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はじめての料理~ほくほくコロッケ

茹でて潰したじゃが芋を裏ごし、炒めた挽き肉と合わせて(たわら)型にまとめていく。

ごつごつとした無骨(ぶこつ)なじゃが芋が、なめらかな肌をもつコロッケ種へと変化し、きつね色の衣を着たハイカラなコロッケへと生まれ変わっていく。

 手を加えることで食材が変化し、美味しい料理になっていく過程が最も楽しい瞬間だとさちは思う。


(どうか美味しいコロッケになりますように)


 さちは思いを込めてコロッケを作り、次々と揚げていく。


 土間の台所からは、じゅわじゅわ、ぱちぱちとコロッケを揚げる音が聞こえてきて、ぬらりひょんたちの腹は否応(いやおう)なく刺激されていく。


「揚げ物の音って、いいでやんすね」

「音だけならな。すぐ近くに見ておると油が跳ねてくるぞ。だから(のぞ)きに行くでない」

「この匂い、たまらんのぅ。いっそ酒も持ってくるべきだった」


 コロッケへの期待が高まり、そわそわと落ち着かない御三方(おさんかた)であった。


「コロッケは揚げたてが一番うまいでやんすからねぇ。ああ、楽しみだ」


 一つ目小僧はあふれ出てくる(よだれ)を、袖口でぬぐっている。


「一つ目、おまえはコロッケを知っているのか?」

「へぇ、おやびん。一度だけでやんすけど、人間からもらいやした。まだほんのりと温かいコロッケをがぶっとやるとですね、ほくほくなじゃが芋と肉の旨みが口いっぱいに拡がって、そりゃあもう、うまいでやんす。あちあち、はふはふしながら夢中で食べちまいました」


 うっとりとコロッケの美味さを語る一つ目小僧の言葉に、ぬらりひょんの腹は不覚(ふかく)にも、「ぐーっ」と鳴いてしまった。


「おやびん、はしたないでやんす」


 ぬらりひょんをちらりと横目で見た一つ目小僧は、にまりと笑った。


「う、五月蠅(うるさ)い! わしはちょうど腹が減っておったのだ」


 ぬらりひょんは赤くなる顔をごまかすように、さちのいるほうに顔を向ける。油すましも耐えられなくなったのか、忙しなく足を揺らし続けている。


「お待たせしました。コロッケでございます!」


 ついに運ばれてきたコロッケに、一同は歓声をあげた。


「待ってました!」

「はよぅ、食べさせてくれ」

「この匂い、たまらんのぅ……」


 お盆に載せたお皿を、ぬらりひょんたちが待つ、ちゃぶ台へと移していく。


「お好みでウスターソースをかけてお召し上がりになってくださいませ」

 

 白い皿の上に、揚げたてのコロッケが二つ盛られている。ほかほかと湯気が立っており、見るからに熱そうだ。

 ぬらりひょんはごくりと唾を飲み込むと、初めての料理を前に心を落ち着ける。


「では、いただくとしよう」

  

 ぬらりひょんが気取って手を合わせている隣では、礼儀など知らぬといった様子の一つ目小僧が、早くもコロッケにかじりついている。油すましは見たことがない料理をしげしげと見つめた後、なんと手掴みでかぶりついてしまった。


「あちあち、あちゃあちゃ……」


 油すましは熱さに耐えながらも、夢中で頬張った。ぬらりひょんは上品にコロッケを箸で二つに割ると、半分だけ口に入れた。


 まず感じるのは、さくっとした衣の心地良さ。衣をぱりぱり噛み砕くと、口の中に拡がっていくのは、じゃが芋の素朴(そぼく)な甘みと肉の旨さ。どちらかだけでも充分うまいのに、二つが合わさったことで、絶妙な味わいへと変化している。好みでウスターソースをかけることで、味わいはさらに変化していく。


「これは……」

   

 ぬらりひょんが、ぽつりと呟いた。


「実に」


 続いて、油すましも呟く。


「たまらなく」


 二人の言わんとすることを理解したのか、一つ目小僧も言葉を繋げる。

 ぬらりひょん、油すまし、一つ目小僧の視線が合わさる。にやりと笑った、その瞬間。


「「「うまい!!!」」」


 三人同時の言葉は、さちの心に深く響いた。

 それは料理を作る者にとって、もっとも簡素で、最上のほめ言葉であったのだから。


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