点も喰らってしまったからな、今回は無傷目指して頑張るとしよう!」
「ちょっと、何言ってるか分からないなぁあああ!」
なんだ、やはり、ナン式矢宮か?
魔の一族ナンの魔法の矢を打ち返すほうか?
と、思っていたら違った。
球を棒で打ち返すものらしい。
球は鉄球でも魔法の火球でもないらしい。
不思議なことをニポンではするのだな。
なにはともあれ、死合だ!
がんばるぞ!
「死合っていこー!!!!」
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