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生きるとはつまり、
戦いである。
争いである。
競い合いである。
殺し合いである。
故に、何とも戦わずして生き残る方法など存在しない。
人の真理とはつまり、
科学である。
現実である。
神仏である。
思想である。
故に、信奉者達は己を絶対の正義と考え疑わない。
嘘や捏造は全てを破壊し尽くす可能性がある。
単純に学力の無い者が何かを偽る事は即ち、死や破滅の暗示である。
平等に清く正しく報じる筈の者達は、私欲の為だけに読者を簡単に騙す。
嘘は危険である。
嘘は何にも勝る毒である。
嘘を制する者は、肉に溺れて溺死する。
嘘には気を付けよ。
嘘で、簡単に人間は死ぬ。
―北海道・ルスツリゾートの一室―
高級リゾートホテルの一室に、一人の女が居た。
「いやぁ楽しかった〜。
出来れば来年も来よう。飛行機代馬鹿んなんないけど」
そう言いながら何やら模造紙の束を整理している女の名は、楠木雅子。
岡山県某大学の動物学科に所属し、脊椎動物の進化についての研究を進めながら、その一方で生物以外に化学や物理にも精通する才色兼備の女子大生である。
彼女は大学の夏休みを利用して、北海道で開かれた夏の科学イベントに参加していた。
エクジソン投与によるハエトリグモの巨大化実験や、化学の力や食品添加物を活用した美味い料理の作り方、自作ヤスリ刃物と市販の包丁で様々な食材を調理した時のレポート等の発表を済ませ、実行委員会から高評価を頂いたのであった。
「さて…と、そろそろご飯だねーっと」
一通り整理も終え、ずり落ちた眼鏡を直した雅子は空腹感を覚え、巨大食堂「アラスカ」へと向かった。
部屋の扉を閉じると、アラスカへの廊下を足取り軽く進む。
途中窓から見える屋内プールに目をやると、中では数人の男女や家族連れが自由に楽しんでいた。
この時彼女はまだ知らなかった。
この楽園のようなホテルに、神の許しの元人類に手を貸す科学という名の悪魔が作り出した、絵空事のような力を持った凶悪な使い魔が、侵入していた事に。
ルスツリゾートは今夜、使い魔に豪勢な夕餉を振る舞うことになるという、その事実を。
他のイベント参加者達と共にルスツの美味い飯をバイキング形式で頬張る楠木雅子は、知らなかった。
自分の運命を。
自分が使い魔と戦う為の、唯一の希望であることに。
次回から無茶苦茶長くなります。