その163
誤字報告いつもありがとうございます。
「ん、良い子ですね。もちろん私もそのお手伝いをしますので、スクリューアローに磨きをかけてください。願わくばその魔法でミノタウロスが討てるよう…」
ミルフィの頭を撫でながらお話をしていると、馬の歩く音と馬車の車輪が転がる音が近づいてきました。
先ほど門の前にいた馬車と護衛部隊ですね… どうでも良かったので気にしていませんでしたが、こっちに向かって進んでいたのですね。
しかし、良い雰囲気の時には無粋な音である事は明白。ちょっと機嫌が悪くなりますよ? 全くもう… おや?
なんと騎馬に乗った騎士の1人がこちらに向かって来ます… 高貴な護衛対象を守るための障害だと認定されてしまいましたか?
傍目から見ると、私とミルフィはどちらも小柄で、とても脅威の対象には見えないと思うんですが… まぁ見た目だけは… ですけど。
まぁただ、不審点をあえて挙げるのでしたら… このような場所に小娘が2人だけで佇んでいる、そして浮遊板の上に座っているので、浮遊板を知らない人が見れば空気椅子での苦行中に見えるのかもしれませんね… そんな事をする人がいるのかどうかは不明ですが。
ミルフィも気づいたようで、近づいてくる騎士の方を見ています。
しかし1騎だけという事は、特に敵対をしている感じではありませんよね。まぁ邪魔だからどこかに行けとか言われたら… どうしてやりましょうか、蹴り飛ばしますかね。
「あの、馬上から失礼いたします。恐れながら使徒様でしょうか? 国王陛下の命でお迎えに上がりました」
え? あの国王様が私を迎えに? 確かに今日来るとは言っていましたが、こうまでピンポイントで私の居場所が分かるなんて… なかなかやりますね。
「あの… こちらにいらっしゃるという報告がありまして… それであの、白いドラゴンの方はいかがなされたのでしょうか?」
「ああ、あの子は別の場所で待機しています。数時間いるだけで大地が凍ってしまいますので」
「そ、そうですか。それでは馬車をご用意してありますので、あちらに乗って頂ければ…と」
「さて、どうしましょうかね」
「お姉様にお任せいたします」
「そうですか? どの道歩いていくつもりでしたから、その手間が省けたと思う事にしますか。では、案内よろしくお願いします」
「はっ! こちらへどうぞ!」
騎士は馬から降り、手で馬を引きながら先導してきますので、それについていきます。座っていた浮遊板は収納したので荷物はありません、ミルフィは多少警戒するように周囲に気を配っていますが、現状何かあったとしても対応できるようにしておきましょう。
普段使っている魔法障壁は、中が見難いようあえて色を付けていますが、透明にだってできるんですよ? ただ強度が少々下がってしまいますが…
「どうぞ中へ」
案内されたのは先ほどから見えていた豪華な馬車でした。まぁ馬車はこれ1台しかないので分かってはいましたが、これ程の馬車を用意するとは… ただの見栄ではなく戦意が無いという表れなのでしょう。
騎士の人に手を差し出されましたが敢えて無視し、ピョンと飛び乗りミルフィに手を差し出します。貴族の令嬢であればエスコートの手を取るくらい大したことは無いのですが、全身鎧で篭手までつけていたのですから手汗とか気になってしまいますよね。悪気はないのですが衛生面の都合で無視させていただきました。
馬車の中には20代後半と思われる侍女が2人いて、座席へと案内されます。手際の良さから察するに、侍女の中でも相当上位の方なのではと推察できます。王妃様や王女様とかのお付きなのでしょうかね、気品を感じる程の佇まいで迎えられました。
座席に着くと馬車の扉が閉められ、向きを変えて王都の方へと進んで行きます。
乗り心地はというと… さすがに浮遊板で持ち上げた馬車よりも悪いですね。まぁ大地にダイレクトなので仕方がありませんが。
「この速度だと王城まではどのくらいかかるのですか?」
侍女の1人に聞いてみます。
乗り心地重視だからなのか、少々のんびりと走っているんですよね…
「はい、おおよそ2時間ほどかかってしまいます。お不便をおかけして申し訳ありません」
「いえいえ、まぁ確かに走った方が速いとは思いますが、せっかくのご厚意なのでお受けします」
侍女の方は深々と頭を下げ、所定と思われる位置へと下がっていきました。
しかしこれ、王家専用の馬車なのではないですかね? 広いし侍女のスペースまで完備してますし、揺れさえ我慢できればかなり快適な移動手段になる事でしょう。
侍女の方達は国王様にどのように言いつけられてきたのかは知りませんが、緊張した空気がヒシヒシ感じられます。そんな空気を察してか、ミルフィまでなにやら緊張している様子… どうしましょうか。
お茶を飲むには馬車が揺れますし、この空気の中で世間話をするのもハードルが高いです… 仕方ありませんね、ここはミルフィの肩でも抱き寄せて、彼女の緊張をほぐすとしましょう。
車輪の転がる音が結構しているので、耳元での内緒話であれば侍女の方達の耳には入らないと思います。まぁ何かしら盗聴系の魔道具が仕込まれている可能性はありますが、聞かれて困るような話をしなければ済むだけです。
それでは決行します! 隣に座っているミルフィに身を寄せて、そっと肩に手を回して引き寄せちゃいます。なんか良いですね! こういうのも! しかもですよ… ある意味ここは敵地でもあるのです! 漫画やアニメであればクライマックスのシーンみたいじゃないですか!
「お姉様…?」
「どうしました? 緊張でもしてるのですか?」
「はい…その、そうですね。勢いで突撃するものと思っていましたので、この展開に少し驚いています」
「心配はいりませんよ。見えていませんが魔法障壁はすでに張ってありますし、なによりミルフィには傷一つ付けさせませんから。そんな事になればカラメル様にお叱りを受けてしまいますからね」
「はい、そこは心配していません。自分でも身を守れるくらいの事はしようと思っていますし、お姉様の隣が一番安全な場所だというのは良く知っていますし」
そんな事を話しつつ、豪華な馬車は王都の中を突き抜けて王城へと辿り着きました。
停車場で馬車から降りると、今度は近衛兵と思われる上品な鎧を着た騎士達が先導していく事になり、馬車の中で一緒だった侍女の方々を背後につけて王城の中を進んで行きました。




