第一話 二柱の狐
夏のホラー2021に投稿した『狐の神隠し』のお口直しとなります。
未読の方はこちらから。
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ざっくり書くと、いじめられてた中学生の女の子が、両親にも教師にも助けてもらえず、神隠しに遭うという稲荷の山での一人かくれんぼを実行。
現れたイケメンの山の主にお姫様抱っこで人の世から消える、そんなお話です。
……ホラーですってば……(震え声)。
ここからはお口直し。
人の世を離れた少女・美紀が溺愛される甘々物語。
どうぞお楽しみください。
「着いたぞ」
「ここは……?」
「我が社だ」
森に入ったはずなのに周りに木はなく、薄く光る中には立派なお屋敷。
榊様は私をお姫様抱っこの体勢から下ろすと、扉を開けた。
『主。お帰りなさいませ』
「うむ」
可愛い!
小さなキツネが走り出てきて、玄関でちょこんと頭を下げた!
ふさふさのしっぽがきゃあああぁぁぁ!
もふもふしたい!
『おや、この方は』
「儂の供物になりたいと言う、頓狂な娘だ。名を美紀と言う」
「は、初めまして! 豊川美紀です! よろしくお願いします!」
『はい、こちらこそよろしくお願いいたします。私の事はアザミとお呼びください』
するとキツネがぽん、と音を立てて、子どもの姿に変わった!
金色のくるくるの髪。
細い目は笑ってるみたいでかわいい!
ほっぺもぷくぷくで、年下、かな?
「えっと、アザミ、ちゃん?」
「ん?」
「はい?」
あれ? 榊様もアザミちゃんも固まった?
「ははははは! ちゃん付けとはな! この身の丈では間違うのも仕方がなかろうが、此奴は男で、歳は二百を少し越えたところだぞ?」
「えっ!? いや、その、ごめんなさいアザミさん!」
どうしよう! すっごい失礼な事を言っちゃった!?
「いえいえ、ふと幼き頃の事を思い出しただけです。怒ってはおりませんよ」
アザミさんの細い目がにこーっと笑う。
あぁ良かった。ここ追い出されたら行くところないもんね。
「安座実、美紀を湯に入れてやれ。夕餉の支度は儂がする」
「ほう! 主の料理が味わえるとは! 僥倖僥倖! 美紀様、ありがとうございます」
「え、あ、はい、どう、いたしまして?」
榊様って料理、上手いのかな。
料理。
ゾワっとする。
榊様は、私が熟れたら食べるかも、と言ってた。
お風呂に入って、榊様がお料理を作って、昔話みたいに、私、太ったら食べられちゃうのかな……。
「美紀。言っておくが儂が食うと言ったのは冗談だからな? そんな顔をするでない」
「あ、ありがとうございます!」
「主は顔が怖いのですから、もう少しお言葉遣いに気を回されますように」
二人の言葉にほっとする。
でも榊様の顔って怖いかな?
切長の目に細く鋭い眉。
鼻筋はピンと通っていて、顔の線は細くて彫刻みたい。
銀色の髪がキラキラしてきれい……。
改めて見ると、めちゃくちゃイケメンだなぁ。
「何だ? 儂の顔がそんなに気になるのか?」
「あの、いえ、カッコいいなぁって思って……」
「ほう、儂もまだまだ捨てたものではないな」
うわわわわ!?
笑った顔を正面から見るとやばい!
カッコいいのにかわいい!
何これすごい!
携帯壊されてなかったら写真撮ってた!
「はいはい。これ以上やると、美紀様がお風呂に入る前にのぼせてしまいます。さ、美紀様、参りましょう」
「は、はい」
私は呆れたように言うアザミさんに促されて、榊様のお屋敷へと上がって行った。
読了ありがとうございます。
こんな感じの流れで五話の予定です。
お口直しの方がボリューム多いってどういう事だよ!とお思いの方も多いと思います。
私もです。
でもいじめに耐えて戦った美紀は幸せにしないといけないからね。仕方ないね。
次話もよろしくお願いいたします。