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第四話 偽りの優しさ

口直し四杯目。もう口直しでお腹いっぱいになるレベル。


前回あまり甘くない、とキッパリ言ったばかりなのに…‥ スマンありゃウソだった

でも まあちゃんと中盤にざまぁ要素も入れたから良しとするって事でさ…… こらえてくれ


それでも抹茶なら…… 抹茶ならきっと何とかしてくれる……!

お気をつけてお読みください。

 榊様にさらわれて二週間。

 今までの十四年間を合わせたよりも、全っ然幸せな時間が私を包んでいた。


『この菓子もお気に召したようですな』

「うん! すっごく美味しい!」


 お屋敷の縁側で、お庭を見ながらお茶とお菓子を楽しむ。

 アザミさんが丁寧に淹れてくれたお茶と、榊様お手製の和菓子の相性の素晴らしさ!

 何てぜいたく!

 何て幸せ!


「それにしても榊様、遅いですね」

あるじは菓子を閃きで作られる事があります。何か新たに一品、思い付かれたのでしょう』

「そうなんですね」


 でも一緒にお茶したいな。

 榊様は話し上手。色々な神様との面白い話や、他の神様の土地に行った話を聞かせてくれる。

 そしてアザミさんは聞き上手。私の好きなものや楽しい事を引き出してくれる。

 だから三人で話していると、榊様の話で思い浮かんだ楽しそうなイメージを、アザミさんが広げてくれる。

 今まで楽しい事なんてなかった私の、何よりも大切な時間だ。


『む。参拝とは珍しい』

「へ?」


 急にアザミさんが耳をピンと立てて、真剣な顔になる。

 参拝? お参りに誰か来たの?

 この丘みたいな稲荷の山は、色々なウワサがあって、お正月以外はあまり人は近付かないみたいだけど。


「思ったより早かったな」

「榊、さ、ま……!」


 だめだわらうな。わらっちゃだめだ。

 割烹着を着た榊様……!

 なのに顔がピキーンって聞こえそうなくらいのキメ顔!

 だ、だめだ……! もう……!


「美紀」

「ぶひゃははい!?」

「見よ」


 榊様の真剣な声のおかげで、爆笑は途切れた。

 何だろう。池を見ればいいのかな?


「……あ……」

「ふむ。此奴きゃつら思いの外、勘は良いと見えるな」


 池をすかして見えるのは、お父さん、お母さん、先生、そして私をいじめていた子達……。

 でも何でここに……?


「儂が彼奴らの加護を切ったからであろうな。加護を失った者は厄にさいなまれる」

「厄って……?」

『言ってしまえば不運です。タンスに小指から交通事故まで、人の不注意が引き寄せる厄をある程度遠ざけるのが主の加護です』


 そっか。榊様、この地域の神様だもんね。

 たまに忘れて料理好きのイケメンと思ってしまう。

 

「じゃあ加護がなくなった人は……」

『紙で手を切る、縫い針が指に刺さる、落とした荷物が足を直撃、財布から小銭が転がり落ちる、といった不運に見舞われます』


 ……何か地味だな。

 そんなのじゃ加護がなくなっても気がつかないんじゃないかな?


『日に百度程』

「めちゃくちゃ守られてたんですね!」


 それなら何かおかしいと思うよね。


「身に重なる不幸に理由を求めるのは人の常。そこで稲荷の山に消えた美紀との関わりを疑い、許しを乞いに来たのだろう」

「……」


 悪かった、とか、ごめんなさい、とか、許して、とか、色々な言葉が池から響いてくる。


「戻りたくば戻ると良い」

「……え……?」

「不運の原因をお主と思えば、もはやぞんざいには扱われまい。望むなら餞別に、如何なる厄も寄せ付けぬ最大限の加護も与えよう。どうだ?」


 戻る? あの中に? 榊様と離れて?


「っ」


 私は答える代わりに榊様の胸に飛び込んだ。

 榊様は私を、ただかわいそうな子として保護してくれただけなのかもしれない。

 本当は迷惑なのかもしれない。

 でも……!


「……イヤです……! あの人達の事なんかどうでもいい……! ただ榊様と一緒にいたい……! だから、お願いします……! ここにいさせて……!」

「……分かった」


 頭を撫でてくれる手が優しい。

 ってあれ? 榊様の服が初めて会った時の、神主さんの格好に?


『人の子よ。貴様らが追い立て、責め抜いた娘は無念の内に草葉に果てた。その怨みは深く、貴様らを永劫苛むであろう。更なる厄災に怯えよ。貴様らの罪、なまなかにゆるされざるものと知れ!』


 榊様のドスの効いた言葉で、真っ青になった両親達は転がるように帰って行った。

 あはは、私の祟りにされちゃった。

 でもそれもいいかな。


『主。美紀様は生きていた事にしてほしいと言っていたのでは?』

「あ、しまった! 済まぬ美紀! つい口が滑った!」

「あ、いえ、大丈夫です」


 もう本当にあの人達の事、どうでもいいし。

 怯えられようが忘れられようが、もう私には関係ない。

 榊様とアザミさんと一緒に過ごす時間が、今の私の全てだから。


「本当に済まぬ! 美紀が彼奴らより儂を選んでくれた事が嬉しくて、つい……!」

「!」


 顔を上げると真っ赤になった榊様の顔!

 じゃあ私があっちに戻っていいって言ったのはウソ……?


『我ら狐は化かす者ですが、主は美紀様に「す」を抜かれたようでございますね』

安座実あざみ……、何か棘がないか?」

あざみには棘があるものですよ。美紀様に一緒に居たいと言われたのですから、これくらい良いではないですか』


 あ、さっきアザミさんの名前出さなかったからスネてる?


「あ、あの、私アザミさんと一緒にいるのも大好きだから」

『別にそう言われたくて言ったわけではありませぬ』

「安座実。尻尾」


 しっぽがめっちゃばたばたしてる……。

 あ、人になった。しっぽを隠すためかな、


「んんっ。……さてさて、無粋な客も帰った事ですし、お茶の続きと参りましょう」

「うむ。では特製を持ってくるとしよう」


 榊様は一度台所に戻ると、お菓子を持って戻って来た。

 青いブドウを逆さまにしたようなお菓子だ。

 何だろう、初めて見た。


「これはムスカリという花を模した菓子だ」

「ムスカリ……」


 甘い優しい香りがする。


「冬の寒さに耐え、春に花咲く強い花。美紀にぴったりだと思ってな」

「私の、ために……?」


 ここにいられるだけで嬉しいのに、まだこんなに嬉しい事があるなんて……!


「ムスカリの花言葉は失意、失望。そして明るい未来、通じ合う心。成程。美紀様に相応ふさわしい」

「安座実……。儂の決め台詞を……」

「おや? そうでしたか? これは気付きませんでした」

「ふふっ……」


 甘い香りとウソ混じりの優しさに包まれて、私はまた嬉し泣きをさせられてしまったのだった。

読了ありがとうございます。


即答オオオォォォ! 悩む余地なしッッッ!


さていよいよあと一話。

人の世に戻らない事を決意した美紀。

となれば榊も遠慮がなくなるわけで……?

甘さにも遠慮がなくなると思いますので、最終話は気を引き締めて、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分の娘が既に死んでいると宣告されたのに、それを悲しむ素振りがないのがなんとも……。 摩訶不思議な出来事よりも、こんな両親の間に生まれてしまった事が最悪のホラーじゃないかと思うのです。
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