49話
翌日、旧王都では衝撃が走っていた。王都から見える平原に、昨日までは無かったはずの防壁が築かれていたのだから。
距離にして数キロ程度しか離れていない場所に突如として現れた壁に、民衆は気にはなっているものの、好奇心より恐怖心の方が上回ったのか、誰も近づいたりはしなかった…のだが。
「はい、みんなはぐれないようにしてくださいねー。それでは出発~」
孤児院の職員含めて総勢35人、これを第1陣として新孤児院に連れていきます。その後で王都内を捜索し、スラムなどで必死に生きている子供も連れていこうかと思っています。もちろん希望者のみですが。
昨日の夕暮れから作業を開始、まずは防壁だけど、今後増築を見込んだ孤児院と、その人数が働けるだけの畑を考慮して、長方形におよそ9ヘクタール分を覆う感じで造り上げた。そして4箇所に馬車が通れるくらいの門を設置、敷地内の中央部に孤児院本体を建築。その場所を基点に東側に倉庫と少し離して職員寮。西側を全面畑に利用する予定で、東側は子供達の遊び場所、北側は今後増築が必要になった時に使う敷地とし、南側を正面玄関として整地して馬車を停めるスペースだったり来客用の建物を設置。
徹夜の作業で大まかな事だけなんとか済ませ、これからは院の子供達と職員さんで細かい作業をする予定です。
全員が新孤児院に到着し、旧孤児院で使っていた備品などを収納から出して、重いものだけ先に設置して、残りの作業はエミリアさんに2人つけて作業してもらいます。
私は残った2人の職員を連れて王都内で孤児を探しに行きます。
「それでは、ここでの作業は頼みました。最優先は子供達の寝床なのでお願いしますね」
「はい、お任せください。まさかこんなに早くに実現するとは思っていませんでしたから、これからが楽しみでしょうがないです」
「ふふっ、私も頑張りましたから。一睡もしてませんから!」
「途中で倒れたりしないでくださいね、アリシア様も気を付けて行ってきてください」
南門、この新しい孤児院ではこの門が正門となります。南門から出ると旧王都が見えます、職員さんと3人で徒歩で向かいます。
「弱って歩けない子もいると思うので、まずは馬車を借りてきましょうか。どこか伝手があったりしますか?」
職員さんによると、伝手は無い物の前金で払えば誰でも貸してくれる業者があるそうで、まずはそこに向かいましょう。職員も5人じゃ絶対に足りないと思うので、その辺も考えなければいけませんね
冒険者ギルド王都支所
「なに?あの突然現れた壁に孤児院の連中が向かっていっただと?いったいどういう事だ」
「わかりませんが、見ていた者によりますと、3~40人程の子供が歩いて向かっていき、門の中に入ったところまで確認しています」
ギルドマスターは報告を聞きながら考えていた。
「気にはなるが現状は様子見だな、他国を相手にするので手一杯だ。誰か監視につけておいてくれ」
「わかりました」
サブマスターがギルドマスターの部屋を出てロビーに向かったが、ギルド内のロビーは閑散としていた。受付カウンターには5人の受付嬢が並んでいるが、受付業務をしている者は誰もいない程だった。
「冒険者はみんな出払ってしまったのか。仕方がない、おい!誰かあの壁の向こう側を調べてこい、そうだな…キャシー、お前が行ってこい。1人連れていっていいぞ」
「え?あんな怪しい場所に行くんですか?」
「これはギルマスの命令だ、拒否権は無い」
「…わかりました」
キャシーは立ち上がり、他の4人の受付嬢を見た。 全員が目を合わせないように下を向いていたのだった。
「ちょっとみんなひどくない?こっち見てよ!」
「あー私、ちょっとお腹が痛くて」
「私も体調が…」
「マーラ!一緒に行くよ!準備して!」
「ぇえ?ご指名ですか!」
「そうよ!もうこうなったら全部調べてやろうじゃないの!行くわよ!」
キャシーはマーラの手を引き、マントを羽織って外に出ていった…
旧王都近郊
もうすぐ町に着くという所で、マントを羽織った女性が2人歩いてきました。街道から逸れているので、どう見ても行き先は私の孤児院のようですね、声をかけてみましょうか。まだ営業開始はしていませんからね。
「こんにちは、貴方達はどちらまでいくのですか?あの孤児院はまだ開業していませんが」
「あ、こんにちは。あれって孤児院だったんですか?私はギルドの職員なのですが、あれがいったい何なのか調べに行くところだったんですよ」
どうやら調査隊(2人)だったようです。まぁ隠す事などありませんので説明して差し上げましょう
「あの場所は確かに孤児院です、私が院長のアリシアと申します。ギルドとは直接関わる事は無いかもしれませんがよろしくお願いします」
「え?アリシアって…使徒様ですか!? あっ私はギルド職員のキャシーと言います、こちらはマーラです」
その場で少し話をして、これから馬車を借りて王都内の孤児を引き取ろうとしていることを伝えると、2人が協力してくれることになりました。
「アリシア様、私も職員として雇ってもらえませんか?もうギルドで働くのが嫌になったんです!」
「そうなんですよ!ギルドマスターが亡国をまとめ上げて自ら王になろうとしているんです」
「え?ギルドマスターにそんな権限があるのですか?」
「いえ、これは明らかな越権行為です。間違いなくギルド本部からは絶縁となり、事と次第じゃ新たな戦争が起こってしまいます」
「そういえば、北からポテチ王国軍が来ていましたね。私が王都の近くにいる事は伝えてありますので来るかもしれません」
「その情報が入ればギルマスは挙兵しますね、全員冒険者でしょうけど」
「しかしまぁ、職員として雇い入れるのは問題ありませんよ。ただ、ギルドとは円満に退職してきてくださいね」
「わかりました!もう今から辞表を叩きつけてやりますよ!」
「いや、円満にって言った傍から…」
その後、案内された業者から馬車を借り、私達は孤児を探しに、そしてキャシーさんとマーラさんは辞表を叩きつけに行くとの事で、一時お別れとなりました。
そして夕刻まで探してみて、引き取れた孤児は15人。他にも大勢いたらしいのですが、先日のクーデターに参加して、それなりのお金を手に入れて宿に泊まったりしているそうです。
15人を馬車に乗せ、町を出ようとしたところでキャシーさんとマーラさんが待っていました。
「あの!私達が寝泊りできる場所はあるんですか?」
「ありますよ、職員さん専用の部屋を用意してあります」
「そうですか、それではすぐにでも引っ越ししたいんですけどいいですか?」
「もちろん構いませんよ、なんでしたら私が荷物を収納して運ぶくらいしますけど?」
「本当ですか?ぜひお願いします!大急ぎで片付けますので、用意が出来たら孤児院の方に向かいます」
「わかりました、お待ちしております」
職員2人手に入れました。 それにしても、円満に退職できたのでしょうか?




