第六天長 夢幻の如くなりッ!
「ノウコオオオオオオ!!!!」
「――!!!」
その時だった。
燃え盛る炎を物ともせず、幼長が私の前に現れた。
「の、信長!!? 何でここに!?」
幼長は演劇の衣装である、時代劇の殿様のような格好をしていた。
こんな時に何だが、メッチャ似合ってる(そりゃあね)。
「いつも言ってるだろ、お前のことは俺が守るって」
「っ! ……信長」
ああ、それでこそ私の推し。
――実は私は生粋の『幼馴染萌え』なのだ。
だからきらメモでも、毎回幼馴染キャラの菱本光輝君ばかり攻略していた。
しかもそれに信長という萌え要素まで追加されたのだから、私は一目見たときから今日までずっと幼長推しだった。
そしてそんな推しが、私の絶体絶命のピンチに駆けつけてくれた――。
こんな幸せなことが他にあろうか? いや、ない!(反語)
「さあ、早くここから逃げるぞ」
「えっ、あ、うん。――キャッ!?」
流れるように幼長にお姫様抱っこされる私。
ふおおおおおおおおお!?!?!?
「で、でも、信長先輩と明智光先輩が!」
「あの二人はあいつらに任せとけばいい」
「え?」
あいつら?
「ハンッ、何で俺様がこんな大うつけの世話を」
「アッハー! これぞ清洲同盟デスねー!」
「まったく、本当に世話が焼ける人達ですよ」
――!!
いつの間にか俺長とフィギュ長先輩と蘭丸きゅんが、六長先輩と明智光先輩を保護していた。
み、みんな来てくれたんだ……。
「もうここも長くはもたない。行くぞみんな!」
「「「オオッ!」」」
――こうして私達は間一髪、焼け崩れる体育館から脱出したのである。
「気分はどうだ、ノウコ?」
「あ、うん。大分よくなったよ」
そして私は今現在、校庭の芝生の上で幼長に膝枕をされている。
普通膝枕って男女逆だと思うんだけど、イケメンの固く引き締まった膝枕もこれはこれでアリよりのアリだな……!
「……本当に、ノウコが無事でよかった」
「! ……信長」
幼長は慈愛に満ちた顔で、私の頭をそっと撫でてくれる。
……ああ、そういうことか。
実は他の三人の信長に比べて、幼長だけは織田信長の要素が薄いなってずっと思ってたんだけど、そんなことはない。
幼長のこの『優しさ』こそが、一番の信長要素だったんだ。
織田信長というと、比叡山の焼き討ちとかから苛烈で恐い人ってイメージが強いけど、一方で子供が出来ずに悩んでた豊臣秀吉の奥さんの寧々に励ましの手紙を送ったりするくらい、優しさに溢れた人物だったらしい。
だからこそ、こうまで多くの日本人に愛される武将になっているのかもしれない。
そんな幼長のことを、私も――。
「――好きだ」
「……え?」
お、幼長!?!?
今、何と!?!?
「俺はずっと、子供の頃からお前のことが好きだったんだ、ノウコ」
「――!!」
あ、ああ……。
そんな……、きらメモで何回も光輝君とは両想いになってきたけど、その比じゃない――。
好きな人と肌と肌が触れ合って、こうして体温を感じ合えることの、何と心の満たされていくことか――。
――そうか、きっとこれが愛なんだ。
「返事は、ノウコ?」
「っ!?」
幼長が意地悪な目をしながら、そのイケ顔を私の顔にグイっと近付けてきた。
はわわわわわわわわわ。
私は今幼長に膝枕されてる状態だから、空がすっぽり幼長の顔で隠れてしまっている。
ううーん、絶景かな絶景かなッ!
「……わ、私、も」
「ん?」
「私も、信長の、こと、が……」
「聞こえない。もっと大きな声で言って」
「~~~!!」
ああー、もうッ!
すっごく恥ずかしいのにー!
幼長の意地悪うううう!!
「オイそこのバカップル、その辺にしておけよ」
「「――!!」」
いつの間にか私達のすぐ横に、俺長が呆れ顔で立っていた。
うん、まあそうなるよね!!
わかってたわかってた!!
お約束ってやつだよねッ!!
「オーウ、何ということでしょう、ボクは失恋してしまいまーシタ! 慰めてくさサーイ、お蘭」
「え!? おおおおおお館様!?!?」
――!!
そしてその横にはフィギュ長先輩と蘭丸きゅんも!
フィギュ長先輩は蘭丸きゅんに抱きついて頬擦りをしている――!
尊ーーーー!!!!!!!!
「おめでとう二人共、私は君達を祝福するよ」
「ええ、精々幸せにおなりなさい」
更にその横には六長先輩と明智光先輩。
まあ正直、あなた達二人に関してはどの口が言ってんだよって感じですけど、今日だけは特別に許しましょう。
「ふふ、なあノウコ」
「え?」
幼長――いや、信長は私の耳元で、そっとこう囁いた。
「さっきの返事はこの後、俺の家でじっくり聞かせてな」
「――!!」
ううーんこれぞ正に、夢幻の如くなりッ!