第1話
私は、ただの会社員だった。
普通の当たり障りの無い学生として過ごし、流れる様に一般企業に就職した。
特別何かに興味があった訳でも無い、人と話す事は苦では無いが元々表情を動かす事が苦手だったので相槌を打っても無表情なので友達は出来ず仕舞い。私の話をする時は大抵「冷酷な人」と例えられていたし、親にも何度も言われて来た。
「本当に無愛想な子ね、そんなに私の会話は楽しく無いの?」
顔を顰めながら見下ろす母の顔はよく覚えている。父は当然見て見ぬ振り、担任も同じく曖昧に笑って話を切り上げるだけだ。
だからこそ、誰にも迷惑を掛けず「冷酷な人」として当たり前の毎日を過ごそうと思っていたのに…
久しぶりに早く仕事が終わり、残業もしなくて良いという事実に心躍らせて周りが見えなくなっていた。家でお酒でも飲みながらゆっくり過ごそうと考えて居ればあっという間に視界は真っ白。
何が起こったのか、把握する前に見えていた景色がまるでジェットコースターに乗っているのかと錯覚するほど揺れ、言葉では表し難い音が遠くから聞こえた気がした。
目の前に映るのはただ広がる夜の空だった。仰向けに寝転がっていて、色んな人の叫び声が聞こえてくるし、焦げ臭い変な匂いもして来た。
情報が多すぎて逆に脳が考えるのを放棄したらしく何も考えられなくなっていく。
このまま死んでいくのだと理解出来た。否、理解するしか方法が無かった。
(……私の人生、あっという間だったな…)
思い出せる事は殆ど無い。それ程までに私が冷たく周りからの情も無かったという証拠に変わりはない。
(……罰が当たったのかな…)
誰も愛さず、誰からも愛されない毎日を送っていたから、神様という存在が罰を与えたのかもしれない。
でも、もしこれが本当なら、私は誰にも愛されない人生を好き好んで歩んで来た訳では無い。
今更だけど、私だって、誰かを愛して、誰かに愛されたかった。
親友と呼べる人や恋人と呼べる存在が欲しく無かった訳じゃない。寧ろ欲しかった、周りの話を聞く度に必要な物じゃないと言い聞かせて来たけれど、今だからこそより強く思う。
恋愛小説の主人公とヒロインの様に、お互いを大切に思い、優しく微笑み、手を取り合う、そんな夢物語を歩んでみたかった。
ドラマやアニメで結婚式を挙げ、嬉しそうに涙を流す花嫁が羨ましかった。
そんな事を考えても、どんどん意識は落ちて行く。
正直に言うと怖い、このまま私はどうなってしまうのか。
死ぬという実感はあるが、正直怖くて怖くて仕方がない。出来たであろう傷は痛いなんて物じゃない、熱い。
(……本当に死んでしまう)
怖いけれど、抵抗する術なんて持っていない私はゆっくりと目を閉じ、そのまま意識を、手放した。
読んで頂きありがとうございました。
星河ハルです。
誤字脱字等あると思います、申し訳ありません。
ブックマークして下さった方、本当にありがとうございます…!とても嬉しく思います!!
これからもよろしくお願いします。