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ぬらりひょんのぼんくら嫁~虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ~  作者: 蒼真まこ
第三章 父と娘 心ぬくぬく、あったかシチュー

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父との再会

「さち、壱郎から文が届いた。明日ここへ来るそうだ」


 いよいよ、さちが父である壱郎と再会する日がやってきた。

 厳しい顔で、さちを怒鳴りつけていた父親の姿が脳裏に浮かぶ。


「さち、大丈夫か?」

「大丈夫です、ぬらりひょん様。私の思いを、きちんと父にお伝えしたいと思っています」

「そうか……さちは強くなったな」


 ぬらりひょんが眩しそうにさちを見つめている。さちも応えるように、可憐に微笑んだ。


「すべて、ぬらりひょん様のおかげです」

「わしは何もしとらん。おまえが自らを成長させたのだよ」


 さちはもはや、何も知らない幼き少女ではなかった。おのれの運命に向き合える強さと勇気を身に付け始めていたのだ。


「ぬらりひょん様、父が明日来るのでしたら、父に作ってあげたいものがあります。作ってもよろしいでしょうか?」

「好きにせよ」

「ありがとうございます」


 さちの目に、もはや怯えは感じられなかった。


「ところで、さち。壱郎に何を作ってやるつもりなのだ?」

「はい、栄養があって体も温まるシチューを作ってあげようと思っています。九桜院家での父は、いつも疲れた顔をしていましたから」


 疲れからくる苛立ちで、さちに怒りをぶつけていたのだろうか? それならば、せめてわずかな間だけでも疲れを癒してあげたい。


(思えば私も、お父様に娘として何かをしてさしあげたことは、一度もなかったわ……。いつも遠くから見ていることしかできなかったもの。きっとこれが最初で最後の親孝行になる……)


 さちはおりんにもらった白いエプロンをつけると、シチュー作りにとりかかった。




♢♢♢



翌日、さちの父である九桜院壱郎が、ぬらりひょんの屋敷にやってきた。

 

「ご無沙汰しております。ぬらりひょん様」


 ぬらりひょんの部屋へと通された壱郎は深々と頭を下げ、丁重に挨拶をする。


「久しいの、壱郎。おまえと会うのは何年ぶりか」


 ぬらりひょんが九桜院家の当主である壱郎と最後に会ったのは、十年以上前の話だ。その時の壱郎はまだ若く、希望にあふれた目をしていた。

 しかし今、目の前にいる壱郎は顔色が悪く、ひどくやつれている。歳を重ねたとはいえ、明らかに具合が悪そうだ。

 見た目の変貌ぶりに驚いたぬらりひょんであったが、あえて何もふれず、当たり障りのない挨拶をする。


「長らく御挨拶にも伺えず、誠に申し訳ございません」

「気にせずとも良い。それだけ仕事が忙しかったということであろう。家業は順調か」

「はい、おかげさまで何とかやっております」


 思いつめたような表情から察するに、とても順調そうには思えなかったが、仕事のことはそれ以上何も言わなかった。どうやら、ふれてほしくないようだ。


「失礼致します。お茶をおもち致しました」

「来たか、さち」


 さちがお茶を運びながら、ゆっくりと障子戸を開けた。やや緊張した面持ちで、ゆっくりと顔をあげる。

 父である壱郎と目が合うと、その変貌にさちも驚いてしまった。


(お父様、お痩せになった。どこか具合が悪いのかしら)


 娘として事情を聞きたかったが、ろくに交流がなかった父と娘だけに、さちも何を話していいのかわからない。

 助けを乞うように、ぬらりひょんの顔を見ると、任せておけ、とでも言うように軽く頷いた。


「実はさちがな、おまえのために料理を作っておるのだ。それを共にいただいてから話を……」


 ぬらりひょんがそこまで話した時だった。


「そのことですが、ぬらりひょん様。勝手ながら、娘のさちを返していただきたいのです。今日はそのことでお願いに参りました」


 それはあまりに不躾(ぶしつけ)で唐突な申し出だった。



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