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次のバスがやって来るのを、遠夜は寒さに耐えながらじっと待っていた。ボストンバックを提げる指はかじかみ、体の芯が少しずつ冷やされる感覚。家から時間をかけて歩いてきたせいもあって、外気に晒されている鼻先は真っ赤になっている。
雪は絶え間なく、はらはらと頭上に落ちる。降り積もった雪を払うように首を傾けると、年甲斐もなく雪玉を作って投げ合っている上級生たちが目に入った。彼らは犬がじゃれるのと同じく互いを追いかけ、パウダーを被ってはしゃぎ回る。
そのうち、大きなヘッドライトが背後から現れ、空気が抜ける音とともに目の前に停車した。上級生たちはまだふざけあい、どちらともなくバスに乗り込む。遠夜も二人の後に続く。バス停に、あの少年の姿はなかった。期待していたわけではないと言い聞かせつつ、彼がいないことに不満を抱いているのも事実だ。
ところが、空いている席に腰を下ろそうとしたさい、思わぬ人物と視線が交差した。彼は微笑んで、窓際に体を寄せる。この間遠夜が座っていた場所に、例の少年が腰掛けていた。バス停にはいなかったはずだ。それとも、もっと前から乗っていたのだろうか。
「早くしないと、バスが動くよ」
訝しむ遠夜に、少年が呼びかける。彼の言う通り足もとが揺れ、景色がゆっくりと流れだした。遠夜は腑に落ちないながらも少年の隣に座る。