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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ラジオを聴くのが趣味です

作者: Taylor raw

 私はラジオを聞くのが趣味だ。

 ただ単に既存の番組を聴いているだけじゃない。

 私が亡き祖父から譲り受けたポータブルラジオは人のものでない声や音を拾えるのだ。

 休日になると私はこのラジオを持ってよく心霊スポットと呼ばれる所に出かけ、霊の声を聴きにいく。


 今日も隣県のとある山奥の廃墟にテントを張り、夜を待ってラジオをチューニングする。


『……ザ ……ザザッ ……ジジッ』


「うーーん、空振りだったか」


 チューニングを繰り返すが何も聞こえない。

 今まで何十件も霊の話を聞いてきた。

 中には数日に渡ってお話をした末に成仏してくれた御霊さんもいた。


 今回来たのは数十年前に資産家が山奥に建てた別荘。

 過去の新聞記事を調べ、ここの家族に起きた悲劇も確認してきた。

 霊がいる可能性は高い。


 昔は立派な建物だったことが伺えるが、今は誰も管理していないらしく窓は割れ、家具は倒れ放題。

 期待しながらラジオをチューニングしてみたが、やはり何も聞こえない。

 まあ、こんな事もあるか、と時計を確認する。

 もう午前2時を回っていた。


 ……そろそろ寝ようか、と廃墟の中に設置したテントで就寝の準備に入った

 その時だった。


『お姉ちゃん、な ……ザザッ! しにきたの?』


 おお、大当たりじゃないか⁉︎


 私はスイッチすら入れてないラジオから聞こえる声にワクワクしながら跳ね起きた。

 10歳前後くらいの男の子の声だ。

 亡くなったここの家族の息子さんで間違いない。


「ああ、はじめまして、こんばんは。○○くん。私はね、君たちとお話に来たんだよ」


『……ザ ……ザザッ』


 私はノイズを発し続けるラジオをじっと見つめる。

 霊が逡巡していることを意味する。

 今までこうして心霊スポットを巡ってきて、危ない目に遭ったことは一度や二度じゃない。

 霊になれば子どもだろうと現世の人間なんか簡単に殺せるだろうことを私は経験上よく知っている。

 でもそれでもいいと思っている。

 だって霊の声を聴けるのは私だけなんだから。


「さあ、お話しましょう。私が気に入らないなら連れて行ってくれてもいいから」


『……ザザッ! ……ザザ ……そう、じゃあ僕の気が済むまでここに居てね』


 食料と水を確認しながら、私は微笑んで応える。

 今度は何日くらいの滞在になるだろうか。

 子どもの霊は不安定なので要求を否定して刺激してはいけない。


「分かったわ」


 霊と話すことがルーティンとなって10数年。

 どんなに危ない目にあっても私は怖い、と思ったことはない。

 だって霊も死もこんなに近くにあるものだから。

 私の感覚は麻痺しているのかもしれない。

 少年がボソボソと喋る声に耳を傾けながら私は彼の生前の姿に想いを馳せた。




(了)


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― 新着の感想 ―
[良い点] ラジオから聞こえる怪異の声、という陳腐なネタを、完全に逆手にとったお話で(650作の短編に類似作が一つもない)、はっと感心してしまいました。 終わりがちょっとあっさりし過ぎだけど(これが…
[一言] 興味本位なのかもしれませんが、幽霊としては気の済むまで話し相手になってもらえるのは嬉しいことですね。
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