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遠夜は本を読む気にはなれず、様変わりした街の景色に焦点を合わせた。
先月末に初雪が舞い降りてから、降り止まずに積もる雪。秋には真っ黄色の銀杏を連ねていた街路は、今ではすっかり葉の落ちた梢に雪が被さり、侘しげである。木枯らしに吹かれていた朽ち葉は雪の下で眠り、その上を、足取りの鈍い人々が白い息を立ち昇らせながら行き交う。長い冬を迎えて間もない時期の、憂鬱な溜め息が聞こえてきそうである。
遠夜は少年に気付かれないよう、密かに溜め息をついた。吐き出した息によって景色が霞む。コートの袖で曇った窓を拭うと、視線がまた少年にフォーカスを当てた。微動だにせず正面を向く彼の姿がふと映しだされたからだ。
少年が微かにこちらを向いた気がした。初めは気のせいだろうと思った遠夜だったが、さらに彼を見ていると、今度ははっきりと、少年がガラスを通じて視線を合わせているのだと判った。おもむろに振り反ると、彼は確かに遠夜へ微笑みかけている。
「……何?」
遠夜は幾分、声を低めて訊いた。見知らぬ少年に露骨に見つめられるのは、あまりいい気はしない。無言のまま、遠夜は少年としばし見つめ合った。いくらか体が温まってきたためか、彼の頬に赤みが差している。