第五長 『大うつけ』だな
「秀子、今この時をもって――君との婚約は破棄する!」
「「「――!!!」」」
「そ、そんな!? 信長様ッ!!!」
婚約破棄キターーー!!!!
うわあ、マジでゲーム通りになっちまったよ……。
文化祭の後夜祭会場として盛り上がっていた体育館。
そこで突如として繰り広げられる生徒会長――第六天魔王こと織田信長の、明智光先輩への婚約破棄宣言――!
ゲーム中でも最も重要なイベントの一つだけど、まさかマジで婚約破棄してしまうとは……。
「何故ですか!? 理由をお聞かせください、信長様ッ!!」
「君には本当にすまないと思っている。――だが私はもう自分の気持ちに嘘は吐けない。私は心から愛してしまったのだよ。――そう、ノウコ君をね」
「「「――!!!?」」」
「キンカ頭を!?!?」
勘弁してくれえええええ!!!!!
「お、おのれ……、キンカ頭……、絶対に許せない」
あわわわわわわ。
明智光先輩はプッツンしてる時の山岸由花子みたいな形相で私ににじり寄ってきた。
こんな時に限って幼長と俺長は演劇部の出し物の後片付けでいないし(あの二人は演劇部なのだ)、フィギュ長先輩もフィギュアスケート部のエキシビションに出ているので不在という状況。
ま、まあ、ゲームだとここで私は明智光先輩に思い切りビンタされるんだけど、そのビンタがあまりに強烈だったものだから私は気を失ってしまうのだ。
それで我に返った明智光先輩は自身の行いを反省して、それ以降は私に嫌がらせはしなくなるという流れ(随分とご都合主義な展開だが、まあゲームだから、ね)。
痛いのは嫌だけど、それで丸く収まるのであれば一回くらい我慢しよう……!
毎年大晦日が来るたびにプロレスラーからビンタされてる落語家よりは遥かにマシだ。
「許せない……許せない……許せない許せない許せない許せない許せない許せなあああああああい!!!!!!」
――!!?
あ、あれッ!?
明智光先輩の様子がおかしい!?
ゲームだとここまでイッちゃった感じではなかったはず!?
「もうお終いよ……。全部……全部全部全部全部全部燃やしてやるわあああああああ!!!!!!!」
「「「――!!!!」」」
なっ!?!?
明智光先輩はどこからともなく科学の授業で使うアルコールランプを大量に取り出し、その中身を辺り一面にブチ撒けた。
そして――。
「敵は――本能寺にありッ!!!!」
「明智光先輩ッ!?!?」
寸分の躊躇もなく火をつけたマッチをアルコールの上に落とした。
えーーーー!?!?!?!?
「う、うわああああ!!!」
「キャアアアアア!!!」
「アーツェ!! アツゥイ!!!」
一瞬で場は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。
何てことだ……。
悪役令嬢に明智光秀がプラスされたことによって、山岸由花子もビックリのヤンデレキャラになってしまったというのか……。
い、いや、そんな冷静に分析してる場合じゃない!
早くこの場から逃げなきゃ――!
「人間五十年~、化天のうちを比ぶれば~、夢幻の如くなり~」
っ!?!?
その時だった。
六長先輩が悟りを開いたかの表情をしながら、炎の中心で敦盛を舞い出した。
いや正気ですかマジでッッ!?!?!?
こんな時まで信長ムーブ醸さなくていいですからッ!!!
「……すまなかった、秀子。君がそこまで私のことを愛してくれていたとは――。私は本当に『大うつけ』だな」
「嗚呼、信長様……」
六長先輩と明智光先輩は、まるで火の精霊から祝福されているかのように、炎に囲まれながら熱い抱擁を交し合った。
うんうん、イイハナシダナー。
……じゃねーわッッ!!!!
これがホントのマッチポンプってか!?!?
いや、まだ絶賛体育館は燃え盛ってる真っ最中だから、ただのマッチだね!(迫真)
「……ぐっ!?」
し、しまった……!
なまじバカップルに付き合っていたばかりに、私も逃げ遅れた……!
「がはっ! ごほっ!」
そのうえ結構煙を吸い込んじゃってたみたいで、頭がクラクラする……。
ヤ、ヤバい……、今ここで気を失ったら、確実に死ぬ……!
た、助けて……。
「――助けて、信長」