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ニポン8歩目 トウコウしよう! 代わりに!

「あの! 本当にありがとうございました」


そう言って一つに纏めた黒髪をぶんと縦に振りながら少女が頭を深々と下げる。

チカン伯爵に襲われていた少女……よく見れば、ヴェルゲルガルドの騎士団で同僚だったフラウに似ていることに気付く。


 フラウは、ノリオ様がティンティンカンカン伯爵を力で潰してくださり、私は最初に彼に手を出したのと被害にあった女性たちの心のケアに努める事しか出来なかったのに、何故か私に深い恩義を感じており何かとついてくる娘だった。

 ただ、騎士としても努力家で、剣術は勿論、様々な技術を私と共に学びどんどんと吸収していっていた。

 しかも、それだけに留まらず、料理や裁縫など騎士団とは関係のなさそうな技術も学んでいたな。

 『しょ、将来必要になるかもしれんだろ……』と……。


 なんと真面目な騎士なのだと私は感動した!

 確かに騎士団の仕事は戦うだけではない。魔王との戦いが終わればそう言った仕事も出てくるかもしれないと私も共に学ぶことにした。

 そしたら、すっごい変な顔してたが。


 だが、やはり共に学ぶ者がいるのは素晴らしく、私は先生に褒められるほど料理や裁縫の技術を上げることが出来た。

 そしたら、すっごい変な顔してたが。


 『も、もしかして、お前は家庭を持ったら家で子育てをしたいと……戦う妻の帰りを待ちたいとそう思っているのか』と聞かれたこともあった。

 『いや、結婚の予定もなければ出来るとも思えん。私を想う人間など……私なんてノリオ様に言わせればちょっとは頑張っているモブ騎士、だからな』と言ったこともあった。

 そしたら、すっごい変な顔してたが。


 そういえば、彼女が遠征に出ていて別れの挨拶が出来なかったな。フラウは元気だろうか。


「あ、あの?」


 気付けばフラウ似の少女が私を覗き込んでいる。いかんいかん、思い出に浸ってしまっていた。まあ、大体、変な顔のフラウしか出てこなかった思い出だが。

 少女がじっと私を見ている。何かおかしかっただろうか。

 いや、少女の制服、そういえば……。


「あなた、獅子王学園の生徒、なんですか? しかも、二年生?」


 獅子王学園はノリオ様が通っていらっしゃった学校であり、そして、私がこれから代わりに通う学校。彼女も同じ制服を着ていた。


「ほら、私、三年生なんだ」


 彼女はそう言って自分の胸のバッジを見せてくる。確かに、ユイさまに教えて頂いた今年の三年を表す緑色だ。ちなみに、私やユイさまは青。

 ただ、胸を突き出されると、視線に困る。


「あ、あはは……ごめんね。困るよね。胸突き出されたら……ごめんね、私も痴漢に襲われて混乱しているのかも」


 そう言って彼女は顔を真っ赤にし髪を横にふりふりと揺らす。


「だけど、君の顔を見たことがないな。これでも、知らない生徒はいないつもりだったんだが……」

「ああ、実は、今日から学校に戻ってくることになった者でして。鈴木ノリオと申します」

「ふふ、名前は知っているよ。勇者、ノリオだよね? 君なりの犯罪抑止のパフォーマンスのつもりだったのかな。随分と目立っていたが」


 先程のデンシャでの一件だろうか。目立っていたか。

 よしよし!

 ノリオ様は目立つのがお好きだったからな。これでまた一歩ノリオ様に近づけた!

 よくやったぞレオンハルト!


「そうか、君があの……行方不明だったという……無事でよかった。そして、助けてくれてありがとう」

「いえ、私がしたことなど……それより、私が傍にいて大丈夫ですか? あんなことがあって男性が怖いのでは……?」


 ティンティンカンカン伯爵に襲われた女性達も皆男性に対して恐怖を感じるようになっていたからな。フラウもそうだった。


「そうだね、確かにちょっと男性に対して身構えるかもしれないな。だが、君は別だ。助けてくれたじゃないか」


 ティンティンカンカン伯爵に襲われた女性達も皆何故か私には恐怖を感じないようだった。そして、今のように距離が近かった。フラウもそうだった。


「ああ、すまない。やはりちょっとおかしくなっているようだ。だけど、その、本当に本当に感謝しているんだ。君には……あの……!」


 ティンティンカンカン伯爵に襲われた女性達も何故かいつからか獣の目をして私を見ていた。今のように。フラウもそうだった。

 身の危険を何故か感じる!


「あの! ……それは一時の気の迷いだと思った方がいいです」

「へ?」

「恐怖と無理矢理の性的な行為で妙な興奮状態に入っているのです。その状態の中で助けた騎士がいれば、悪くないと思われるかもしれません。ですが、人を愛し、そして、仮に人生を共にするとなれば、重要な決断です。それに、助けてくれた人間が仮にそういった事で女性が惚れると企んでいたらどうします? 一度落ち着いて冷静に考えてみることが大事です」


 ちゃんと説明した。

 自惚れかもしれない。勘違いなら勘違いで良い。私が恥をかくだけだ。

 ただ、助けてくれたから好きだとなってしまうのは尚早な気がするのだ。


『おおー、ふらぐぶれいかー』


 超賢者様が何か言っている。フラグブレイカー?

 なんだか強そうな称号ですね! 光栄です!


 少女はきょとんとこちらを見ていたが、口元に手を当て笑い始めた。


 やった! 『ウケた』!


「ふふ、そうか。そうかもしれないね。うん、ちょっと変になっていたのかもしれないね」


 よかった。わかっていただけだようだ。

 だが、ここで私は気づく。


 もしかしたら、私は……ノリオ様に嫉妬していたのかもしれない。

 ユウナ姫を、私の憧れを、簡単に攫ってしまったノリオ様を。

 そして、簡単に心を奪われたユウナ姫を少しばかり恨んでいたのかもしれない。

 やはり、私は小さく、弱い。


「弱い過ぎる! そして、醜いぞ! レオンハルトォオオオ!」

「ええ!? なんで急に自分を殴り始めたんだ!?」

「邪念です! 勇者としてあるまじき邪念! そうだ、貴方も殴って下さい。さあ!」

「え、ええ!? えええぇええええ!? 何がなんだかだが、君には恩もある。その君が求めているのなら、わかった! 殴ろう!」


 そして、フラウ似の少女は私をなんどもぶってくださった!

 フラウに似て腰の入ったいい攻撃でした!


「ありがとうございます。落ち着きました」

「そうかい……はぁはぁ、それは良かった」


 邪念を振り払うには痛みが一番だな。

 すっきりした!


「ええ、すっきりしました」

「そうかい、だけど……こっちは……」


 フラウ似の女性は少しだけ赤くなった手を頬に当ててうっとりしていた。


「なんだか、より興奮してきたよ……」


 サキュバスのような目をしている!


「だめだだめだ、私がこんな所で……しかも、彼に落ち着けと言われたばかり……彼に嫌われちゃうじゃないか……落ち着け落ち着け、岸風花……!」

「あの」

「はああぁん!」


 フラウ似の女性が叫び声を。いかん! 往来だぞ!

 私は慌てて回り込んで姿を隠しながら口を塞ぐ。

 先程チカン伯爵に襲われたばかりの彼女がこんな姿を誰かに見られるのは不本意だろう。


「落ち着いて……落ち着いて……」

「後ろから抱きしめられて、く、口に手を当てられて……男らしい匂いがして……耳元で囁かれて落ち着けるわけが、あるかぁあああ!」


 ばちん!


 良い、一撃だ……!

 フラウ似の女性が思い切り私に平手を放ち去っていく。


 す……す、す、すみません! ノリオ様ぁああああ!

 女性に嫌われたかもしれません!


 私が反省をしていると、地面に影が。

 何故だろうか、その影が濃い気がする。


「ねえ、レオ……」


 見上げると魔王が、じゃない、ユイさまが笑っている。

 笑っていないように感じるが笑っているように見える。

 怖い。


「友達の話なんだけどね」

「は、はい……」


 友達の話らしい。


「その友達はね、大切な男の子と一緒に登校していたんだって。友達の話なんだけどね」


 友達の話らしい。


「そしたら、その大切な男の子は人助けをして素敵だったんだって。友達の話なんだけどね」


 友達の話らしい。


「そしたら、その大切な男の子は助けた人と仲良くお話しながら登校し始めたんだって。友達の話なんだけどね」


 友達の話らしい。

 だけど、ユイさまはデンシャから降りたあたりから暗殺者の如く、一定の距離を取ってじいっとこちらを見るだけで話しかけても反応されず……いかん、何か言いたいが暗殺者の目だ。まだ死ぬわけには。友達の話だしな!


「そしたら、その男の子は助けた人がいやらしい声をあげた瞬間バックハグしてたんだって。友達の話なんだけどね」


 友達の話らしい。

 バックハグとは? ノリオ様に教えて頂いたベアハグみたいなものだろうか。

 しかし、さっきは技をかけていたつもりは……まあ、友達の話だが。


「そしたらね、私の中で何か暗黒の何かが溢れ出そうなの……」


 あれぇえ? 友達の話ですよね? ねえ、友達の話なんですよね?

 友達の、


「はなしぃいいいいいいいいいい!」







「おい! 貴様、なんだその化粧は! 校則違反だろうが!」


 大人の男性が遠くで女生徒をしかりつけている。


「お前もその赤い唇はなんだ!? 虫にでも刺されたのか、ああん? 鏡見せてやろうか、おい!」


 あれが教師なのだろうか。随分な言い草だ。


「おい! お前も! 男の癖に真っ赤……ま、まっかっかぁあああああ!」


 教師らしき男が驚いている。

 まあ、そうだろう。


「お、お前! 鏡! 鏡を見ろ! 顔! 顔が!」


 教師が鏡を差し出すとそこには血塗れの腫れあがった顔で黒髪の私が映っていた。

 ノリオ様ならこうはならないだろうに!

 愚かなレオンハルトォオオオ!


「かおぉおおおおおおおお!」


 教師が騒いでいる。ど、どうすれば!


「ま、まあ、これも男の化粧と言えるのでは?」

「「「「「「「「「「いやいやいや!」」」」」」」」」」


 こうして、私の学校の第一歩が刻まれた。

お読みくださりありがとうございます。

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