第四話 御伽の国の変態王子様
ここは隊長室。
任務のため、朝食を終え隊長室へとやって来た私達を出迎えたのは、御伽の国の王子様だった。
しかし、その彼に一度は恋心で瞳を輝かせていた乙女は、件の彼を終始睨みつけている。
先程の一件以来――。
「だから、今回はとても重大な任務でだな……」
「大体、出会い頭に女子の胸触るなんて、どういう神経してるわけ?!」
「フン。そこに不自然な膨らみがあったから、実体の有無を確かめようとしただけだ。やはり、実体は無かったが」
「なっ、何ですって!」
「お前らさ……俺の話聞いてるかな?」
隊長の説明を聞いている間も、構うことなく喧嘩を続ける二人。
喧嘩というか、一方的に怒るリルと、何故怒られているのか分からない王子様という構図なのだが。
そんなこんなで全く自分の話を聞こうとしない二人に、隊長はため息をこぼしながらも困ったように頭を掻いていた。
私も「やめなよ、二人とも」と口に出してはいるものの、二人とも聞く耳を持ってくれない。
というか、ここまでプライドを傷つけられたリルが暴れているのを、このまま大人しくなだめることなんて、誰にだってできないんじゃないか……?
隊長は「困ったなぁ」と言いながら呆れるだけで怒ることもなく、
私は申し訳なさそうに誤魔化し笑いを浮かべながら、隊長にペコペコと頭を下げていることしかできなかった。
確かに隊長はちょっと残念な感じの人だけど……二人とも、一応、隊長よ?
「というか、アナタ何者なの? 一般隊員が気軽に隊長の部屋に行き来していいものじゃないのよ」
息巻くリルに、彼は飄々とした様子で答えた。
「この俺はそこの隊長殿に呼び出されここにいるのだ。貴様こそ、何用でこんなところにいる。そんな短いスカートを穿いて……ピクニックにでも行くつもりか?」
ミニスカートでピクニックに行く人なんていないでしょうよ、と私は心の中で呟いた。
「何よ、ピクニックって! 私だって隊長に呼び出されたんだから。今日から大事な任務なのよ、アナタみたいな変態と一緒にしないでくれる?」
「何?! 俺のどこが変態だというのだ?」
えっ、まさか自覚がないの。
「はいはい、その辺にしておけ。お前ら三人とも、これから一緒の任務なんだから」
机に座った隊長は、気怠げに頬杖をつきながらボソリと口にした。
やっぱり、三人で同じ任務なんだ。
まあこの王子様が隊長室にいた時点でそんなところだろうと予想はついていたけれど、やっぱり。
とはいえ、この二人、絶対に上手くいかないでしょ……ほら、今だって睨み合ってるし。
「仲違いは任務達成に大きな障害になる。特にリル、シナ。お前ら夫婦喧嘩はほどほどにしとけよ?」
――シナ。そう呼ばれた彼は、涼しげな表情を崩さなかった。
一方、隊長のその言葉に食って掛かったのは、案の定リルだった。
「信じられない! 私とこんな奴を一緒にさせる気なの? この私がこんなに侮辱を受けたのよ! それに、何よ、夫婦って!」
「はは、まあまあ落ち着けって、リル」
「落ち着ける訳ないでしょ! こんな奴がいたら……こんな奴がいたら、私の、きっ、清らかで慎ましいイメージが、台無しになるじゃない!」
そんなことはないんじゃないかな。
「そんなことはないだろ」
「そっ、そんなことあるわよ!」
リルが癇癪を起しているのを、隊長は困ったように笑いながら受け止めていた。
刈り上げられたツーブロックのヘアスタイルに、ダンディな髭。
その屈強な身体も、凛々しい顔立ちも。
彼を「カッコイイ隊長」たらしめる要素は全て意味を失い、我儘娘を前にした彼は、冴えない男の一人になってしまう。
「今回のチーム編成は上のご意向なんだよ、俺の権限じゃどうにもならん」
「そこを何とかしなさいよ! 隊長でしょ」
木製の隊長机をバン、と叩きながら、リルが息巻く。
一方の隊長は困ったように笑いながら、目の前に身を乗り出す彼女をまあまあ、と制した。
彼女を押さえる筋肉質な腕が、何故だかとても弱々しく見えた。
(中間職って大変だなぁ。何だか隊長が可哀そうに見えてきた)
ここで変態王子様が一言謝れば済む話な気もするけれど……。
件の彼はというと、自分のどこが問題なのかイマイチピンと来ていない様子だった。
「まぁ、頼むから仲良くやってくれ、な?」
ハァ、とため息をつきながら、隊長は「面倒くせぇから面倒事は起こさないでくれよ、面倒くせぇからな」と呟いた。
――それにしても、隊長。面倒くさいって二回も言ったなぁ。
納得のいかないチーム編成にぷくりと頬を膨らませるリルと、一切悪びれる様子のないシナ。
二人を見回しながら、私は改めて「今回はこの三人で任務を遂行するのだ」と認識するが。
(開始早々こんな調子で、今回の任務上手くいくのかなぁ)
任務の内容を聞く以前に早速生じている問題点に、私は思わず引き攣った笑いを浮かべることしかできなかった。