25話
のんびり不定期連載です
「貴女には陛下の15番目の妻の座が与えられます。この名誉に応えるべく心身ともに陛下に捧げてください」
「はぁ?」
突然現れたこの男性は、いきなり何を言っているのでしょうか?これから私は夕食をいただいてお風呂に入るんですよ?蹴りますよ?
「蹴りますよ?」
「は?蹴るんですか?」
失敗失敗、心の声が漏れてしまいました。でもこれは蹴っていいですよね、相手は3人ですか…一撃で仕留めるのは難しそうですね、どう立ち回れば最小の労力でこの事態を収められるか…
「あの、それでは町の外に魔導馬車が用意してあるのでそれに乗ってカムリ王国まで向かいます。我が国の魔導馬車は性能が良いので、6日もあれば王城に到着しますのでご安心を」
まだ寝惚けたことを言ってますね、もう蹴ってしまいましょう。お風呂が待っているんです
そう考えた瞬間、全身に強化魔法を施し、私と対面している3人の位置関係を把握してからクルリと1回転、後ろ回し蹴りですよ!かかとは人体に於いてもとっても硬い部位です、更に遠心力で威力を高め…
ゴキッ!
先頭にいた男性の側頭部にヒット、吹き飛んだ男性はそのまま後ろにいた別の男性に頭から突撃。一瞬時間が止まったかのように固まる残った男性に対し、この隙を逃さず回転力を生かしたまま回し蹴り!
バキッ!
ふぅ戦闘終了です。一瞬の出来事でしたが汗をかいてしまいましたね、やはりお風呂に入らなければいけません。周囲が騒ぐ前に撤収ですよ!
何事も無かったかのようにそそくさとその場を立ち去り、宿屋に吸い込まれていった。店番をしていた従業員に、自分への来客を断るよう告げて食堂に入っていった
「しかし、一体何なんですかねアレは。カムリ王国の国王の妻?アホじゃないですかね、そんなものに興味はありません。今更ながら、アレが王家の使いだったとするならば、1回蹴られたくらいでは諦めて帰ったりしませんよね…。ま、明日まで凌げれば大丈夫ですよね」
夕食をいただき、お風呂タイムの始まりです。この世界では正確な地図というのは軍事情報扱いになるので出回っていません。よって、どの辺にどんな街があるかという情報は手に入っても、詳しい情報は現地に行かなければまず手に入りません。
なので、この先お風呂がある宿屋に泊まれるかどうかというのは、初見で旅をしている自分には予定を立てる事ができないんですよ。だから入れる時に入っておかないといけないのです!これは使命なのです。
「ふぃ~身も心も溶けるようです。 さて、ギルドへの報復はどんな感じにしましょうかね。加護の力を半減させる…とかできるのでしょうか」
『もちろん可能であるぞ?』
「わお、相変わらず唐突ですね。そして可能なのですか」
『うむ、それくらい容易い事だ。あのギルドという組織の連中の加護を半減させればいいのか?』
「そうですね、さすがに保護するべき冒険者の情報を本人の許可なく外部に売り飛ばすなんてありえないですから。それに、今それを対処しておけば、同じような考えを持った者に対して牽制する事にもなります。明日、私がこの町を出てからお願いできますか?」
『任せるがよい、其方の進む道を妨害するものなぞ許すという選択肢はないからな』
「その、ほどほどでお願いしますね」
お風呂を済ませ、部屋に戻るために廊下を歩いていると、受付カウンターのあるロビーで話し声が聞こえます。先ほどの者達でしょうか… そのようですね
はぁ、2日連続で宿泊客に会いに来た者が騒ぎを起こすなんて、私はとんだトラブルメーカーだと思われているんでしょうね。風評被害ですよねこれ? さてどうしましょうか、気配を極限まで薄める魔法を今ここで考えますか。
うーん、気配を消す…見え難くする、やはりここはSFなんかでは常識の技術である光学迷彩がいいんでしょうか。カメレオンとかタコなんかは背景となる色や模様なんかを自身の体に投影させてどうのこうのって聞いた記憶がありますね、つまり…壁の板模様を自分の前面に見せつける事によって視覚的にごまかせば良いんですよね、ちょっとやってみますか。
すでに日が沈み、受付カウンターの周囲にある魔道具の明かりしかないので、微妙に薄暗い感じなので、ぶっつけ本番でやってもごまかせそうですね。
イメージとしては背景となる壁の色合いをコピーして投影するような感じでしょうか、光の反射とかを変えるだけで認識し難くなるという話も聞いた事がありますね、しかし難しい事はまた今度にしましょう。今は気づかれずに部屋に戻り、ベッドに入れればいいのですから
壁と似たような模様を魔法障壁に投影し、壁に成りすましてコソコソと進んでいきます。 おや?4人いますね、先ほど蹴り飛ばした3人にプラス知らない男性が1人。ああ、もしかしてギルドマスターなのかもしれませんね。 だからといって無駄な時間をお付き合いするつもりはないので今の内にやり過ごしてしまいましょう。
ふむ、これはなかなかどきどきしますね。見つかってしまうかもしれないという緊張感が…ちょっと楽しいかも。 階段を静かに上っている最中に店主さんが勝利したようで、4人はすごすごと宿屋を出ていきました。憲兵に突き出すとか言われたのでしょうかね、でもこれで静かに眠れそうです
朝です、快適な目覚めです。
朝食をいただいたら早々に町を出ていきましょう、のんびりしているとまた昨日の人達が訪れるかもしれません。知らない王様の嫁になるなんて御免被りますからね、そもそも私には嫁になるという選択肢はありません、むしろ嫁が欲しいのです。
討伐を依頼された対象は残り2体、グリーンドラゴンとホワイトドラゴン。これさえ倒してしまえば私の使徒としてのお勤めもめでたく完了します、そうしたら私もどこか住みよい町を見つけて、可愛い彼女を作り、孤児院でも開きましょうかね。
同性同士の色恋は、男性同士も女性同士も普通にありますから大した問題ではないでしょう。やはり目標を持つというのは大事な事ですよね、国を出た時は自由になれた事に喜びを感じていましたが、今となってはそれだけじゃ足りませんね。
もっともっと楽しい人生を送りたいものです。
それではグリーンドラゴンが潜む地、クリーム王国を目指して出発する事にしましょうか。
朝食を終えて宿から出るのであった




