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「君がなかなか起きないから、危うくバスから降り損ねるとこだった」
書籍を鞄に仕舞った遠夜は、皮肉まじりに降車ボタンを押した。定期入れを取り出した遠夜に、少年はけろりとした表情で言う。
「僕を連れて降りればいいじゃないか」
「君を連れて? 定期入れみたいに、持ち運べっていうのか。それに、君は一度だって次の停留所で降りたことがないじゃないか」
遠夜はわざと刺のある言い方をした。それにも関わらず、少年は手を後ろに組んで平然としている。だが、視線はチラチラと定期入れへ動き、気に入らなそうに鼻を鳴らした。
「僕だって降りてるさ、遠夜が見ていないだけで。だって、そこまでしか行けないんだから」
少年はまた意味深なことを話す。少しして乗降口が開き、外の吹雪が車内を駆け巡った。今朝は一段と冷え込み、視界が不明瞭なほど天候が悪い。急いで校舎まで走らないと、あっという間に雪男になりそうだ。
言葉とは真逆に、少年は席を立とうとする気配がない。痺れを切らした遠夜は、少年の手を掴んで念を押した。
「いいんだな。本当に君とこの停留所で降りるよ」
驚いた顔をする少年を無理やり通路に立たせ、後に席を離れた遠夜が先だって乗降口へ向かう。運転席で立ち止まった遠夜は、もたもたする少年の腕を片肘でつっつき、定期券を車掌に見せるよう促した。