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04:17

ちなみに楠木って名字は外道戦術が有名な鎌倉から南北朝辺りに実在した英雄、楠木正成がネタ元。

―前回終盤と同時刻・屋外・雅子―


雅子は屋外でライアーを焼き殺すための「燃料」と「火種」を探していた。


「んー…燃料は乗用車用ガソリンで決まりなんだけどなぁ…」


そう。

今の彼女に足りないもの。

それは火種であった。


読者諸君の中には存じ上げている方も多いと思うが、一応書いておこうと思う。

最も有名な化石燃料として名高きガソリンとは、揮発性が強く非常に発火しやすい液体燃料である。

原油の蒸留作業の際に上層へと溜まっていく様に、蒸発しやすい燃料なのである。

動画配信サイトやバラエティ番組で、火達磨になっている人物の映像などを良く見るはしばしば有るが、大体はこのガソリンの性質を見誤って事故へと発展したり、逆にその性質をわざと利用して無茶をしている場合が殆どである。

ガソリンの一部の成分は30℃前後で爆発的に気化していく。これが火の気の類を微塵にでも拾えば即炎上の大爆発。

炎天下等気温の高い場所で草刈りや庭木の手入れをした後始末する場合や、戦死者を簡単な火葬で葬る場合にガソリンを撒いて焼こうとすると己まで火の海の中に居ることになり、大変危険である。絶対に真似しないように。


化学にも精通していた雅子は、乗用車用ガソリンのこういった性質を熟知していた。

更には偶然ライターも見付けたわけで、準備は万端かに思えた。

が、それでも問題があったのである。


まず第一に、今回の戦いでは当然死を覚悟の上で戦っている。

だから自分が焼け死のうが爆死しようが構わないが、その代わりとしてライアーを確実に仕留めなくては成らない。

ガソリンを撒き、十分蒸発したところでライターに火を付け、隙有らばそれをライアー目掛けて投げる。

この作戦こそ、まさに雅子が決行しようとしていた策であった。

しかし考えを巡らせると、どうにもこの作戦には致命的な弱点がある事に気付いたのである。

その弱点とはずばり、ライアーには十分逃げられる隙があるという事である。

燃焼の早いガソリンとはいえ、燃え上がる最初の場所はそこそこ離れた位置に居る雅子である(ライター投擲は確実でないので計算外とする)。

仮にに炎が直ぐに燃え移る距離でも、ライアーならば直ぐに逃げ出してしまうだろう。

かと言って接近すれば点火直前に殺されてしまうので、どっちにしろ野放し確定である。


これではいけない。


そう思った雅子は、もっと適切な火種を探していた。

ライアーを効率良く焼き払う為に、まき散らされたガソリンへと理想的な点火をする火種を。

例えるなら遠距離で炸裂する手榴弾のようなものを。

300円エアガンの特殊弾丸はあれ一発が最初で最後である。


何か無いかー何か無いかと呟きながら辺りを見渡す雅子。


そして彼女は売店の片隅にあるものを見付けた。

それはカプセルトイ自販機―俗に「ガシャポン」等と呼ばれるものだった。


雅子はその中にあった、カプセルトイとして子供に渡すにはかなり危険な代物に目を付けた。

幸い中身はまだ有り余っている。


ガン!

ガン!


ガバキッ!


液体窒素が入っていたボトルで商品の入っているスペースを叩き壊し、中の物を出す。

そしてそれらのカプセルを慎重に踏んで空ける。

中から効率の良い物を数個選び抜き、ポケットに仕舞う。

更に全てのカプセルに共通で入っている「ある物」を全て一つのカプセルに纏め上げ、これもポケットに仕舞う。


「おkおk。

これでライアーを焼き払えるね。

こんな危ないモン取り扱ってるホテルもどうかと思うけど、まぁ良いよね」


―同時刻・ホテル内部・ライアー―


「この程度か…神木天津…。

お前の覚悟とは…この程度か…?」


青い人影のような姿を取るライアーは、真っ二つに切り裂かれた天津の死体を見ながら嘲笑した。



何故このような結果となったのか?

天津はライアーと遭遇後、ガソリンを浴びてライアーに突撃。己もろともライアーを抹殺しようとしていた筈だ。

それが何故、これほど悲惨な事態へと発展してしまったのだろう?




その真相は、これから語る事にしよう。




―数十分前・サウスウィング三階・天津、ライアー―


天津は喉が潰れるほどの大声で叫びながら、ライアーを探していた。

「悪魔ー!殺してやるー!

出てこいー!」

そして歩いている最中、足が何かに填った。


ズボッ!


「!?」


見れば床の一部が粘土かスライムの様に凹み、その中に天津の両足がめり込んでいた。

「何だ…コレは…?


そんな…こんな馬鹿げたことがあるか……有るか…」


呟きながら足を引き抜こうとするが、藻掻けば藻掻くほど足は沈んでいく。

まるで底なし沼のように、徐々に、徐々に沈んでいく。




そして




次の瞬間


「こんな事が……こんな絵空事みたいに馬鹿げているとしか言いようの無い事が……こんな事……………有るわけが………。。。。。





無いィィィィィィィィイ!!」



ズブルルルルルルルルルルルルルルル!!


天津は絶叫と共に、みるみるうちに床へと吸い込まれていく。


そして天津は、直ぐ下の二階天井から吐き出された。


ズポュ…


ドサッ!

「だぁっ!


っはぁ…はぁ…はぁ……ら…ライター…ライターは…!?」

堕ちた衝撃で足を捻挫し動けなくなった天津。

ライターを落とし、必死に辺りを探し回る。

「あ…有ったッ!

だが…ガソッ…ガソリン…ガソリン…ッ!


よし…どうにか取ったぞ…これであとは悪魔がくるのを待つだけ…」


そう安堵した天津だったが、悲劇はまだ終わっていなかった。


「…あぁ…あとは…悪魔が来る…いや呼べば……ぐァっ()ッ!」

ライターを持っていた左手に激痛が走り、急いで手を押さえる。

そして恐る恐る天井を見上げるが、そこには何もない…かと思いきや、


ニュゥン…


天井の表面が少しずつ歪んでいき、浮き上がってきたのは、青白く丸い、目口のような黒い穴だけが開いた人面のような物。

しかも一つではない。

徐々に…徐々に…ゆっっっくりと…それらは無数に浮かび上がっていく。


そして無数の青白いものと、中央に出てきた深紅のものを含め円形に集結した人面達は、視線を天津に集中させる。


「…うあぁぁぁぁあああ!!見るな!僕に視線を向けるな!


やめろぉぉぉぉおお!!」

恐怖の余り騒ぎ立てる天津。

すると、中央に座す深紅の人面が注意する。


「 Be silent.

(訳:静かにしろ。)」


深紅の人面が発するオーラに威圧され、静かに黙り込み、その場で仰向けになってしまう天津。

その意識は、徐々に薄れていこうとしていた。


そして深紅の人面は何やら指揮を執り…

「1,2…1,2,3,4…」

合図の直後、人面達は歌い出した。

その歌声は、さながら世界最高峰の合唱団が歌うほどに美しく、また楽器演奏の音を担当している者も居るのだろう。

オーケストラの美しい音楽まで聞こえてきた。


天津は起きあがることが出来ず、意識を取り戻してもその歌を聴き続けた。

美しい歌が始まった。




美しく不気味な歌が、始まった。






『死に行く悪人への賛美』

歌:偽りの仮面合唱団

演奏:偽りの無人オーケストラ

総合指揮:生きている嘘




God

(おお神よ)

We are sinful people.

(我らは罪深き者)

Please it is saving result food as for us.

(どうか我らを救い賜え)


God

(おお神よ)

We are weak people.

(我らは軟弱な者)

Please it is defense result food as for us.

(どうか我らを守り賜え)


The abhorrence of one kills the person.

(一の憎悪が 人を殺す)

The malice of ten destroys the home.

(十の悪意が 家庭を崩す)

The murderous intent of 100 burns out the town.

(百の殺意が 街を焼き払う)

The pain of 1000 sinks the country in the sea.

(千の苦痛が 国を海へ沈める)

The wickedness of the myriad keeps destroying the star.

(万の邪悪が 星を滅ぼし続ける)


The person who has evil is good though he or she often hears.

(悪を持つ者よよく聞くがいい)

You see despair sooner or later.

(お前はいずれ絶望を見る)

The person who has evil must steel oneself.

(悪を持つ者よ覚悟を決めよ)

You crawl the hell some time and turn.

(お前は何時か地獄を這い回る)

The calyx of the person who has evil is good as far as possible.

(悪を持つ者よ精々もがくがいい)

You lose this ahead all.

(お前はこの先何もかも失う)






その瞬間、




恐怖に耐え続けていた





天津の精神は





ほぼ限界に達し…





「…………………ヤメロォォォオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」




叫び、飛び起きる天津。

もう何がどうなろうと構うものか。

足の捻挫も、切り落とされた左手からも、痛みは微塵にも感じられない。

天津は目から大粒の涙という涙をボロボロどばどば流し、絶叫しながら無数の屍を踏み越えて廊下を駆け抜ける。

しかしその脚力も限界に達し、ついに転倒。


立ち上がろうとするが、手足に力が入らない。

そして彼の耳に、気味の悪い乾いた音と、気色悪い湿った音が同時に響く。

嫌な予感しかしないが、天津は恐る恐る後ろを振り返る。


するとそこに居たのは…



「いぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

来るな!失せろ!死ね!俺の側にちかよるなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



殺意の大群。

それは全長4cmの蟻と、それの2倍はあるであろう丸々太った蛞蝓であった。

天津はこれらの生物に幼い頃から異常なまでの恐怖感を抱いており、それは15歳となった

今でも変わっていない。

蟻は天津の左半身に、蛞蝓は右半身にそれぞれ群がり初め、服の中まで侵入し、彼の身体を蹂躙する。


カサカサカカサカサカサカサカサカサ…


ニュルリ…ジュクリ…ウニョリ…ピトリ……



「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああよせえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああ!!」


暴れ回る天津。潰れる蟻と蛞蝓。

しかし、潰しても潰しても蟻と蛞蝓はわき出てくるばかりである。






そして遂に、それ(・・)は現れた。







長身で肩幅が広く、体つきは筋骨隆々。






身に纏うのはビニール製の白く裾の長いエプロンだけ。





右手に持つのは身の丈ほども有りそうな大きな斧。










皮膚はなく、むき出しになった筋肉や血管。











頭はなく、そこには蔓のような血管の束から伸びた大小無数の目玉があるだけ。









そんな大男が、天津ににじり寄ってきていた。













「…ヤ……………………メ……………テ………………ク……………………レ……………………ッッ」



恐怖から全力で叫びすぎた天津のその声は掠れており、命の気配すら感じさせないほど弱々しかった。






大男の斧が、遂に天津へと振り下ろされる。








殺される瞬間、天津は呟いた。















「平…和……を―バギュゴガァッ!







頭から汚く真っ二つに叩き割られた天津。





変身を解きつつ、天津をあざ笑うライアー。







それから暫くして、今に至るわけである。



―現在・サウスウイング2階・ライアー―


ライアーは人間なんて下らないだけでおもしろみも何もない只の餌だと思いこんでいたが、雅子に対する考えだけは違った。


雅子は気高く、勇敢で、正義感の強い人間だ。

そしてライアーは思った。


「(そんな人類に対して、嘘を吐くとは勿体ない。

折角至高の人類なんだ。ただ普通に殺してしまっても面白くは代だろう…)」


折角の上玉だ。


そこでライアーは、雅子と戦うに当たって自分なりのハンデを儲けることにした。

そのハンデとはずばり、





「変身禁止」

但し、身体の一部を刃物や鈍器にする程度なら許容範囲内。






これはライアーが突如「楠木雅子とはマトモに戦いたい」「変身無しで何処まで行けるのか」という理由の元、一瞬で決まったものである。






ライアーは今、暗闇の中を走り出した。

唯一餌でなく宿敵と認めた人間―楠木雅子を探し出すために。



一方の雅子も、ライアーを探しにホテルへと向かっていた。

出来れば此方から先に見付けなくては。






決戦は遂に始まった。







この壮絶な戦いを回避できる屋根など、あんまり無い!

あと雅子って名前は中学時代結構世話になった上に中三の頃は担任としても結構必死に世話してくれた適度に美人で若作りネタが自慢の中年英語教師がネタ元。

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