第一長 比叡山みたいに
「さぁーて、今日もいっちょ推しを攻略していきますかねぇ!」
私は意気揚々とプレステ5の電源を入れ、絶賛ドハマり中の乙女ゲーム、『きらめきメモリアル』――通称『きらメモ』を起動させた。
きらメモは私立刻目輝高校に通う主人公が、多種多様なイケメン達と恋に落ちていくという王道の乙女ゲーだ。
花も恥じらう女子高生が休日の昼間から乙女ゲーなんかやってんのかよという声が聞こえてきそうだが、しゃらくせぇ!!
私は乙女ゲーが好きなんだよッ!!!
文句あっかッ!?!?
そもそも三次元の男はサルばっかだし!!
やつら頭の中24時間子孫繫栄のことしか考えてねーし!!
隙あらば繫栄させようとしてくっし!!
あーヤダヤダ。
その点二次元の男は最高だよねッ!
女子の理想を完璧に叶えてくれるし!
やっぱ時代は二次元よ。
『人間五十年~』
「おっ、もう敦盛の時間か」
私は傍らに置いてある『ぶながっち』を手に取った。
ぶながっちは「自分好みの織田信長を育てよう!」がコンセプトの携帯ゲーム機で、まあ要はたま○っちの織田信長版みたいなものだ。
若干歴女も入ってる私は、きらメモをプレイしつつ、合間にぶながっちで信長を愛でるという黄金コンボを得意技にしている。
これぞたったひとつの冴えたやりかたッ!(迫真)
……おっと、ポテチとコーラが切れたな。
乙女ゲーにポテチとコーラは必須アイテムだからな。
補充してこよ~っと。
私はぶながっちをプレステ5の上に置いてからすっくと立ち上がった。
――その時。
「う、うわっとッ!?」
ずっと座りっぱなしだった私の足は痺れに痺れ、思わずよろけてしまった。
――そしてそのままプレステ5の上に――。
「――ノウコ、起きろよノウコ。もうすぐホームルーム始まるぞ」
「……え?」
だ、誰!?!?
突然若い男の人に肩を揺すられた。
「――!!」
しかも目が潰れそうになるくらいのイケメン――!
目が、目がぁ~!!
「どうしたんだよノウコ? 熱でもあんのか?」
「え――なっ!?」
そう言うなりイケメンは、私のおでこに自らのおでこをぴとっとくっつけてきた。
ふおおおおおおおおお!?!?!?
「うーん、確かにちょっと熱っぽいかも」
「い、いやいやいやいや大丈夫大丈夫ッ!!!」
慌てて私はイケメンから阿修羅閃空で距離を取った。
そりゃあんたみたいなイケメンにおでぴと(おでぴと?)されたら誰だって熱が上がるっつーの!!
おれはかーちゃんのどれいじゃないっつーの!!(ジャイ○ン)
……あれ?
そもそも何で私の部屋にこんなイケメンがいるんだ?
――いや、むしろここは私の部屋じゃない!?
どこかの学校の教室みたいだ……。
教室の中には私とイケメン以外にも何人も生徒が座って談笑している。
……この教室と生徒が着ているブレザーの制服には見覚えがある。
むしろついさっきまでプレイしていた。
――間違いない、ここはきらメモの中だッ!!
「マジで大丈夫かノウコ? 何なら一緒に保健室行くか?」
「ふえ? あ、ああ、ぜーんぜん! ぜーんぜん無問題だから気にしないで!」
「……そうか」
つまり私はきらメモの世界に転生しちゃったってこと!?!?
さっきよろけた拍子にプレステに頭でもぶつけたのかな?
ええぇ……、死因がそれってハズ過ぎる……。
でも、それにしてはこのイケメン、きらメモの中では見掛けたことないんですけど……?
主人公である私の左隣に座っていることからも、幼馴染キャラの菱本光輝君ぽいけど、光輝君は金髪のソース顔なはず。
対してこのイケメンは黒髪だし、どちらかと言うとしょうゆ顔だ。
いや、しょうゆ顔のイケメンもアリよりのアリですけどね!?
「何だよ俺の顔ジロジロ見て? 何かついてるか、ノウコ?」
「あ、ううん! そんなことはないんだけど……」
因みにノウコっていうのは私のプレイヤーネームであり、且つ本名ね!
私は本名をプレイヤーネームにして乙女ゲーをプレイするタイプのオタクなのだッ!(ドヤッ)
……よし、こうしていても埒が明かない。
とりあえずこのイケメンを光輝君と仮定して話を進めてみよう。
「と、ところで光輝はさ」
「は? 光輝? 誰だよそれ? 幼馴染の名前も忘れちまったのかよ。――俺の名前は信長だよ。織田信長」
「っ!?!?!?」
織田信長!?!?!?
ってあの!?!?!?
えーーーー!?!?!?!?
どどどどど、どいうこと!?!?
一体全体、何が起きているの!?!?
「おーいみんな席に着けえ、ホームルーム始めるぞお」
「――!」
その時だった。
担任の先生が教室に入ってきて、気だるい声を上げた。
あの先生はきらメモの先生と同じだ……。
「えー、早速だが今日は転校生を紹介する。おーい、入ってきてくれ」
転校生!?
この流れ自体もきらメモの序盤と同じ――!
きらメモだとここで学ランを着た俺様キャラの、黒塚彰良が転校してくるんだけど……。
――そして肩で風を切りながら教室に入ってきた男は、学ランこそ着ていたものの、やはり黒塚彰良とは異なる顔立ちをしたイケメンだった。
――いや、むしろあの顔は!?!?
「オウ、愚民ども、俺様が『尾張の大うつけ』こと織田信長だ。俺様に逆らうやつは比叡山みたいに焼き討ちするからそのつもりでいろよ」
「――!!!!」
転校生も信長ーーー!?!?!?!?
――その時私は思い出した。
そういえば私が倒れたプレステ5の上に、ぶながっちも置いてたなと――。