第5話
「ゔ、」
明らかに残虐な内容に口を手で覆い、胃の中の物が登ってくるのを無理矢理飲み込んだ。どうやらジェンティーレは冷酷云々の問題ではなく、本当に頭のおかしなお嬢様だったらしい。
もう見たくないと捩じ込むよう本棚に戻し、頭を抱えた。親友が欲しい、恋人が欲しいという本音を吐露してもこんな人間見向きもされないだろう。
前世のことを思い出すのを辞めたいけれど、そうもいかない。割り切れるまで悩むしかない現実に唇を噛み締める。
ウロウロ、部屋の中を行ったり来たりしながら目に映る美しい女性の姿を見つめる。
長く手入れされているであろう白銀の髪、そしてよくよく見れば瞳は青色だった。以前の私の面影など全くない童話のお姫様のような顔に対し、眉間に皺を寄せては口を開く。
「貴方、どうやって生きたらあんなこと出来るの?」
答えはない。あるわけがない。
「…貴方も、同じ、だったの?」
真っ直ぐ見つめる青眼が浮かべる感情は何も無い。こんなに綺麗な顔をしているのに、こんなにも贅沢な暮らしをしているのに、何故あんな酷いことを。
(私と同じ…、、そんなわけないか、文章から見てもただの我儘で、人に対する親切なんて言葉は無かったし…)
同じことをグルグル考えてしまうのは昔からの癖だった。何度も何度も最悪の状況を考えてはどうしようもなく、ただ自分の不甲斐なさに頭を悩ませる。
でも、私は変わりたい。
「よし、今から出来ることを考えてみた方がいい気がする。」
軽く頬を叩き、もう一度私の顔を見つめた。
自分に言い聞かせるよう口にした言葉は、案外ストンと心に馴染む。うん、小さく頷いて余っているノートらしい物、使ったこともない羽ペンを手に取って状況をまとめてみた。
私は事故で死に、そのままジェンティーレの体に入っていた。そしてジェンティーレは執事及び自身に仕える者全員に残虐な行為を行っていた。
(そもそも、なんで皆んな出て行かないの?)
はた、と気付いた疑問についての理由はすぐにわかった。
ジェンティーレの本棚に入っていた従者の名簿には誰も彼も、行く宛の無い人達ばかりであり、家族もほとんど居ないという情報がびっしり書き記されてあったから。
もしかしてこの屋敷の外にもなにか、と思って窓の外を見た瞬間に出て行けない理由を確信した。
屋敷の庭は綺麗でも、門の外は離れた私の部屋から見ても分かる。とても、自然豊かとは呼べない荒れ果てた森が見えた。
「馬車がないと出て行けない、か。」
眉間を押さえながら本を机に置き、大きな大きなベッドに寝転がる。
朝ごはんを食べたばかりでも随分と疲れてしまったからか、気がつくと夢の世界へと意識を手放していた。
お久しぶりです、星河ハルです。
前回からまた半年ほど経ってしまい申し訳ないです…忙しすぎて小説自体読む回数、書く回数が減っていましたが、続きが思い浮かんだので書きました。これからどうしていこうか、悩んでいる所も多いですが、頑張ります。
そして、レビューをくださった方、ありがとうございます。何度も読み返し、何度も泣いてます。とても嬉しいです。励みです、続きが思いつかない度に背中を押してもらってます。
ブックマークしてくださった方、本当にありがとうございます。誤字脱字等たくさんあると思いますが、読んでくださりありがとうございます。これからも書き続けていきたいと思います。