32話
のんびり不定期連載です
現存する調味料を駆使して作った、牛スキの卵とじは、子供達だけではなく職員さんにも大好評をいただきました。この孤児院の院長先生は、「コカトリスの卵なんて初めて食べました」と、涙しながら食べていましたね。
たしかに私もこの世界では公爵家の令嬢として生まれましたが、卵料理は食べた事なかったですから、とても貴重な食材だという事です。商業ギルドの職員さんが目の色を変えるわけですね。
そういえば冒険者ギルドでコカトリスの卵の依頼票を見た時、報酬がどれほどだったのかを確認するのを忘れていましたね。売る気は無いのでいいんですけど、価値くらいは知っておいた方がいいかもしれませんね。
夕食タイムは大好評のうちに終了し、使いきれなかった卵と牛肉は収納して保存。明日はコカトリスのから揚げでも作りましょうかね、そのためには解体しないといけませんが、孤児院の職員さんはやった事が無いというので、冒険者ギルドに行って解体だけ依頼しましょうか。どれくらい時間がかかるものかも知っておきたいので朝から向かいましょう。そして付きっ切りで観察して解体を覚えましょう。収納の中には3羽いますから、今後は自分でできるようにした方がお得ですよね。
寝る前に全員にクリーンをかけて子供達は就寝、職員さん達は最後の片付け、私は桶で湯あみ。今日はいっぱい走りましたからね、髪にもお肌にも潤いが必要なのです。
セリカ王国とローレル王国の国境付近
「まずいな、そろそろ手持ちの金貨が無くなってしまう。帰りを考えればすでに危険水準だ」
魔導馬車に積んであった金貨を入れた箱の中を見ながらフェブリー公爵は呟いた。冒険者を4人雇って護衛として使っていて、それでいながら日々の食事は妥協しないで購入しているせいなのだが。
「旦那様、一度戻った方が良いと具申いたします」
「うむ、それはわかっているのだがな、アリシアの痕跡が残っているからそろそろ追いついても…と思ってしまうのだ」
「しかしローレル王国も広うございます、追いつく前に路銀が尽きてしまう可能性の方が高いと思います」
「仕方あるまいな、明日の朝には引き返して一度国に戻ろう。そして金を補充しなくては前に進めん」
つい先日起こっていたガーナ王国内での広範囲で起こった暴動についての情報は届いておらず、特に大規模でひどかった公爵領がどうなっているのか、残してきた家族がどうなっているのかを全く知らないまま戻る決断をしたのだった。
馬車の中で夜を明かし、朝食をとるために護衛も含めて全員が集まっていた
「残念だが一度国に戻る事にした、冒険者どもはガーナ王国まで引き続き護衛の仕事をやる。帰りも急ぐから遅れんようにな」
一方的に予定変更を言い放ち、馬車の中に入っていくフェブリー公爵と従者。
「おうおう、西に行くって言うから受けた仕事なんだがな、急に東の果てまで戻るのかよ」
「そういえばこの貴族、使徒サマの父親だとか言ってたけどよ、ガーナ王国の貴族って加護を取られたんだろ?コイツはどうなんだろうな」
「魔法を使っている感じはしないよな、わざわざ水場で体を拭いてるくらいだし」
「まぁ相手は一応公爵サマだ、迂闊な事はしないように様子見して行こう」
「そうだな、東へ戻されるのは嫌だけど、金払いはいいからな」
護衛依頼を受けていたCランクパーティの4人は、使徒アリシアの父親だという話は正直信じていなかった。しかしながら護衛依頼の中では高額な報酬が日払いで支払われるという好待遇に惹かれ、ガーナ王国まで働く決断をし、来た道を引き返すのだった。
カムリ王国王宮
「まだ使徒を見つけられないのか!もう何日経っていると思っているのだ」
「報告ではセリカ王国で目撃して以降足取りがつかめていないそうです」
「言い訳など聞きたくもない!早急に見つけ出して連れてくるのだ!」
「はっ」
報告に来ていた兵を追い出し、玉座に深く座り込む。
「連れてくる事さえできればいいのだ、王である儂の側姫になれるのだから、月に1~2回程度抱いてやれば従順に従うだろう。そうなれば使徒の力は儂の物となるだろう、そして使徒を妻に持つ儂の威光が世界に轟くであろう。生きている内に大陸全土がカムリ王国となる日が来るかもしれんな」
カムリ王国、国王の呟きは近衛兵がしっかりと聞いていた。兜を装備しているため顔色を窺われる事は出来ないが、内心冷や汗を流しながら動揺を抑えるので精一杯の状況だった。
(この国もガーナ王国の二の舞になるかもしれん、王妃様の言っていた事は本当だったんだな)
玉座の間の警備をする近衛隊長は、仕事が終わって家に戻ったら、せめて家族だけでもこの国から出国させようと心に決めたのだった。
ローレル王国王都
夜が明けました、子供達と職員さん達には昨日の残りの卵を焼いて朝食とし、それぞれが仕事を探しに孤児院を出ていきます。私もコカトリスの解体と、解体作業の手順の教授を依頼するために冒険者ギルドへ向かいます。
朝一番のギルド内は大変混みあっていました、依頼を貼っている場所や受付カウンターは大混雑です。これは失敗しましたね、昨日のうちに依頼を出しておくべきでした。最悪今日は受けてもらえないかもしれません、がっかりです。
「こんな所で何してるの?確か冒険者じゃないって言ってなかった?」
おや、こんな場所で声をかけてくるような知り合いはいないはず…っと、先日のエルフさんじゃないですか。
「ギルドに仕事を依頼しようと思って来てたんですけど、あの人ごみの中に行くのを躊躇してしまい、人が減るのを待っているんです」
「そうなんだ、そういえば名乗ってなかったね、私はサーシャ、見ての通りエルフだし見た目通りの年齢じゃないよ」
「私はアリシアといいます、恐らく見た目通りの年齢かと」
あ、ついつい本名を言ってしまいました。しかしまぁ冒険者として登録していた僅かな期間、シアと名乗る事も大してありませんでしたし、馴染む事は無かったという事ですね
「アリシアっていうんだ、ふーん。ところで何を依頼しに来たの?」
「コカトリスの解体作業を実演しながら教えて欲しいと思いまして」
「コカトリスを?アレは単体を相手にするのでも最低Bランクは必要だし、番だったらAランク相当の魔物だよ?実演するにも物が無いと思うけど」
「あ、それは用意できるので大丈夫です。なので体一つで受けてくれるという方を探しに来たんです。できれば今日中に」
「用意できるんだ…ちなみに報酬はいかほど?」
「ちょっと相場がわからないので受付で相談しようと思ってました、それにコカトリスのお肉を少し付けようかと思っています」
「なるほど、まだ受け付けていないんだよね?ちょっとそのまま待ってもらっていい?私達が受けようと思うから仲間を連れてくる」
「そうですか?それならば私は構いませんが」
エルフのサーシャさんはそう言い残すと、人ごみの中に突撃していった




