第1話 最初からやらかしました
「キャー、マーガレット!!」
若い女性が誰かを必死に呼ぶ声が聞こえる。私じゃないと、思った瞬間、今で日本で平和に暮らして来た、橋本真理としての記憶と、この世界でマーガレットと呼ばれる少女の記憶がごちゃごちゃと交差する。
流れ込んできた記憶の波に飲み込まれながら、最後に見たのは美しい黒髪だった。
私の中に流れ込んできた記憶は、太陽系の惑星地球の日本という国に生まれ育った、24歳女性の記憶だった。
地方の田舎で野生児と言われるくらい自由奔放に育ち、大学進学を機に東京に上京してそのまま東京で就職したとういう、ありがちな人生を送っていた。それなりに楽しい人生を送っていた。そんな私は、仕事帰りに過労だかなんだか知らないが、歩道に突っ込んできたトラックに轢かれて死んでしまったらしい。
私の前世、真理としての最後の記憶は、花金の仕事帰り、残業もいつもより少なくルンルンで帰路についていた。いつも通り仕事場から最寄駅に向かっている途中で、大きなけたたましい音が後ろでしたと思い、振り返った。振り返った先には、大きなトラック、目の前に迫っているトラックを避ける暇もなく、私の体は大きな衝撃と共に宙に浮く感覚がした。最後に見たのは、きれいな夕焼け空だった。
それからの記憶は、ないが恐らくトラックに正面衝突で即死。と言ったところだろう。
社会人になってから、忙しいと言い訳をして帰ってなかった実家。
おばあちゃんよりも先に逝ってしまう、親不孝な娘になってしまった。親にもちゃんと親孝行出来なかったなぁ。つんと、目頭が熱くなった。
次に目を覚ましたのは、綺麗なベットの上だった。
気が付くと、自分の頬には、涙が流れてた。前世の家族のことを思ったら、流れ出して止まらない涙。
もう終わったことで、どうしようもない事だと分かっていも「ありがとう」も「ごめんなさい」も何も伝えられなかった、後悔が涙になって溢れ出していた。
私の泣き声を聞きつけたのか、マーガレットの母親であるマリアンヌだった。
お母様は、金髪でブルーの瞳の特徴的な美人である。記憶の中の朧気にある父親も金髪だった。そんなマーガレットもきれいな金髪・・・。そう。金髪なのだ。
ショックすぎる。転生したら、今度こそ黒髪になりたかったのに・・・。
そう。何を隠そうこの私は、無類の黒髪好きなのだ!
日本に生まれ育った私。生粋の日本人のはずにも関わらず、地毛が明るく、学校の頭髪チェックはパス出来た試しがない。先生に何度地毛だ!と説明しても疑われる日々。そんな日常に嫌気がさしてそして、綺麗な黒髪さらさらストーレートに憧れてたのだ。
生まれ変わったら何になりたい?と問われたら、迷わず黒髪さらさらストレートの美女と答えるだろう。
そんな、転生を果たしたと言うのに、まさかの金髪。
神よ!どうせなら黒髪に生まれ変わりたかった!
あまりのショックで、頭を抱えた私に、
「まだ、頭が痛むの。」
と、お母様が心配そうに覗き込んでくる。
「えっと。」
やっと、自分の置かれた状況を思い出す。
確か、お父様が亡くなって、お母様の昔のツテでさる公爵家の侍女として働きに出ることなり、ご挨拶に来ていた事は覚えている。
お天気がいいからと庭園でお嬢様にご挨拶しようと勢いよく頭を下げた瞬間に目の前に大きな虫が出きてすごく驚いた拍子にそれはそれは派手に転んで頭を大きく打ち付けてしまったのを思い出した。
きっと傍から見ていたら、マンガのような転び方だったと思う。
思い出して恥ずかしくなった。
「ごめんなさい。ちゃんとご挨拶できなくて。」
私は、ここのお屋敷のお嬢様と年連が近いこともあり、遊び相手として呼ばれたのだ。お嬢様にご挨拶をする前に、派手に転んで挨拶も出来ず、さらにはご迷惑をかけてしまった。
噓でしょ。これ、会社の面接だったら、確実に落ちてる。
体から血の気が引くとはまさにこの事。どうしよう。
頭をシーツにこすりつけて、土下座をしていると、
「お嬢様が自分のベットを貸してくださったのよ。後でちゃんとお礼をいわないといけないわね。」
私の頭を優しくなででくれる、お母様の手。
この世界に、土下座という文化は恐らくない為、お母様はまだ私が頭が痛いのかな。程度に思っているのだろう。
少しも気にしていない様子である。
ホッと胸をなでおろしながら、改めて自分のいる場所を見渡してみた。
とても豪華な部屋だった。ピンクと白を基調としている。子供部屋らしくぬいぐるみ等も置いてあるにも関わず、どこかシンプルな印象を受ける部屋だった。
これは、ざお嬢様の部屋といった感じ。小さい子であればとても喜びそうな部屋だった。
しかし、私は現在の見た目は、幼女にも関わず中身は、成人女性なので、素直に喜べない。
ふかふかのベットは手入れがされているのだろうと分かるし、なにより調度品が高そう。細部にこだわっているのが分かる職人のものだろう。細かい彫とか入ってる。
てか、そんな自分の部屋のベットを心よく貸してくれるお嬢様って優しすぎやしないか。
これから、自分の使えるお嬢様へ期待が膨らむ。
『コン、コン』
部屋の扉から控えめなノックの音が聞こえてきた。