表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

三題噺もどき

机の中

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくじゅうきゅう。


※流血表現アリ※

 お題:置き去り・黒板・届かない




「―ん、、、」

 大きなチャイムの音に目が覚めた。

 始業や終業を伝える、学校でよく聞くあの音。

 寝ていたせいか、やけに音が大きく響く気がする。

 腕を枕にして、机にうつぶせになって眠っていたせいで、腕が痺れている。

「……、」

 周囲を見渡すと、見慣れた我がクラスの風景。

 30数名分の机と椅子が規則正しく並ぶ。

 私のクラスは、男女別に列が分かれている。

 廊下側から、男子の一列、女子の一列、男子の一列―というような感じで。

 今は諸事あって、名簿順に並べられているのだが、そろそろ席替えをしようかと担任が言っていたので、もうこの席ともお別れかもしれない。

 ついでに男女の列もごちゃ混ぜにするかもしれない、し、そのままの並びで行くかもしれない。

 そこは神のみぞ知る―というより担任の御心によるというところだろう。

 ま、心底どうでもいいので気にはしていない。

 私の場合、視力がよろしくないので問答無用で前の席になる、席替えも何もない。

 この席ともお別れかとか思ったが、せいぜい横にズレるぐらいだろうから、たいして変わらないな。

「……、」

 外に目をやると、もう夕方、空が赤く染まっていた。

 校庭にはどうやら人は居ないようだ。

 もう部活動生は帰ったのか、それか帰宅の準備のために部室にこもっているという線もある。

 この学校に全く人がいないということはないだろう。

 生徒がいなかったとしても、教師の一人や二人は確実にいると思われる。

 教師とはかわいそうに、申し訳なく思うぐらいにブラックな職業であるから、残業なんて当たり前なのだろう。

 私のような愚か者に、あれやこれや詰め込むためにあんなにも、身を粉にして働いている姿を見ると、ホントに心苦しく思えてしまう。

 ―教師にだけは絶対なりたくないとも。

「……、」

 それより、だ。

 いつの間にこんなに眠ってしまっていたのだろう。

 帰りのホームルームから寝てしまっていたのか、その時間の記憶がない。

 もしや六限目から寝ていたりするのか…?

 記憶がやけに朧気であやふやである。

 というか、クラスの人間たちは少々ひどすぎやしないか。

 たいして仲のいい人は居ないし、進んで話すような仲の人間なんてもっといないが、眠っている人間を置き去りにするような、非情な人間達だったとは、残念で仕方ない。

 と、そんなことを考えてはみるものの、私は真っ先に置き去りにしていくだろうから、もうこれ以上の文句は言うまい。

「……、」

 さて、そろそろ現状の把握に努めるとしよう。

 頭も覚醒してきたし、このクラスの人間たちへの悪意をつらつらと述べたところで、現状は変わらない。

 しかし、現状把握も何も、起きたのだからさっさと帰ればいいのだが…なんとなく、妙な胸騒ぎがして、動くに動けないのだ。

 下手に動いては、いけない気がする。

「……、」

 正直時間を確認して、門限を過ぎていないか確認したいのだが、その妙な気持のせいで、時計に目を向けるのすらできないのだ。

 そもそも、こんな時間に学校にいたことがないから、それだけでも不安を煽るのだ。

 特に部活にも入っていない私は、事が済めば即帰宅という人間なので、今の、この時間の学校に見慣れない。

 そのせいで、胸騒ぎがしているのかもしれない。

 ―そういうことにしておきたい。

「……さて、」

 なぜそんな行動をとったのか、全く分からないのだが、机の引き出しに右手を突っ込む。

 たぶん、この中に筆箱か何かを忘れていたのかもしれないし、何か違和感を感じたのかもしれないし、よくわからない、

 体が、自然に、動いた。

 普段そこには、教科書類をはじめとした勉強道具たちが収まっている。

 いわゆる5教科は基本的に家に持ち帰るのだが、副教科の教科書類は、ここに置きっぱなしにしている。

 ので、そこには何かしらの教科書がいるはず、なのだが、

 その感覚が、ない。

 なにか、違うモノが、入っている。

 なんだ、ぬるりとした、生暖かい、何かが

「―――?

 とっさに手を引き抜く。

 その勢いで、同時に何かが飛び散った。

 手に触れた、、、なにか、、赤い、これはー、ちー?

 指先には、それがべったりとまとわりついていた。

「―――――――っ!?」

 一気に血の気が引いていくのを感じた。

 自分の耳にすら届かぬ、声にならない小さな悲鳴が漏れた。

 そして、机の引き出しからは、

 ドロドロ、と、ドロドロドロドロと、

 あふれだしてきていた。

 滝のように、雨のように、何かが流した涙のように、止まらず、留まらず、

 ドロドロ、ベチャベチャ、流れ、私の足まで濡らしてく。

 あまりの恐怖に動くことさえかなわず、ただ短い呼吸音が耳に届いている。

「―、

 声を上げようにも、悲鳴が邪魔をして、うまく息ができずに、声が出ない。

 目の前の現象から目を反らそうと、視線を、上げる、

「―――

 黒板が、緑のあの黒板が、赤く、赤いチョークで、塗りつぶされていた。

 外からの、赤い光のせいで、それが、血そのもののように見えた。

 顔を上げなければよかったと、後悔した。

 いつの間にか、ガタガタと震え始めていた、手のひらで、どうにか、この現状から逃げようと、顔を覆い、視線を断ち切ろうとする―

「?」

 右手しか見えない。

 右側しか覆えない。

「?」

 視界に入ってきたのは、赤く、べったりと、濡れた、右の、手のひらと、

 手首から、先が、

 なくなった、

 左の、、私の、、、、左の、、わたしの、その断面が、、赤黒く、はっきりと、、左手、、私の、赤く赤く濡れた―――赤―?



「―ん、、、」

 大きなチャイムの音に目が覚める。

 ガタガタと周囲のクラスメイトは、各々帰宅の準備を始めている。

「―っ、」

 ズキーと、左の手首のあたりに、痛みが走った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ