あなたのために〈ミキ〉
前回と被りますが、ミキ視点で。
───そろそろだわ。
もうすぐ大騒ぎになるはず。
煙と臭いが立ち込めてる予定だから。
アレが発見される。
──ミディカンのウェイ少尉の死体が。
救護室前の女子トイレは大騒ぎになる。
元凶は、使用禁止の張り紙がしてある一番奥の個室。
───順調ね。
宿舎の中がざわめいて来た。
暗かった1Fの窓に次々明かりがつけられてく。
発見されたのね。
───予定通り。
人の命を救うべき看護師の私。私は命を救うの。それは人種は関係無い。
ただし、私が救いたいのは優しい心を持った人だけよ。
ほとんどの人間なんて、最低な生き物なのよ。
それを心底知ったのは高校入学して間もなくのことだった。
平気で人を傷つけて罪悪感さえ持つことはない人たち。
きっとあのまま私が死んだところで、あの人たちは嗤ってたに違いない。
ここで、サイさんに会えた。 死ぬまでに一目でいいから会いたかった人‥‥
神様って本当にいるんですね。
軍の看護部に所属して、従軍看護師として働いていた。だけど、あれよあれよと言う間に捕虜になって、こうして奴隷にされた私。
だけど、今はその運命にさえ感謝してる。
私が護るのは尊い存在。それはサイさんの命。そのために私は最善を尽くす。サイさんがいなかったらどうせ消えていた命だから。
彼が手を怪我して私の前に現れた時、一目でサイさんだってわかった。
たった一度会ったきりでも。
サイさんは私には気づかない。いいの。私は言わない。
気づいて欲しい気持ちもあるけれど。
私たちは3年間近くDMを交換していた。一度会っただけの私をずっと励ましてくれてた優しいあなた。
あなたが駅で救ってくれた『ミキちゃん』は私なのよ?
私はまだ高校1年生、サイさんは3年生だった。
もう、8年近く昔のこと‥‥‥
──ハッ‥‥‥私ったら気が飛んでた。サイさんと二人きりでいたから急に昔を思い出して。
宿舎内で、不穏なざわめきが起こってるのが外にまで漏れてる。
「ヤバい? どっちか、もしくは二人ともバレたんじゃね?」
サイさんが焦ってる。これは別件だとは言えない。
「‥‥‥いいから、こういう時こそ落ち着いて様子を窺うの!」
ここにまで全体放送が響く。
「奴隷は直ちに自室に戻りなさい。各所警備一人と係の者は残し、残りの者らは全員、直ちに別棟2Fの元職員室の本部に集合せよ」
まだ、末端まではウェイ少佐が死んだことは伝わってはいないはず。
息を潜めて、ゲートセキュリティの一人が建物に入るのを見送る。
騒ぎになって警備が手薄になったごく初期の混乱の隙間が勝負。
「‥‥サイさん。私の荷物をお願い。左手を上げたらすぐに私の元に来て。わかった?」
ゲートの番兵の気を削がなくては。髪をほどき、ちょっとだけ襟元を広げる。
「何してん‥‥‥」
───必ず助けるわ。あなたを。
「ねえ、わかった?」
───脱出させてあげる‥‥‥絶対に。
失敗など考えたくないけれど、これがサイさんとのお別れになる可能性も。
無念は残したくないわ。だから‥‥‥
「え? 待てよ、来てって、ここから出‥‥‥んっ!!!」
「なっ‥‥なっ‥‥」
───許してね。いきなりキスしたこと。
焦ったサイさんは可愛い。
私の心から消えることは無かったの。他の男では上書き出来なかった。
「‥‥‥ごめんなさい。これは御守りなの。行ってきます。私を信じて。合図したらすぐに来て下さい」
私は、小走りでゲートの番兵に駆け寄る。
───最低でも相討ちにする。
私を犠牲にしてでも、サイさんには逃げて欲しい。
ううん、違う。私はサイさんと一緒に行きたいの。
突破してみせる!
この最初の関門を────
「止まれッ! 撃つぞ!!」
私は銃を突きつけられて、数メートル手前で止まって両手を上げた。