ニポン1歩目 ニポンに聖女様と帰ってきた! 代わりに!
そして、旅立ちの時はやってくる。
寂しさはあまりなかった。
孤児だったことや戦いに明け暮れていたこともあったが何より、
「ほ~ら、ノリオ様。私の身体に夢中になってないで、ユイ様がお帰りになられますよ」
「あ、うん。じゃあね~。元気でね~」
ノリオ様にしな垂れかかっている女性は、【姫騎士】ユウナ様。
私の、憧れだった人だ。
神聖騎士として、戦場を共にし、その勇ましく美しい勇姿に、私は心惹かれた。
しかし、その思いは叶うはずもない。
私は孤児で、あの方は一国の姫。
そして、何より今はノリオ様と言う、初めて頼ることの出来る強い方が現れたのだ。
私の出る幕などない。
だから……私は、すんなりニポンに行くことを受け入れることが出来たのかもしれない。
「……はい、あの、レオンハルトさんには何か言葉は……?」
ユイ様がそう仰られると、二人はきょとんとして笑いだす。
「ああ、そうだった! ごめんね! レオ! よろしくね!」
「レオンハルト、しっかりとノリオ様の代わりを果たすように」
「は! このレオンハルト、命に懸けて、ノリオ様の代わりを務めてまいります!」
「ぶふっ……! う、うん……あの、頑張って……!」
ノリオ様が笑っている。
やった! ウケた!
ちなみに、『ウケた』というのはノリオ様がよく使う言葉だ。
面白い奴だ、とか、見込みがある、という意味だとノリオ様に教えて頂いた。
「ありがとうございます! ノリオ様!」
「うえ!? あ、う、うん……じゃあね」
私とユイ様は、ノリオ様達がやってきた女神の祭壇にある魔法陣の上に立った。
何処からか精霊が集まってきて、魔法陣に光が溢れる。
女神の力なのだろう。
「では、ノリオ様! 姫様! 皆様! お元気で!」
「ばいば~い」
ノリオ様の、気を使わせないような気軽な別れの挨拶に涙が出そうになったが、上を向き間一髪で堪え、私はニポンへと旅立った。
女神の転移魔法といっても一瞬で、ニポンに行けるわけではないようで光の中でニポンに着くまで待つことになるようだった。
「あの、ユイ様は、ノリオ様とヴェルゲルガルドに残らなくて本当に良かったのですか?」
私は気になっていたことをユイ様に聞いてみた。
もしかしたらユイ様も残りたかったのではないかと。
「え……はい、私は、元の世界に帰りたかったので……それに」
故郷を懐かしむように遠くを見つめるユイ様は美しい。ヴェルゲルガルドでも整ったお顔、美しい黒髪、そして、その慈愛に満ちた瞳で多くの騎士達を魅了していた。最もノリオ様が目を光らせていたので言い寄る者はいなかったが。
そんな美しい横顔で目を細めていたユイ様はちらりとこちらを見ると、
「レオンハルトさんも、来ると聞いたので……あ! あの! その! ふ、不安かなって!」
「ユイ様……! 私如きにそのようなお言葉……ありがとうございます!」
「あ、あうううう~……そ、そんな見つめないでください~」
ユイ様は聖女と呼ばれ、本当に誰でも分け隔てなく接してくださる素晴らしいお方だ。
勿論、ノリオ様もだ。ノリオ様は王でも魔王でも神でも同じように気軽に話しかけていらっしゃった。すごかった。
「あ、あと! ユイ様は、あっちの世界では辞めてもらえませんか? 様付けは、その、いやというか……他人行儀というか」
「……なるほど! それがニポンのやり方なのですね!」
「そ、そう! 日本はそうなんです! あ! これからいろいろと私が日本の! やり方を教えますから、ちゃんとやってくださいね!」
「かしこまりました! では、心苦しいですが『ユイ』さんと」
「ユイでいいですから!」
「救世主様にそんな恐れ多い!」
「こっちでは普通! 普通なんです!」
「は! そうだった……私は、ノリオ様の代わりでした。わかりました……では、ユイと」
「……!」
「ユイ……?」
「え? あ、はわっわ……あの、慣れるために、も、もういっかい」
……なんと! 私がこの任務をこなせるよう、『私が』呼び慣れる為に練習に付き合ってくださるとは、流石聖女様!
「では……ユイ」
「はわわわ、もういっかい」
「ユイ」
「ももももももういっかい」
「ユイ」
「まだまだまだもういっかい」
「ユイ」
「げ、元気に!」
「ユイ!」
「さささささ囁くように」
「ユイ……」
「……やばい」
ヤバイ!? ヤバイってどういう意味だ!? ヤバイは、そうだ! 大変な時にノリオ様が言っていた!
そ、そこまで私はニポンの民に成れていないのか! ああ、努力が、足りないのだ!
愚かなレオンハルトォオオオオ!
「ユイ! ユーイ! ユイッ! ユ~イ? ユイ!! ユッイ! ユイ! ユイ!!!! ……ユイ、どれが一番良かったですか!?」
「……じぇ、じぇんぶよかったです」
「……本当ですか!? 良かった! ありがとうございます! ユイ!」
「こちらこそありがとうございます!!!」
良く分からないがユイに美しい直角のオジギをされてしまった。
「しかし、本当に大丈夫なのでしょうか。ノリオ様と私は多少顔の作りは似てるとは思いますが……」
「似てません!」
ユイ様がものすごい形相で怒っていらっしゃる!
やってしまった! 愚かなレオンハルトォオオ!
「も、申し訳ありません! あの、ノリオ様のご尊顔と似てるなどと……!」
「そ、そういう意味じゃなくて……! ああ、じゃあ、ちょっとだけ、構造は似てますが、レオンハルトさんの方が、鼻も高いし、彫りも深いし、か、かっこいいです、よ……」
ユイ様が気を使ってくださっている! 流石聖女様!
「ありがとうございます。しかし、やはり多少の違いはありますよね……お母さまや妹君はお気づきになられるのでは……」
『その点は、ワタシにお任せを』
どこからか声がすると思ったら、ユイ様の腰に付けていた袋からなんと超賢者様が現れた!
「超賢者様! 何故ここに!?」
『私は、ユイの為の存在ですから。ユイについていくのは当然です』
「そ、そうなのですか!? てっきりノリオ様の御力かと」
『……あんな屑に仕えたくねーんですよ』
「……え? 今、なんと……く、屑?」
『記憶抹消まほー!』
「あばばばばばばば!」
……あれ? 私は何を?
『というわけで、ワタシがレオンハルトの異世界生活のサポートをさせてもらいます』
そうか、超賢者様が現れて、そのあとのことは覚えていないが、とにかく、助けて下さるという事だ。ありがたい!
「ありがとうございます!」
『とはいえ、基本ワタシはユイについていなければならないので、基本的にはレオンハルトさん、アナタ一人で頑張ってください。ユイの為にも』
「はわわわわ! 超賢者ちゃんダメだよう!」
「はい! ユイ様のニポンでの生活のご迷惑にならぬよう! ノリオ様の代わりを一生懸命やってみせます!」
『ユイ……この鈍感騎士に、ワタシが催眠魔法でユイに惚れさせましょうか?』
「そ、そんなのダメだよ! ……でも、どうしようもなくなったらお願いするかも」
ユイ様と超賢者様が何やら楽しそうに話をしていらっしゃる。
仲良きことはよいことだ! はっはっは!
『……間もなく、到着です。日本、ワタシ、少しワクワクしています』
実を言うと、私も少しわくわくしている。
ノリオ様が育ったニポンとは、一体……。
光が少しずつ薄れていき、私はニポンへと降り立った。
私はニポンに帰ってきた。代わりに。
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