第四長 おおおおおお館様……
「うげ……」
「ん? どうしたノウコ?」
「あ、うん、これ……」
「?」
とある昼休み。
お弁当箱を開けた私は、その中身を幼長にコッソリと見せた。
「特に変なところはないように見えるけど、どうかしたのか?」
「……この『ちくわぶ』ね、本当は『ちくわ』だったの」
「……は?」
私は毎日自分でお弁当を作っているのだが、確かに私は朝の時点ではミートボールとゴボウのサラダ、それにプラスしてちくわの天ぷらをおかずとして添えたはずだ。
それなのに今は、そのちくわの天ぷらがちくわぶのおでんに代わっている。
「ど、どういうことだよ……。まさかまた……!」
「うん、多分ね……」
そう、多分犯人は明智光先輩だ。
――私がこの世界に転生して数ヶ月。
明智光先輩はこのように、非常に地味な嫌がらせをちょくちょく私にしてくる。
よく上履きの中に画鋲を仕込んでおくなんてのはイジメとして定番だが、明智光先輩の場合は画鋲ではなく足つぼマットを仕込んでいた(お陰でちょっと健康になった)。
あとトイレに入っていたら上から水をぶっかけられるなんてのもよく見るイジメシーンだが、明智光先輩は紙吹雪をかけてきた。
そのせいで私はトイレで用を足しているだけなのに、何かで優勝したかのような扱いを受けることに……。
どれもこれもイジメとしては微妙にズレているので、こちらとしても怒るに怒れない。
それが明智光先輩の計算によるものなのか、はたまた単なる天然なのかは判然としないが、まあそこまでの実害はないので、放っておいているのが現状だ。
むしろ変に表沙汰にして、逆上されたら厄介だし。
「でもノウコが困ってるのは事実なんだろ? 何だったら俺が代わりに明智光先輩に抗議しようか?」
「い、いやいやいや、絶対やめて!! そんなことしたら、余計エスカレートするに決まってるから!!」
幼長の気持ちは嬉しいけど、こういうのに男子が介入したら却ってこじれるのが目に見えてるからね!
「ハンッ、情けないな、俺様の側室ともあろうものが。逆らうやつはみんな焼き討てばいいものを」
俺長!?
お前は何でも焼き討ちの一本槍だな!?
流石尾張の大うつけ!!
「……ノウコはお前と違って繊細なんだよ。あといい加減ノウコを側室扱いするのはやめろ」
「ハッ、『ノウコは俺が守る』などと嘯いているのみで全然守れていない口だけ男に言われる筋合いはないな」
「何だとッ!!」
「アアッ!? この俺様とやるってのか!? 放課後桶狭間来いやオラァ!!」
私のために内乱はやめてってばッ!!!
「ハーイそこまでデースよー。信長同士、みんな仲良くしーまショー」
「の、信長先輩」
「……ハンッ、興が削がれたな」
フィギュ長先輩……!
最初はただのイタい先輩かと思ってましたけど(辛辣ゥ)、今となってはあなたは潤滑油としてなくてはならない存在です!
「と、いうワケで、放課後はボクと一緒に心の比叡山に火をつけましょうネ」
「は? ――!!」
そう言うなりフィギュ長先輩は、私の前に跪き、私の手の甲にキスをした。
ぬおおおおおおおおお!?!?!?
「あっ!!! 信長先輩ッ!!! 何やってんですかッ!!!」
「テメェ信長この野郎ッ!!! 俺の側室に手を出すとは、火縄銃でドタマぶち抜くぞコラァ!!」
いやホントですよ!?!?
ちょっと褒めたと思ったらすぐこれだ!!
これだから信長は!!
「おおおおお、お館様!! ご乱心ですか!?!? お気を確かに!!!」
あ、蘭丸きゅんもやって来た。
今日も女子フィギュアの衣装が似合ってるね。
ところで君、何でいつも女子フィギュアの衣装着てるの?(素)
「アッハー、ヤキモチデースかあ? 相変わらず可愛いデースねえ、お蘭は」
「っ!? おおおおおお館様……」
――!
フィギュ長先輩は流れるように、蘭丸きゅんをお姫様抱っこしたのであった――!
尊い……!
このイベントスチル、言い値で買おうッ!!
「フッ、ノウコ君、今日の生徒会の定例会議だが、君には私の助手として私の隣に座っていてほしいと思っているんだ」
「――!!」
六長先輩!!!
何でこの教室、当たり前のように先輩達が我が物顔で入ってくるの!?
前から思ってたんだけど、みんな最初から私に対して好感度高杉くんなんだよなぁ。
まあきらメモ自体がそういうゲームなんだけどさ。
どのキャラも攻略難度が低くて、適当に選択肢選んでるだけでベストエンディングまでいけるってのがウリだったからね。
これも世相なのかな。
昔の乙女ゲーは、鬼みたいな難度のゲームもあったらしいけどね。
「ちょっとキンカ頭!!! またあなたはそうやって信長様をたぶらかして!!!」
噂をすれば明智光先輩!
だから私はハゲてないってばよ!!(火影)
あーもうマジで乙女ゲーの世界って大変ッ!!
やっぱ乙女ゲーは画面越しにプレイするのに限るわ……。
しかも来月は文化祭も控えている。
もしもゲーム通りの展開になるなら、そこでとんでもない事件が起こるのだ――。