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バスは学校のある通りに入る。遠夜はすかさず降車ボタンを押した。少年は押し黙ったまま、そのくせ何か言いたげな表情をして遠夜を見ている。バスは構わず、徒歩で通学する生徒たちを次々に追い越してゆく。
雪に囲まれた平屋の建物が右手に迫り、遠夜は降りる支度を始めた。ステンカラーコートのポケットに仕舞った整理券を確認し、足もとのボストンバックを太股にのせる。定期券を取ろうとして、遠夜は鞄の外ポケットに差し入れた手を止めた。横に目を遣ると、少年は悲しい顔つきになって俯いている。
バスは校門の手前で停車し、数人の生徒が立ち上がって乗降口へ向かう。遠夜も降りようとしたが、少年が邪魔になって通路に出ることができない。先頭の女子学生は既に外を歩いており、遅れをとっているのは明らかだった。
遠夜の気持ちを察したのか、少年はふいに顔を上げた。相変わらず悲しげな面持ちでいたが、急に笑顔になって道を開ける。ドアが閉まりかかり、遠夜は急いで乗降口へ走った。
「また今度、会ったときに見せてね」
背中に投げかけられた言葉は、耳の側で話されたのではないかという錯覚を与えた。乗降口から後方の席を窺うと、不思議なことに少年の姿はどこにも見当たらなかった。