第三長 キンカ頭がッ!!
「よく来てくれたね。私の名前は織田信長。この学校の生徒会長を務めている者さ」
「あ、どうも……」
ビクビクしながら生徒会役員室にやって来た私だが、そこにいたのは案の定織田信長その人であった(迫真)。
きらメモではこの人は三年生の皇帝人というキャラで、刻目輝高校を統べる『魔王』と呼ばれている。
物腰こそ柔らかいものの、メガネの奥に光る眼光は真剣のように鋭く、見つめられただけで身体が竦んで動かなくなる……!
鵜堂刃衛の心の一方かな!?
「私が『第六天魔王』と呼ばれているのは知っているかな?」
「えっ!? あ、ええ、まあ……」
第六天魔王!?!?
確かに信長はそう呼ばれてたらしいけれども!
「その名に恥じぬよう、私は力と恐怖でこの学校を支配してきた」
「は、はぁ」
それだけ聞くとただの厨二病のイタい人みたいですけど……。
「だが今のままではまだ力が足りない。――そこで君に生徒会の一員として、私を支えてほしいと思っているんだよ、ノウコ君」
「――!」
こ、この展開もきらメモと同じ……!
「い、いや、でも、私なんかが生徒会に入っても、足を引っ張っちゃうだけだと思いますし……」
「そんなことはない。生徒会には君の力が必要だ」
「あー、でもですね?」
「そんなことはない。生徒会には君の力が必要だ」
「……」
「そんなことはない。生徒会には君の力が必要だ」
あー、これもゲームと一緒だわ。
ゲームだとここで『はい』と『いいえ』の選択肢が出るんだけど、『はい』を選ぶまで延々この台詞を言われ続けるんだよね。
つまりプレイヤーに断る権利はないって訳。
はぁー、しゃーないか……。
「……わかりました。精一杯頑張らせていただきます」
「うむ、よろしく頼むよ。共にこの学校を統べよう」
「ハ、ハハ」
乾いた笑いしか出ないよもう。
――そしてこの後の展開もゲーム通りだとしたら。
「信長様ッ!! どういうことですかッ!! こんなどこの馬の骨とも知れない女狐を生徒会に入れるなんてッ!!」
――!
全身から怒気を滾らせながら、黒髪ロングでナイスバディな美女が生徒会役員室に入ってきた。
この人はきらメモでは平等院秀子という名前の三年生の先輩で、何と六長先輩(※第六天魔王信長先輩の略)の婚約者なのだ。
でも六長がプレイヤーキャラに入れ込むのが許せなくて、いろいろとプレイヤーキャラに嫌がらせをしてくる、所謂悪役令嬢ポジだ。
まあ、冷静になって考えてみると、自分の婚約者が浮気したら嫌がらせの一つもしたくなるのはわからんでもないし、そういう意味では悪役令嬢キャラって不憫だよね。
とはいえ、完全に巻き込まれている立場の私には、若干腑に落ちないところもあるが……。
「悪いことは言わないわ、生徒会に入るのはおやめなさい。でないとこの明智光秀子が黙ってなくてよ!」
「――!?!?」
明智光秀子!?!?
えーーーー!?!?!?!?
まさかの明智光秀の女体化とは……!!
確かに悪役令嬢ポジとしては適任かもしれないけどッ!
てか明智光が苗字なの??
うわあ、これ絶対終盤で裏切ってくるやつじゃん……。
「その辺にしておけ秀子。彼女が生徒会に入るのは決定事項だ。部外者である君に、口を挟む権利などないだろう」
「っ! の、信長様……!」
明智光先輩は鳩が火縄銃を食ったような顔をしている(迫真)。
「……くっ! 覚えておきなさいよ、このキンカ頭がッ!!」
「キンカ頭!?!?」
そう呼ばれていたのは明智光秀の方では!?!?
私は別にハゲてねーしッ!!
明智光先輩は殺意の波動に目覚めてそうなオーラを出しながら、ガニ股で出ていった。
……嗚呼、乙女ゲーって実際に自分が主人公になってみると、メッチャ大変だわ。