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悪役令嬢は躊躇する  作者: 蒼衣翼
運命の学園生活
19/24

ミュスカの知識

 休暇が終わり、いよいよ学園に戻るとなると、リリアが大泣きしてしまった。

 どれほど大切な相手が悲しもうと、学園に戻らない訳にはいかない。ローズとイツキは、後ろ髪を引かれる思いをしながら、屋敷を後にした。

 ローズは密かに思う。


(あの子、あの広いお屋敷で、今は一人っきりのようなものだもの、寂しいのは当たり前ですわ。可哀想なことをしてしまいました)


 もちろん、リリアが小さな頃から仕えている使用人も多いが、所詮使用人は使用人だ。

 屋敷のお嬢様と対等に話せるはずもない。

 友達感覚のイツキが、おかしいのだ。

 だからこそ、リリアもイツキを好きになったのかもしれないが。

 ローズは、今までの自分を反省して、もう少し頻繁に屋敷に戻ることを決意した。


 学園の寮に戻ったローズは、さっそくミュスカとアイネに暖かく迎えられる。

 ローズにとって、もはや家よりも学園のほうが心落ち着くのは、この友人達の存在が大きいのだと自覚してもいた。

 リリアが学園に入学出来るまで後二年。

 それまでなんとか我慢してもらうしかない。

 学園に入学したら、リリアなら、ローズにとってのミュスカやアイネのような、共にいて、安心出来る友達をたちまち作ってしまうだろう。

 純粋で愛らしい自慢の妹を、そういう意味では、ローズは信頼していた。


「それで何か発見はありましたか?」


 普段の大人しげな様子はどこへやら、鼻息も荒くローズに詰め寄るミュスカに、いつまでも感傷に浸っている訳にもいかず、思わずローズも苦笑する。


「ミュスカ、せめてお茶を淹れるまで待って」


 アイネが厳しく言うと、途端にミュスカはしゅんと落ち込んだように小さくなった。


「ごめんなさい。つい、興奮してしまって」

「わかっていますよ。ミュスカは本当に歴史が好きなんですね。そんなミュスカなら、わたくしがわからなかったこともわかるかもしれませんわ」

「まぁ、楽しみです。あ、実家から送って来た干し果(ドライフルーツ)をお茶請けに出しますね」


 ローズは、外歩き用の服装を部屋用のものに着替えて、ついでに部屋に置いていた、屋敷から持ち帰った古い書物を、箱ごと持って共用のリビングへと向かった。

 すでにお茶の用意は出来ていて、二人は期待の顔でローズを見ている。


「あまり期待されても困るのですけれど、わたくしが屋敷の書庫で見つけたのはこれですわ」


 テーブルに箱を置いて蓋を取る。

 古ぼけた書物が、華やかなテーブルやお茶道具とは隔絶した雰囲気を放っていた。


「まぁ、素晴らしいわ! この箱自体がとても古いもののようですね。なかの書物は紙質から考えると、建国の頃よりは少し時代が新しいかしら?」


 準備よく、手袋を嵌めた手で、ミュスカはそっと書物を手にしようとした。


「ミュスカ、ローズに断りもなく触れるのは失礼でしょう?」

「あ、嫌だわたくし……」


 ミュスカが恥ずかしげに顔を真っ赤にしたので、ローズは微笑んでうなずいた。


「大丈夫。貴女方に見せるために持って来たのですもの。触れて悪いはずがないでしょう」

「ありがとうございます」


 ミュスカは勢いよく礼を言うと、今度こそ、念願の書物を手にした。


「『十二家起源』……と、『邪竜の災厄』ですか。これはわたくし、初めて見るものですわ。でも、当然かもしれませんね。このぐらいの時代は、書物は保管用と読むために二冊程度を依頼して作っていたものです。いわばその家にしかない書物ばかりの時代と言っていいでしょう。ああ、とても期待が膨らみます」


 ミュスカの勢いにちょっとだけ引きながらも、アイネとローズも興味深く話に耳を傾ける。

 ミュスカがそっとページをめくると、そこにはぎっしりと詰まった文字のようでいて、飾り模様のようでもある羅列があった。


「なにこれ? 文字?」


 アイネが不思議そうに言う。


「これは古い時代の記録文型ですわ。今は紙もある程度たくさん自由に使えますけれど、昔は紙は貴重で、一枚の大きさも小さいものでした。そこで狭い紙面に出来るだけ多くの情報を載せるために作られたのがこの文字なんです。中心になる文字と、読む方向がわかれば、この一ページだけでも今の書物の何ページ分もの内容が記されているのですよ」

「へえー」


 ミュスカの、まるで専門家はだしの説明に、さすがのアイネも感心を隠せない。


「素晴らしいわミュスカ。わたくし、それが古い文字だということはわかりましたけど、読み方は全く見当もつきませんでした。それに、文字がそうなった理由など、考えもしませんでしたわ」

「いえ、そんな……」


 二人から褒められてミュスカはさらに真っ赤になった。

 実を言うと、ミュスカはこの歴史趣味を家族から馬鹿にされこそすれ、評価されたことは一度もなかったのだ。

 それが学園に入って、友人達から、素晴らしい知識だと褒められることとなった。

 ミュスカが学園に入れて、そしてこの二人と同じ部屋になることが出来て、本当によかったと少し涙ぐんでしまったのも、仕方のないことだったのかもしれない。

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